第139話 両親への報告
オレとライラは、1軒のログハウスの前で立ち止まった。
ログハウスは大きく、ちょっとした倉庫ほどの大きさがある。銀狼族の村のログハウスは、どこもこのように大きい。かつては2~3世代で同居していたらしいから、その名残りだろう。オレとライラが暮らしているログハウスも、部屋がいくつもあってそれなりの広さがある。
そしてオレたちの目の前にあるログハウスは、ライラの両親の家。
シャインさんとシルヴィさんの自宅であり、ライラの実家だ。
ドアをノックすると、中から銀狼族の女性が出てきた。ライラと似た雰囲気の、温和そうな女性だ。
ライラの母親、シルヴィさんだ。
「まぁ! お帰りなさい!」
「お母さん! ただいま!」
ライラが尻尾を振りながら云い、シルヴィは微笑んだ。
「ビートくんも、おかえりなさい」
「ただいま、戻りました」
「さ、中で休んでちょうだい」
シルヴィがそう云い、オレたちはログハウスの中へと足を踏み入れた。
居間に入ると、そこには1人の銀狼族の男性が新聞を読んでいた。
額に十字型の傷があり、筋肉質のガッチリした身体つきをしている。そして右の耳が、少しだけ欠けている。その特徴は、他の銀狼族の男性には、なかなか見られないものだ。
新聞から顔を上げてオレたちを見ると、険しかった目つきが温和なものになっていった。
「ライラ、それにビートくん」
「お父さん、ただいま!」
「ただいま、戻りました」
ライラとオレが云うと、シャインさんは微笑んだ。
「固くならなくていい。それよりも、聞かせてほしいことがある」
「そうよ。トキオ国の跡地のこと、そして旅の間のことを、聞かせてほしいの」
シルヴィあんがティーセットと、クッキーを持ってやってきた。
それを見たオレとライラは、顔を見合わせて、笑い合う。
「それじゃあ、ビートくん」
「はいっ、少し長くなりますが、お話いたします!!」
話を終えてから、オレは持ち帰ってきた写真を取り出した。
「こちらを、ご覧ください」
「おぉっ!」
「これは!」
シャインさんが写真を手に取り、シルヴィさんも写真を覗き込む。
2人は驚いた表情から、少しずつ目に涙を浮かべていった。
「ミーケッド国王に、コーゴー女王……!!」
「久しぶりね。お2人のお姿を見たのは……!!」
「映っているのはお2人と……私たちだな」
「えぇ。この赤ちゃんはライラちゃんに……ビートくんね」
シャインさんとシルヴィさんは、一通り写真を眺めてから、写真を返した。
「トキオ国は滅び、ミーケッド国王とコーゴー女王は居なくなってはしまいましたが……」
「ビートくんの話を聞いて、お2人は今もビートくんを見守っている。そう思いますよ」
「しっ、信じていただけるんですか!?」
「もちろんだとも」
オレの言葉に、シャインさんとシルヴィさんは頷いた。
「お優しいお2人様のことだ」
「きっと、今も見守っているはずですよ」
今も見守っている。
そう云うと、シャインさんとシルヴィさんは、少しだけ上を見上げた。
「ミーケッド国王にコーゴー女王、あなたのご子息様は、とても御立派に成長されました」
「ビート王子は、お2人が私たちに残していただいた、宝物です」
その言葉に、オレは少しだけ肩をすくめた。
王子じゃないんだけど……仕方がない。シャインさんとシルヴィさんにとっては、オレは王子そのものだろう。オレがそう思っていなくても、周りはそう思ってくれている。それで周りが納得してくれるのなら、それでいいじゃないか。
「それに……カリオストロ伯爵にもお会いしていたとは、驚いた」
顔をオレたちに戻して、シャインさんは云った。
「カリオストロ伯爵は、お元気にしていたかね?」
「はい、とても大食いで、それに神出鬼没なお方でした」
オレとライラは、カリオストロ伯爵のことを話していく。
旅先での出来事を話していくと、最後にジオストでの戦いのことになっていった。
「そしてオーレリアとヘルガという銀狼族に、ノーゼル侯爵とロストダディ公爵を捕まえるために、手伝ってくれました」
「そうか……」
シャインさんはそう云うと、シルヴィさんに目を向けた。
「オーレリアとヘルガが、そうなっていたとは……」
「かわいそうだけど、仕方がありませんね」
「ねぇ、お父さん」
悲しそうな目をしているシャインさんとシルヴィさんに、ライラが訊いた。
「オーレリアとヘルガは、ノーゼル侯爵とロストダディ公爵と一緒に行動していたの。そのノーゼル侯爵とロストダディ公爵は、象撃ち銃をお父さんが持っているって、話していたわ。象撃ち銃って、本当にあるの?」
「象撃ち銃……あぁ、確かにある」
シャインさんは頷くと、暖炉の上に視線を向けた。
その視線の先には、1挺の旧式ライフルが架けられている。
シャインさんが、ずっと愛用している旧式ライフルだ。
ノワールグラード決戦でも、あの銃を手に戦ってくれた。
「あれが、象撃ち銃なの!?」
「そうだ」
シャインさんは頷いた。
「あれはミーケッド国王から、下賜されたものなんだ。私以外には、わずかな側近と専門部隊の隊員にのみ配布された。あの銃を使えば、巨大かつ怪力を持つ巨人族でさえ、倒すことができる。そもそも巨人族は、元々トキオ国でアダムたちと戦うために準備されていた、秘密兵器だったんだ。トキオ国とアダムとの戦争で、ミーケッド国王によって解き放たれたのだが、制御を失って西大陸に散らばってしまった。象撃ち銃は、制御不能に陥った巨人族を倒すために、巨人族と共に作られたんだ」
「そうだったの!?」
シャインさんの言葉に、ライラは驚いて叫んだ。
オレも驚いていたが、それでようやく理解できた。ノーゼル侯爵とロストダディ公爵が、象撃ち銃を探していたわけを……。
巨人族を倒せる威力なら、ほとんどの国を滅ぼせる力を持っているようなものだ。ノーゼル侯爵とロストダディ公爵が、どこで象撃ち銃の情報を入手したのかは分からない。しかし、世の中に出回ってはいけない者であることは、確かだ。
「じゃあ……やっぱり危険な銃なんですね」
「いや、ビートくん、そうでもないんだ」
シャインさんは、オレたちに視線を戻した。
「象撃ち銃が巨人族を倒せるのは事実だが、それは特殊な弾丸を使ったときだけなんだ」
「特殊な弾丸……?」
「うむ。巨人族を倒すためには『象撃ち銃の弾丸』という特殊な弾丸が必要で、それを撃ち出すには通常の銃ではダメだった。そこで、トキオ国の国防軍に支給されていた旧式ライフルをベースにして、象撃ち銃が作られた。象撃ち銃の弾丸を使ったときだけ、象撃ち銃は強力な武器となる。それが無ければ、ただの旧式ライフルにしかならない」
「じゃあ、もし弾丸がまだあったとしたら……!」
「心配はいらないよ」
オレの表情を見て、シャインさんはニッコリと笑った。
「象撃ち銃の弾丸は、全て使い切ってしまった。今では残っていないし、弾丸の作り方は、ミーケッド国王によって国家機密とされていた。製造していた研究施設は、トキオ国崩壊の際に、ミーケッド国王によって破壊された。ミーケッド国王は悪用されないように、秘密を全て持って行ったんだ」
「では、もしノーゼル侯爵とロストダディ公爵が銃を手に入れても、それは象撃ち銃ではない。弾丸が手に入らないのなら、いくら探しても無駄だったんですね」
「そういうことなんだ」
シャインさんの言葉に、オレは安心した。
「だけど……オーレリアとヘルガが悪の道に足を踏み入れてしまったのは、残念だった」
「そうね……私たちにも、責任はあるわね」
「お父さん、お母さん!!」
表情を曇らせたシャインさんとシルヴィさんに、ライラが云った。
「オーレリアとヘルガがタルタロス監獄に行ったのは、お父さんとお母さんのせいじゃないよ!」
「そうです」
ライラの言葉に、オレも頷いた。
「オーレリアとヘルガは、お父さんとお母さんに助けられたの。それなのに、トキオ国を滅ぼすために手を貸した。お父さんとお母さんに対して、恩を仇で返すようなことをしたわ。オーレリアとヘルガは、自分の意志で悪の道に走ったの。アダムに加担した時点で、どんな過去があっても、同情する余地は無いわ。お父さんとお母さんは、そのときにできることをしただけ。だから、悪くないよ!」
「僕も、そう思います。運が悪かったのもあるとは思いますが、最後にその道を選んだのは、オーレリアとヘルガ自身に外ならないんです。シャインさんとシルヴィさんは、できることをしただけです。何も悪くないです。父さんと母さんだって、そう思うはずです」
そうだ、オーレリアとヘルガは、最後には自分で悪の道に足を踏み入れたんだ。
シャインさんとシルヴィさんを逆恨みして、オレの故郷であるトキオ国を滅ぼすため、アダムに協力した。アダムと手を組んだ時点で、オレにとっては敵以外の何物でもない。
オーレリアとヘルガは、ある意味父さんと母さんの仇だ。
シャインさんとシルヴィさんが、その末路を気に病むことはない。いくら同族だからといって、悪いことは悪いとして区別しないのは、間違っている。オーレリアとヘルガは、これから罪を償うべきなんだ。だから、タルタロス監獄に送られた。
「ビートくん、ライラ……ありがとう」
「ありがとう、2人とも……」
シャインさんとシルヴィさんは、オレたちに向かって、頭を下げた。
オレたちは顔を見合わせて、目を細めた。
その後も話し続け、気がついたら夕方になっていた。
「すっかり、日が暮れちゃったね」
窓から差し込む夕陽を見て、ライラが云った。
「そうだね。そろそろ行こうか」
「2人とも、今日は疲れたでしょう?」
シルヴィさんが、オレたちに向かって云った。
「帰るのは明日にして、今日は泊っていくといいわ」
「そうだな。ゆっくりしていきなさい」
2人からの提案に、オレとライラは頷いた。
「はいっ!」
「お父さん、お母さん、ありがとう!」
「部屋は空いているから、好きな場所を使うといい」
「さて、今夜はご馳走を用意するわね!」
シルヴィさんが台所へと向かっていった。
その夜、オレたちは久しぶりにシルヴィさんの手料理を食べた。
肉と野菜のスープを中心としたメニューで、オレたちはお腹いっぱいになった。
満腹になったオレたちは、疲れもあってか早い時間帯から、ベッドで深い眠りに就いた。
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