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幼馴染みと大陸横断鉄道~トキオ国への道~  作者: ルト
第11章 北大陸の大嵐
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第139話 両親への報告

 オレとライラは、1軒のログハウスの前で立ち止まった。

 ログハウスは大きく、ちょっとした倉庫ほどの大きさがある。銀狼族の村のログハウスは、どこもこのように大きい。かつては2~3世代で同居していたらしいから、その名残りだろう。オレとライラが暮らしているログハウスも、部屋がいくつもあってそれなりの広さがある。


 そしてオレたちの目の前にあるログハウスは、ライラの両親の家。

 シャインさんとシルヴィさんの自宅であり、ライラの実家だ。




 ドアをノックすると、中から銀狼族の女性が出てきた。ライラと似た雰囲気の、温和そうな女性だ。

 ライラの母親、シルヴィさんだ。


「まぁ! お帰りなさい!」

「お母さん! ただいま!」


 ライラが尻尾を振りながら云い、シルヴィは微笑んだ。


「ビートくんも、おかえりなさい」

「ただいま、戻りました」

「さ、中で休んでちょうだい」


 シルヴィがそう云い、オレたちはログハウスの中へと足を踏み入れた。




 居間に入ると、そこには1人の銀狼族の男性が新聞を読んでいた。

 額に十字型の傷があり、筋肉質のガッチリした身体つきをしている。そして右の耳が、少しだけ欠けている。その特徴は、他の銀狼族の男性には、なかなか見られないものだ。


 新聞から顔を上げてオレたちを見ると、険しかった目つきが温和なものになっていった。


「ライラ、それにビートくん」

「お父さん、ただいま!」

「ただいま、戻りました」


 ライラとオレが云うと、シャインさんは微笑んだ。


「固くならなくていい。それよりも、聞かせてほしいことがある」

「そうよ。トキオ国の跡地のこと、そして旅の間のことを、聞かせてほしいの」


 シルヴィあんがティーセットと、クッキーを持ってやってきた。

 それを見たオレとライラは、顔を見合わせて、笑い合う。


「それじゃあ、ビートくん」

「はいっ、少し長くなりますが、お話いたします!!」




 話を終えてから、オレは持ち帰ってきた写真を取り出した。


「こちらを、ご覧ください」

「おぉっ!」

「これは!」


 シャインさんが写真を手に取り、シルヴィさんも写真を覗き込む。

 2人は驚いた表情から、少しずつ目に涙を浮かべていった。


「ミーケッド国王に、コーゴー女王……!!」

「久しぶりね。お2人のお姿を見たのは……!!」

「映っているのはお2人と……私たちだな」

「えぇ。この赤ちゃんはライラちゃんに……ビートくんね」


 シャインさんとシルヴィさんは、一通り写真を眺めてから、写真を返した。


「トキオ国は滅び、ミーケッド国王とコーゴー女王は居なくなってはしまいましたが……」

「ビートくんの話を聞いて、お2人は今もビートくんを見守っている。そう思いますよ」

「しっ、信じていただけるんですか!?」

「もちろんだとも」


 オレの言葉に、シャインさんとシルヴィさんは頷いた。


「お優しいお2人様のことだ」

「きっと、今も見守っているはずですよ」


 今も見守っている。

 そう云うと、シャインさんとシルヴィさんは、少しだけ上を見上げた。


「ミーケッド国王にコーゴー女王、あなたのご子息様は、とても御立派に成長されました」

「ビート王子は、お2人が私たちに残していただいた、宝物です」


 その言葉に、オレは少しだけ肩をすくめた。

 王子じゃないんだけど……仕方がない。シャインさんとシルヴィさんにとっては、オレは王子そのものだろう。オレがそう思っていなくても、周りはそう思ってくれている。それで周りが納得してくれるのなら、それでいいじゃないか。


「それに……カリオストロ伯爵にもお会いしていたとは、驚いた」


 顔をオレたちに戻して、シャインさんは云った。


「カリオストロ伯爵は、お元気にしていたかね?」

「はい、とても大食いで、それに神出鬼没なお方でした」


 オレとライラは、カリオストロ伯爵のことを話していく。

 旅先での出来事を話していくと、最後にジオストでの戦いのことになっていった。


「そしてオーレリアとヘルガという銀狼族に、ノーゼル侯爵とロストダディ公爵を捕まえるために、手伝ってくれました」

「そうか……」


 シャインさんはそう云うと、シルヴィさんに目を向けた。


「オーレリアとヘルガが、そうなっていたとは……」

「かわいそうだけど、仕方がありませんね」

「ねぇ、お父さん」


 悲しそうな目をしているシャインさんとシルヴィさんに、ライラが訊いた。


「オーレリアとヘルガは、ノーゼル侯爵とロストダディ公爵と一緒に行動していたの。そのノーゼル侯爵とロストダディ公爵は、象撃ち銃をお父さんが持っているって、話していたわ。象撃ち銃って、本当にあるの?」

「象撃ち銃……あぁ、確かにある」


 シャインさんは頷くと、暖炉の上に視線を向けた。

 その視線の先には、1挺の旧式ライフルが架けられている。


 シャインさんが、ずっと愛用している旧式ライフルだ。

 ノワールグラード決戦でも、あの銃を手に戦ってくれた。


「あれが、象撃ち銃なの!?」

「そうだ」


 シャインさんは頷いた。


「あれはミーケッド国王から、下賜されたものなんだ。私以外には、わずかな側近と専門部隊の隊員にのみ配布された。あの銃を使えば、巨大かつ怪力を持つ巨人族でさえ、倒すことができる。そもそも巨人族は、元々トキオ国でアダムたちと戦うために準備されていた、秘密兵器だったんだ。トキオ国とアダムとの戦争で、ミーケッド国王によって解き放たれたのだが、制御を失って西大陸に散らばってしまった。象撃ち銃は、制御不能に陥った巨人族を倒すために、巨人族と共に作られたんだ」

「そうだったの!?」


 シャインさんの言葉に、ライラは驚いて叫んだ。

 オレも驚いていたが、それでようやく理解できた。ノーゼル侯爵とロストダディ公爵が、象撃ち銃を探していたわけを……。

 巨人族を倒せる威力なら、ほとんどの国を滅ぼせる力を持っているようなものだ。ノーゼル侯爵とロストダディ公爵が、どこで象撃ち銃の情報を入手したのかは分からない。しかし、世の中に出回ってはいけない者であることは、確かだ。


「じゃあ……やっぱり危険な銃なんですね」

「いや、ビートくん、そうでもないんだ」


 シャインさんは、オレたちに視線を戻した。


「象撃ち銃が巨人族を倒せるのは事実だが、それは特殊な弾丸を使ったときだけなんだ」

「特殊な弾丸……?」

「うむ。巨人族を倒すためには『象撃ち銃の弾丸』という特殊な弾丸が必要で、それを撃ち出すには通常の銃ではダメだった。そこで、トキオ国の国防軍に支給されていた旧式ライフルをベースにして、象撃ち銃が作られた。象撃ち銃の弾丸を使ったときだけ、象撃ち銃は強力な武器となる。それが無ければ、ただの旧式ライフルにしかならない」

「じゃあ、もし弾丸がまだあったとしたら……!」

「心配はいらないよ」


 オレの表情を見て、シャインさんはニッコリと笑った。


「象撃ち銃の弾丸は、全て使い切ってしまった。今では残っていないし、弾丸の作り方は、ミーケッド国王によって国家機密とされていた。製造していた研究施設は、トキオ国崩壊の際に、ミーケッド国王によって破壊された。ミーケッド国王は悪用されないように、秘密を全て持って行ったんだ」

「では、もしノーゼル侯爵とロストダディ公爵が銃を手に入れても、それは象撃ち銃ではない。弾丸が手に入らないのなら、いくら探しても無駄だったんですね」

「そういうことなんだ」


 シャインさんの言葉に、オレは安心した。


「だけど……オーレリアとヘルガが悪の道に足を踏み入れてしまったのは、残念だった」

「そうね……私たちにも、責任はあるわね」

「お父さん、お母さん!!」


 表情を曇らせたシャインさんとシルヴィさんに、ライラが云った。


「オーレリアとヘルガがタルタロス監獄に行ったのは、お父さんとお母さんのせいじゃないよ!」

「そうです」


 ライラの言葉に、オレも頷いた。


「オーレリアとヘルガは、お父さんとお母さんに助けられたの。それなのに、トキオ国を滅ぼすために手を貸した。お父さんとお母さんに対して、恩を仇で返すようなことをしたわ。オーレリアとヘルガは、自分の意志で悪の道に走ったの。アダムに加担した時点で、どんな過去があっても、同情する余地は無いわ。お父さんとお母さんは、そのときにできることをしただけ。だから、悪くないよ!」

「僕も、そう思います。運が悪かったのもあるとは思いますが、最後にその道を選んだのは、オーレリアとヘルガ自身に外ならないんです。シャインさんとシルヴィさんは、できることをしただけです。何も悪くないです。父さんと母さんだって、そう思うはずです」


 そうだ、オーレリアとヘルガは、最後には自分で悪の道に足を踏み入れたんだ。

 シャインさんとシルヴィさんを逆恨みして、オレの故郷であるトキオ国を滅ぼすため、アダムに協力した。アダムと手を組んだ時点で、オレにとっては敵以外の何物でもない。

 オーレリアとヘルガは、ある意味父さんと母さんの仇だ。

 シャインさんとシルヴィさんが、その末路を気に病むことはない。いくら同族だからといって、悪いことは悪いとして区別しないのは、間違っている。オーレリアとヘルガは、これから罪を償うべきなんだ。だから、タルタロス監獄に送られた。


「ビートくん、ライラ……ありがとう」

「ありがとう、2人とも……」


 シャインさんとシルヴィさんは、オレたちに向かって、頭を下げた。

 オレたちは顔を見合わせて、目を細めた。


 その後も話し続け、気がついたら夕方になっていた。




「すっかり、日が暮れちゃったね」


 窓から差し込む夕陽を見て、ライラが云った。


「そうだね。そろそろ行こうか」

「2人とも、今日は疲れたでしょう?」


 シルヴィさんが、オレたちに向かって云った。


「帰るのは明日にして、今日は泊っていくといいわ」

「そうだな。ゆっくりしていきなさい」


 2人からの提案に、オレとライラは頷いた。


「はいっ!」

「お父さん、お母さん、ありがとう!」

「部屋は空いているから、好きな場所を使うといい」

「さて、今夜はご馳走を用意するわね!」


 シルヴィさんが台所へと向かっていった。




 その夜、オレたちは久しぶりにシルヴィさんの手料理を食べた。

 肉と野菜のスープを中心としたメニューで、オレたちはお腹いっぱいになった。


 満腹になったオレたちは、疲れもあってか早い時間帯から、ベッドで深い眠りに就いた。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

感想、誤字脱字、ご指摘、評価等お待ちしております!

次回更新は、8月27日21時更新予定です!

そして面白いと思いましたら、ページの下の星をクリックして、評価をしていただけますと幸いです!


次回、いよいよ最終回です!

最後までのお付き合い、どうぞよろしくお願いいたします!

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