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幼馴染みと大陸横断鉄道~トキオ国への道~  作者: ルト
第11章 北大陸の大嵐
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第140話 旅の終わり

 オレはそっと、部屋の目立つ場所に、写真額を置いた。


 写真額の中には、ミーケッド国王とコーゴー女王。シャインさんとシルヴィさん。そして赤ん坊のオレとライラが写っている。

 トキオ国の跡地から持ち帰ってきた、唯一の形見。

 オレの父さんと母さんこと、ミーケッド国王とコーゴー女王が写っている、きっと唯一の写真だ。

 持ち帰ってくるのは気が引けたけど、オレにとっては唯一の家族写真だ。それに、父さんと母さんだけでなく、シャインさんとシルヴィさんに、ライラも一緒に写っている。それを置いてくるなんてことは、オレにはできなかった。


 持ち帰ったとしても、きっと罰は当たらないだろう。

 両親の顔を知らずに育ったのだから、これが両親の顔を知る唯一の手段だ。


 こちらを見て微笑む、ミーケッド国王とコーゴー女王。

 お墓はトキオ国の跡地にある。

 だけど、そこに父さんと母さんはいない。


 オレは、トキオ国の跡地で聞いた、父さんと母さんの言葉を思い出す――。



『ビート、あなたはもう、私たちに直接会うことはできないの。私たちは、あなたとトキオ国を守ろうとして、アダムに命を奪われてしまったわ。でも、私たちは命を失った後、天の国に行ったの。そこから毎日、あなたとライラちゃんを見守っているのよ』

『ビートよ、アダムを倒してくれて、本当にありがとう。これで私たちの無念も晴れた。それに悲しむことは無い。私たちは天の国と、ビートの心の中で、いつまでも生き続けるのだからな!』


『ビートとライラは、トキオ国で生まれた。それは紛れもない事実だ。しかし、ここはもうお前たちの帰ってくる場所ではない。トキオ国は、滅ぼされてしまって、もうないのだからな。それに、私たちもここにはいないんだ』

『じゃあ……オレたちは、これからどこに帰ればいいの?』

『心配することはないわ。これからは、あなたたちが、自分の力で自分の帰るべき場所を作っていくのよ』

『母さんの云う通りだ。ビートよ、お前はもう1人前の男だ。帰るべき場所を、自分で作っていくことができる。ライラちゃんとそこで、いつまでも仲良く暮らすんだ』

『グレーザーでも、銀狼族の村でもいいわ。そしてそこを、トキオ国より素晴らしい場所にしていくのよ。ライラちゃんと、いつまでも仲良く暮らしてね』

『……うん、分かったよ!』



 父さんと母さんは、トキオ国の跡地にはいない。

 今は、天の国に行った。そう云っていた。


 そしてオレは、父さんと母さんに約束した。

 自分の力で自分の帰るべき場所を作っていく。そしてそこを、ライラと共に、トキオ国よりも素晴らしい場所にしていく。


 父さんと母さんにできる、せめてもの親孝行だ。




「父さん、母さん……」


 オレは写真に向かって、語り掛けた。

 今となっては、この写真に向かって語り掛けるのは、日課のようになっていた。


「……オレはライラと共に、この銀狼族の村を、トキオ国のような素晴らしい場所にしていきます。シャインさんとシルヴィさんから聞いた限りでは、トキオ国は国民が笑顔で過ごせる場所だったと聞いています。どうか父さん、母さん……見守ってください」


 オレは写真に向かって、そう云った。

 その直後だった。


「ビートよ、よくぞ云った。しかし無理は禁物だ。身体に気を付けて、頑張るんだぞ」

「困った時は、すぐに周りの人に相談して、力を借りるのよ。決して急がなくていいわ」


 父さんと母さんの声が、聞こえてきた。


「父さん、母さん!?」


 オレは顔を上げたが、そこには写真があるだけで、誰もいなかった。

 だけど、オレは写真を見ると、心が落ち着いていくのを感じた。


 きっと、父さんと母さんが、オレにエールを送ってくれたんだ。

 そう思うと、オレの目は熱くなってきた。

 そっと零れ落ちそうになった涙を、オレは指で拭った。


 父さん母さん、ありがとう。




「ビートくん?」


 その時、背後から声をかけられた。


「ライラ……?」


 振り返ると、そこにはライラがいた。


「どうかしたの?」

「ビートくん、何か忘れているんじゃないの?」

「えっ?」


 何かを忘れている。

 ライラからそう云われて、頭の中にあるタスクを1つずつ思い出していく。


 しかし、オレは何を忘れているのか、分からなかった。

 今日はゴミも捨てたし、洗濯物も干した。薪はまだたくさんあるし、食べ物も購入する日じゃない。


 オレが首をかしげていると、ライラが口を開いた。


「これから、村の男の人総出で、スノーシルバーの採掘に行くんじゃなかった?」

「……やっべ!」


 スノーシルバーの採掘。

 その言葉で、オレは記憶の彼方に飛び去っていたことを、思い出した。


 銀狼族の村の近くには、スノーシルバーが採掘できる鉱山がある。

 その鉱山は、銀狼族の村が所有していて、月に何度か採掘に出かけることがある。一般的に鉱山での採掘は危険なために、鉱山奴隷や囚人を使うことが多い。しかし、銀狼族の村では鉱山奴隷も囚人も使わない。男が総出で、採掘に取り掛かることになっている。産出されたスノーシルバーは、連絡員によってサンタグラードで売りに出され、銀狼族の村の収益になるのだ。


 大切な事なのに、すっかり忘れていた。


「すぐ準備しないと!!」

「だから云ったのに!」


 慌てて準備するオレを見て、ライラは呆れていた。

 準備をしながら、ふとオレはグレーザー孤児院で、似たようなやり取りをしたことを思い出した。


 確かあの時は、オレが本を読んでいて、授業に遅れそうになったっけ。


「懐かしいな、このやり取り」


 オレは呟きながら、準備を進めていった。




「それじゃ、行ってくるよ!」

「行ってらっしゃい!」


 玄関を出ると、ライラが見送りに出てくれた。


「みんなでレモンスカッシュを用意して、待っているからね」

「楽しみにしているよ!」


 そうだ、レモンスカッシュ。

 スノーシルバーの採掘から戻ってきた男たちには、村に残った女たちによって、レモンスカッシュが振舞われることになっている。明確に決まっているわけでは無くて、習慣のようなものだ。しかし、たかがレモンスカッシュとバカにすることはできない。

 そのレモンスカッシュを飲んで、男たちは再び活力を取り戻すのだ。


「それと……」


 ライラはそこまで云うと、オレと唇を重ね合わせた。

 突然のことだったから、オレは心の準備ができないまま、ライラと唇を重ねた。


「……ライラ……?」


 驚いているオレに、ライラは顔を紅くして告げた。


「夜には、ビートくんだけの……お楽しみが、待っているからね!」

「……おぉっ!?」


 オレだけの、お楽しみ。

 それが何を意味するか、もう考えなくても分かる。


 それなら、今夜はオレだってライラを寝かせないぞ!


「たっ、楽しみにしているよっ!」

「うんっ!!」


 そんな会話を交わして、オレはスノーシルバーの採掘に向かっていく。

 出発する時、オレとライラが暮らしているログハウスの中から、父さんと母さんの写真が見えた。写真に写っている父さんと母さんは、オレたちを見て微笑んでいるような気がした。


 なんだか……ちょっとだけ照れるな。




 夜のお楽しみに思いをはせながら、オレは第2のトキオ国を、歩き出していた。




 幼馴染みと大陸横断鉄道~トキオ国への道~ ~完~



 幼馴染みと大陸横断鉄道 第212話「大団円」へ続く

最後まで読んでいただき、ありがとうございました!

またお会いしましょう!



ルト

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