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幼馴染みと大陸横断鉄道~トキオ国への道~  作者: ルト
第2章 ギアボックスへの旅路
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第16話 お守り

「ビートくん、そっちはお願いね!」

「ライラも、向こうは頼んだよ!」


 オレとライラは頷き合うと、アークティク・ターン号の窓を開けた。

 外には、馬に乗った男たちが列車と併走している。

 すでに男たちは馬に乗ったまま、至近距離まで迫ってきていた。


 男たちは、列車強盗だった。


 クォーツマリンの街を出た直後。

 アークティク・ターン号は、列車強盗からの襲撃を受けていた。クォーツマリンで高価な美術品が多数積み込まれたという情報が、どこからか漏れてそれが列車強盗たちの耳に入った。

 高価な美術品多数と聞いて、列車強盗が襲撃を思いつかないわけがなかった。先ほどから列車強盗たちは、フックがついたロープを手に、列車に乗り込む隙を狙い続けている。もちろん、奴らが美術品だけで満足するとは思えない。アークティク・ターン号には、特等車や1等車にお金持ちや王侯貴族に該当する人たちだって乗り込んでいる。彼らの持ち物や財布まで、勘定に入れていたとしても、おかしくはない。


 強盗に成功すれば、しばらくは遊んで暮らしていけるほどの大金が手に入ることだって、あるだろう。

 だけど、オレたちがそうはさせない!


 オレはソードオフを取り出すと、散弾を装填した。

 至近距離での戦いなら、ソードオフを持っているこっちが有利だ。


「さて……開戦か!」


 オレは窓からソードオフを突き出し、列車強盗たちに向けて、引き金を引いた。




 列車強盗の人数が減ると、奴らは撤退を始めた。

 このままでは、全滅させられるとでも思ったのかもしれない。

 だとしたら、賢明な判断だったかもしれない。


 オレとライラは、共にリボルバーとソードオフで、隙を見せない戦いをした。

 リロードにかかる時間を極力減らしつつ、攻撃する手を休めないためには、息の合った連携プレーが必要になる。

 もちろんそんなことは、よほど親しい間柄でも、難しい。


 しかし、オレたちにはそれができた。


 オレとライラは、どんな時もずっと一緒に過ごしてきた。

 そして幾多の試練を乗り越えて、固い絆を結んできた。

 そんなオレたちに、隙は無かった。


 オレたちが列車強盗に攻撃を始めると同時に、乗り組んでいる鉄道騎士団も応援に駆けつけてくれた。

 オレたちだけでは、列車強盗を返り討ちにすることは難しかっただろう。鉄道騎士団が駆けつけてきたとき、安心したのは云うまでもない。


「……ふぅ」


 撤退していく列車強盗を見て、オレはリボルバーを下ろした。

 ソードオフはすでに、ショットシェルを使いきってしまった。後で行商人から補充しておかないとな。


「ライラ、大丈夫?」

「うん、ビートくんも大丈夫?」

「オレも、大丈夫だ」


 ライラが無事なことを確認すると、オレはリボルバーをホルスターに戻した。リボルバーを手にしたまま車内をうろついていると、今度はオレたちが鉄道騎士団のお世話になるかもしれない。


「さて、部屋に戻ってゆっくりしようか」

「うん!」


 ライラは頷いて、オレの後に続いて歩き始めた。

 しかし、ライラは一度もリボルバーをホルスターに戻さず、手にしたまま歩いていく。

 どうしてホルスターに戻さないのか、オレは不思議に思った。まだ近くを鉄道騎士団がうろついている。オレたちのことを知っているとはいっても、誤解を受けたら面倒なことになるというのに……。

 せめて、部屋に戻るまで鉄道騎士団に見つかったりしないといいが……。


 2等車の部屋に戻ると、先にライラを中に入れて、後からオレが入った。

 部屋のカギを閉めた直後、オレはホッとした。


 オレの考えていたことは、杞憂に終わった。




 ホッとしたオレだが、そのすぐ直後に別の意味でホットになりそうになった。


 突然、ライラがスカートをたくし上げ、自分の足をさらけだしたのだ。


「らっ、ライラ……!?」

「ビートくん、視線がいやらしいよ……」


 ライラは呆れたように云うと、太腿に取り付けられたホルスターにリボルバーを戻した。

 リボルバーがホルスターに収まると、ライラはスカートから手を離す。スカートは重力で、元の位置まで戻っていった。


「廊下でリボルバーを戻すのは恥ずかしかったから、部屋まで手で運んだの。スカートを上げなくちゃいけないから、どうしても足が出ちゃうでしょ? ビートくんに見られるのはいいけど、他の人には見せたくなくて……」


 そう云って、もう誰からも見られるわけでもないのに、ライラは顔を紅くして手でスカートを抑える。


 そうか、そういうことだったのか。

 オレはライラの行動を、やっと理解した。

 ずっと一緒に過ごしてきたのに、どうして気づかなかったのだろう?


「もう慣れたけど、リボルバーを持ち歩くのって、大変ね。ビートくんみたいに、ズボンだったら楽なのかもしれないけど……」

「ズボンに履き替えたりは、しないの?」

「それも考えたけど……やっぱり、スカートのほうが似合っているから……」


 オレはその言葉で、前にライラの服装を褒めたときのことを思い出した。

 グレーザー孤児院に居た頃、ライラのスカート姿があまりにも可愛かったために「似合っているよ」と伝えたところ、ライラは尻尾をブンブンと振りながら、すごく喜んでいた。思えばそれ以降、ライラはほとんどスカートでいるようになった。

 あまりにも当たり前すぎて忘れていたが、ライラがずっとスカートなのは、オレの一言が原因だったのかもしれない。


 もしそうだとしたら、ライラが感じている不便さの責任は、オレにもあるかもしれない。

 オレが、ライラに解決策を提示しないといけないかも、しれないな。


「でも、ビートくんの云う通りかもしれないわね。ズボンも考えてみようかな。ねぇ、ビートくん。……あれ? ビートくん?」


 ライラの呼びかける声は、オレの耳には届いていなかった。

 その時のオレはすでに、考えることに意識が集中していたからだ。


 そしてオレは、あることを思いついた。




 アークティク・ターン号が、スピードを落としていく。

 もうすぐ、次の停車駅が近い。


 窓から前方を見ると、街が迫ってくる。

 次の停車駅があるのは、あの街で間違いないだろう。

 東大陸のギミヤ領スプリング地方にある町、レミントンだ。


 レミントンは、武器製造で有名な町だ。

 武器は刀剣や弓矢だけではなく、銃器も含まれている。列車強盗との戦いで消費した弾丸を調達するのに、ちょうどいい町だ。

 そしてオレが欲しいものも、間違いなく手に入る場所でもある。


 あそこで、オレは絶対に手に入れたいものがある。

 ライラに手渡すための、お守りだ。




 アークティク・ターン号が、レミントン駅に到着し、プラットホームで停車した。

 すぐに駅で待ち構えていた鉄道騎士団が、貨物車へと集まっていく。列車強盗から、貨物車は攻撃を受けていた。その攻撃で受けた損傷を調べ上げ、積み込まれている美術品に被害がないかどうかを調べるためだ。

 次々に貨物車が騎士と鉄道貨物組合の労働者によって開けられ、美術品が運び出されていく。


 そんな光景の中、オレとライラは買い出しをするために、列車から降りた。


「ビートくん、まずどこに行くの?」

「まずは、消費した携帯食料と水。その次に新しい衣服かな。あ、あと消費した弾丸も補充しておかないと!」

「わたしが食料と水と服を担当するわ。ビートくんは、弾丸とそれ以外に必要なものがあったら、それをお願い!」


 ライラの提案に、オレは頷いた。


「それじゃあ、買い物が終わったら、二等車の個室で待ってて!」

「うん!」


 オレとライラは頷き合うと、別々の方角へと向かって進んでいった。




「いらっしゃい」


 武器屋に入ると、店主が声をかけてきた。すぐにオレは、拳銃が並んでいるショーケースの前に立った。ショーケースの中には、いくつもの拳銃が並んでいる。そしてそのほとんどは、レミントンで製造された拳銃だ。

 数多くの拳銃が並んでいる中、オレはすぐに探していたものを見つけた。


「あった!」


 オレの視線の先には、手の中に納まりそうなほど小さな上下2連式の拳銃があった。

 デリンジャーと呼ばれる、護身用の超小型拳銃だ。ギャンブラーが護身用に所持していることも多く、またの名をギャンブラーズガンともいう。護身用として作られた拳銃としては、最も広く使用されている。非力な女性であっても撃てるため、婦人の護身用としても人気が高い。

 決して安いものではない。一般的な拳銃と同じくらいの値段だ。


「すいません、これを2挺下さい!」

「まいど!」

「それとあと、ホルスターを1つと弾丸と……」


 オレは店主に次から次へと、購入したいものを告げていく。

 店主はそれに応えるように次から次へと、オレが求めていたものを取り出していった。レッグホルスターに、デリンジャーの弾丸、ショットシェル……。

 探し求めていたものが全て揃うと、オレは財布からおカネを取り出して支払った。


「毎度どうも。またどうぞ!」


 店主に見送られて、オレは店を後にする。

 少し重たいが、買いたいものは全て手に入った。


「ライラ、喜んでくれるといいな……」


 オレはそう呟きながら、アークティク・ターン号が停車しているレミントン駅へと向かった。




 2等車の個室に戻ってくると、すでにライラがそこにはいた。


「ただいま」

「お帰り!」


 ライラはベッドから立ち上がり、オレに駆け寄ってくる。


「ライラ、実はプレゼントがあるんだけど……」

「えっ、本当!?」


 オレの言葉に、ライラは目を丸くして、尻尾をブンブンと振る。


「どんなの!?」

「待って待って。まずは荷物を置いてからね……」


 尻尾を振るライラにそう云って、オレは荷物を机の上に置いた。

 買ってきたものの中から、オレはデリンジャーを2挺とホルスター、デリンジャーの予備の弾丸を取り出す。

 デリンジャーのうち1挺はホルスターに入れ、予備の弾丸はホルスターのベルトについている小さなポケットに入れておいた。


 オレはライラに向き直った。


「ライラ、こっちへ」

「うん!」


 オレの言葉に、ライラは素直に応じてオレの前に立った。


「これが、オレからのプレゼント」


 オレはそう云って、ライラにデリンジャーが入ったホルスターを手渡した。

 ライラは疑うことなく、オレの手からホルスターを受け取った。


「これは……!?」


 ホルスターからデリンジャーを取り出して、ライラは目を見張った。


「護身用の超小型拳銃、デリンジャーだ。これからはデリンジャーを護身用として持ち歩くといいよ。オレも1挺、買ったんだ」


 オレは自分のデリンジャーをライラに見せ、服の中に隠す。護身用の小さな拳銃だから、予備の銃として隠し持っておくのに適している。


「ビートくん、どうしてこれを……?」

「この前、ライラがリボルバーを片付けるのに、困っていたのを見て思いついたんだ。デリンジャーをスカートの下に隠しておいて、リボルバーはスカートの上にすると、いつでもリボルバーを取り出せるようになるよ」

「ビートくん……!」


 ライラが表情を緩ませた。


「正直、もっと早くに気づいてデリンジャーを贈るべきだったよ」

「そんなことないよ!」


 ライラはそう云って、オレに抱き着いてきた。

 尻尾はブンブンと振られていて、とても喜んでいることが分かった。


「ビートくん、わたしのために、ありがとう!」

「……どういたしまして」


 オレはライラの肌の柔らかさを感じながら、ライラの頭を撫でた。




「それじゃあ、早速つけてみるね」


 ライラはそう云うと、そっとスカートをたくし上げようとする。

 しかし、すぐにオレが目の前にいることに気づいて、顔を紅くした。


「ごめんっ、ちょっと待ってて!」


 オレは顔を紅くして、ライラに背を向ける。

 ライラの生足は、これまで何度も見てきたはずなのに、どうして毎回こうもドキドキしてしまうのだろう?


 そんなことを考えていると、ライラが口を開いた。


「おまたせ。もういいよ」


 オレが振り返ると、ライラが尻尾を振りながらこちらを見ていた。

 そして大きく変わったところが、1つだけ。


 これまで足に取り付けていたリボルバーのホルスターが、スカートの上に来ていた。オレと同じように、右側にホルスターが見える。そしてオレがプレゼントしたデリンジャーは、きっとスカートの内側にあるのだろう。

 これでもう、ライラは周りの目を気にせずに、リボルバーを取り出せる。万が一リボルバーの弾丸が無くなったり、リボルバーを携帯していなくても、スカートの内側にはデリンジャーがある。これで非常時でも安心だ。


「ビートくん、デリンジャーもちゃんとあるよ!」


 ライラはそう云うと、突然スカートをたくし上げた。ライラの白い生足が露わになり、太腿の内側にデリンジャーを入れたホルスターが取り付けられているのが見えた。確かに、オレが贈ったデリンジャーも、ライラはちゃんと身につけていた。

 しかし、それ以上にオレの目を引き付けるものがあった。


 ライラの、白いパンツだった。


 予告なしにパンツを見せられたオレは、再び顔を真っ赤にした。

 こちらも何度も見てきたが、見てしまうたびにドキドキする。


「ライラ……その……」

「どうしたの?」

「パンツ……パンツが……!」

「まさか……そこまで上げたつもりじゃ――!!」


 オレが指摘して、ライラも初めてパンツが見えていることに気づいたようだった。

 そして自分の下半身を見て、顔を真っ赤に染めていく。


 オレ以外の人の前で、そんなことをしないように、後でよく云っておかないとな。

 まぁおかげで、いいものが見れたけど……。




 オレとライラは、熱くなった身体を冷まそうと、買ってきた水を飲んだ。

 おかげでオレたちは、もう1回、水を買いに行くことになってしまった。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

感想、誤字脱字、ご指摘、評価等お待ちしております!

次回更新は12月17日の21時となります!

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