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幼馴染みと大陸横断鉄道~トキオ国への道~  作者: ルト
第2章 ギアボックスへの旅路
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第17話 ベル・スター強盗団

 レミントンで停車しているアークティク・ターン号の2等車で、オレとライラは過ごしていた。


「ビートくん、なんだか予定が狂っちゃったね」

「仕方が無いよ。こういうこともあるさ」


 不満そうなライラを、オレはそう云ってなだめる。

 何が起こったのかと云うと、高速貨物列車の通過待ちだ。


 レミントンに到着する前に、アークティク・ターン号は列車強盗の襲撃を受けた。

 オレとライラは共に列車強盗に立ち向かい、なんとか列車強盗を退けることができた。しかし、アークティク・ターン号は損傷を受けてしまった。損傷を受けた部分を修理してからでないと、次の駅に向かうことはできない。そのため、現在は修理を受けた車両が整備士たちの手で修理を受けている。

 そして修理に時間を取られてしまい、後から来る高速貨物列車をこのレミントン駅で通過待ちしなくてはならなくなった。本当なら、次の駅で停車してから通過待ちするはずだった。当然、次の駅での停車時間も変わってくる。オレたちの予定は、大きく狂ってしまった。


 次の駅でのんびり過ごしつつ、トキオ国のことを知っている人を探すつもりが、こんなところで時間を潰すことになるなんて……。

 予定していたことが大きく狂ってしまうと、何もする気が起きなくなってしまうことがある。今のオレたちは、まさにそんな状態になっていた。


「退屈ね……」

「珍しいな。いつもならオレに抱き着いてきたりするのに……」

「今は、そういう気分じゃないの……ビートくん、ごめんね」


 いや、いつでもそういう気分だったら、オレの身体が持たないから!

 ライラにそうツッコミを入れようとした時だった。



「なっ、なんだお前たち!?」

「やっ、やめろ! 銃を下ろせ!!」

「だっ、誰か――!!」


 パァン! パァン!!

 ダァン!!



 助けを求める声と、数発の銃声。

 それらが連続して、貨物用ホームの方角から聞こえてきた。


「ライラ、今の聞いた!?」

「ビートくん!!」


 ライラの目を見て、意思を確認したオレは、頷いた。

 すぐにソードオフを手に取り、ショットシェルを装填した。ライラもリボルバーをホルスターから取り出し、弾丸が装填されていることを確認してから、ホルスターに戻した。


「また強盗かな……強盗連合、復活したりしてないよな……!?」

「ビートくん、今度は絶対に、連れ去られたりしないから!!」


 ライラとオレは視線を交わして頷くと、個室を出て貨物用ホームを目指した。




 貨物用ホームに辿り着くと、すでに鉄道騎士団が来ていた。


 さすがは、レミントン駅の鉄道騎士団だ。

 全員が新式ライフルで武装している。


「なんだ、君たちは!?」

「アークティク・ターン号の乗客です。応援に来ました!」

「子供の来るところじゃない! 早く列車に戻りなさい!」


 風格のある騎士が、オレたちに向けて云う。

 衣服に縫い付けられたバッヂから、おそらく騎士団長だろう。


 その直後、別の騎士が声を上げた。


「もしかして……車掌たちが話していた、ソードオフを持った少年と、銀髪の獣人族の少女か!?」

「そうです! 僕はビートで、隣にいるのがライラです!」


 オレが云うと、ライラはスカートを軽く上げて会釈した。その姿はどう見ても、育ちのいい少女にしか見えない。しかし、腰辺りに提げたリボルバーが、ただの少女ではないことを物語っている。

 騎士団長も納得してくれたらしく、軽くうなずいた。


「わかった。だけど、ここはなるべく我々に任せてくれ。強盗から乗客や列車の安全を守るのは、我々に課せられた使命だからな」

「分かりました。僕たちは援護をします。ところで、強盗は?」

「参ったよ。相手はベル・スター強盗団なんだ」


 ベル・スター強盗団。

 その言葉に、オレは驚いた。


 本当に、あのベル・スター強盗団なのだろうか?

 だとしたら、これは厄介なことになってきた……。


「ビートくん……?」


 ライラが首をかしげるが、オレはそれに気がつかなかった。

 万が一にも、本当にあのベル・スターが出てきたとしたら……。


 オレはしばらくの間、その場で考え込んでしまった。




 オレの考えている時間を終わらせたのは、1発の銃声だった。


「全員、構え!」


 騎士団長の叫び声で、騎士たちが一斉に新式ライフルを構えて、貨物用ホームから外の線路へと向ける。

 よく目を凝らすと、線路脇に置かれた貨車や木箱の影に、銃を持った強盗らしき人影が見えた。列車強盗であることに、間違いはないだろう。


 オレはソードオフを構えようとしたが、もう一度貨物用ホームから線路脇までの距離を確認した。

 ダメだ。距離がありすぎる。

 ここでは、ソードオフの利点は活かせない。


 オレはソードオフをホルスターに戻し、リボルバーに持ち替えた。


 その直後に、再び銃声が鳴り響き、銃撃戦が始まった。

 騎士団が貨物用ホームから線路脇に向けて撃ち、反撃するかの如く、線路脇からも弾丸が飛んでくる。


 しかし、さすがはレミントンの鉄道騎士団。

 次から次へと強盗を銃で仕留めていく。


 銃の腕前は、鉄道騎士団のほうが圧倒的に上だ。


「ライラ、怖い?」

「ちょっとだけ。ビートくんがそばに居てくれるから、大丈夫よ!」


 ライラはそう云って笑うが、表情は少しだけ引きつっていた。

 無理もない。こんなに連続して強盗と撃ち合うことなんて、最近はほとんど無かったのだから。


 オレは覚悟を決めると、ライラの目を覗き込んだ。


「ライラ、ここを動かないで、騎士団と共に強盗団をけん制してくれ。オレはこれから、やることがある」

「ビートくん……?」

「大丈夫だ。オレは死んだりはしないから!」


 オレの言葉に、ライラは頷いた。

 その表情には、安心した様子が見て取れた。ライラはいつも、オレのことを信じてくれる。


「うん。ビートくん、後でいっぱい撫でてね」

「あぁ。嫌というほど撫でるよ!」


 そう告げて、オレは駆け出した。

 向かう場所は、弾丸が飛んでくる、その先だ――。




 線路に降り立ち、ホームの影から線路脇の様子を伺う。

 思った通りだ。

 オレは目の前の光景を見て、眉間にシワを寄せた。


 鉄道騎士団によって次々に仲間を殺された強盗団は、劣勢に立たされていた。


「くそっ、撤退だ! ズラかれ!!」


 強盗団の頭領、ベル・スターが告げて、強盗たちは逃げていく。

 強盗団が逃げ出すと、オレはすぐにベル・スター強盗団を追いかけた。


 強盗団たちは、線路伝いに逃げていく。

 追跡は、とても楽だった。




「あれだけ成功すると約束してくれたのに、どういうことなんだ!?」


 追跡を続けていったオレは、留置された貨物車の影で、ベル・スター強盗団が揉めている光景に遭遇した。

 貨物車を背にして立つ獣人族白猫族の少女。腰にはホルスターをつけていて、頭には赤い羽根のついた帽子を被っている。動きやすいように、ぴっちりしたパンツ姿だが、どこか気品のある雰囲気を漂わせている。

 間違いない、お尋ね者のベル・スターだ。


 そのベル・スターが、部下らしき男たちに囲まれていた。


「それは……」

「頭領! 人を傷つけずに仕事をするなんて、できるわけがないって何度も云っているじゃないですか!!」

「ダメよ! 義賊は人を傷つけてはならないの!」

「甘いですよ!! だから今日もこうして、仲間が何人もやられた!!」

「トニーも! グレンもやられた!! ビッグ・アイズまで!! 頭領! こうなったらあんたには、責任を取ってもらうしかない!!」


 すると、1人の男がベル・スターに銃口を向けた。


「あんたはもう頭領じゃない! 俺たちの中から、新しい頭領を任命することにしたんだ!!」


 その言葉を合図にしたかの如く、次から次へとリボルバーやナイフが、ベル・スターに向けられていく。

 強盗団の内部分裂だ。

 オレは初めて見た光景に、目が釘付けになってしまった。


「ここで死んでもらう!!」

「ちょっと、止めなさい! 頭領は、この私です!!」

「もうあんたは頭領なんかじゃない! ただのメス猫だ!」

「そうだ! メス猫なら最後に、俺たちの相手をしてもらおう!」


 ひとりの男がそう云ったのを皮切りに、次々に男たちの目が変わった。

 血走った目になり、ベル・スターの身体をいやらしそうに見つめている。


「いっ、嫌ぁっ!!」

「さぁて、まずはこの俺から――」


 その直後。

 オレはベル・スターに手を出そうとしていた男を、リボルバーで撃った。


 ダァン!!


 銃声が轟き、男の動きが止まる。

 男はその場に倒れ込んだ。


「てっ、鉄道騎士団だ――!!」


 違うってば。

 オレはそう思いながら、次の男を撃つ。

 弾丸が命中し、男は倒れた。


 オレはリボルバーを連射し、ベル・スターを取り囲んでいた男たちを、全員撃ち殺した。

 リボルバーが火を吹き終えると、そこに残ったのは、頭領だったベル・スターだけになった。




 辺りに倒れた部下たちを見て、ベル・スターもリボルバーを取り出した。


「そ……それ以上近づいてみなさい! ただじゃ済ませないわよ!?」


 ベル・スターがオレに銃口を向けるが、その手は震えていた。

 無理もない。レイプされそうになっていたのだから。

 きっとオレのことも、レイプをしに来たか、撃ち殺しに来たと考えているのだろう。


 だが、オレにレイプの趣味はない。

 それに、これ以上撃ち殺す気もない。


 オレはソードオフに持ち替えると、ベル・スターに銃口を向けた。


「武器を捨てろ!! さもなくば撃つ!!」

「……!!」


 オレが警告すると、ベル・スターはあっさりとリボルバーを捨てた。

 やっぱり、ソードオフを突きつけると、ほとんどの人は要求に従ってくれるな。

 便利だけど、悪用したらいけないな。


 オレはベル・スターに近づいていき、正面に立った。


「……負けたわ」


 ベル・スターはそう云うと、両手を頭上に挙げた。


「年貢の納め時ね。あなたが鉄道騎士団なのかそうじゃないかは分からないけど、さっさと私を捕まえなさい。賞金稼ぎなら、大金貨30枚よ。それとも、あなたも私の身体がお望み? 私の運も、これで尽きたわね……」


 半ば捨て鉢になっているようだ。

 オレはそう思いながら、ソードオフをホルスターに戻した。


 そっと、オレはベル・スターに手を差し伸べた。


「もう大丈夫だ。マイラ女史」

「えっ……!?」


 オレがベル・スターに対して放った名前。

 それは間違いなく、ベル・スターの本名だった。




 オレから本名を呼ばれたベル・スターは、丸い目でオレを見つめた。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

感想、誤字脱字、ご指摘、評価等お待ちしております!

次回更新は12月18日の21時となります!

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