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幼馴染みと大陸横断鉄道~トキオ国への道~  作者: ルト
第11章 北大陸の大嵐
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第136話 サンタグラードのお祭り

「ありがとうございました、カリオストロ伯爵!」

「ありがとうございました!」


 サンタグラードの駅を出たオレたちは、カリオストロ伯爵に改めてお礼の言葉を述べた。

 今やオレたちにとって、カリオストロ伯爵は命の恩人だ。


「もったいなきお言葉、恐れ良いります。ビート王子にライラ王女」

「わわっ! こっ、ここでは止めてくださいっ!」

「そっ、そうですよ! 目立っちゃいますから!」


 カリオストロ伯爵がそう云って、オレたちの前で跪いてしまいそうになり、オレたちは慌てた。

 見るからに貴族の身なりの男性が、ただの少年少女に跪いて首を垂れる。貴族で長身の男性と、銀髪獣耳の美少女と武装した少年。ただでさえ目立つ組み合わせなのに、そんな光景が駅前で行われたりしたら、注目の的だ。


「いえ、ビート王子にライラ王女。お2人の前で礼を欠いたことは……」

「僕は王子じゃあ――いえ、今は礼のことは気にしないで、自然に振舞ってください。これは命令です」


 オレは王子じゃないと云おうとして、途中で云い換えた。

 王子じゃないと否定しても、そうは問屋が卸してくれない。ならば王子として振舞ったほうが、事がスムーズに進むと思ったからだ。


「かっ、かしこまりました!」


 そしてオレの予想通り、カリオストロ伯爵はそれに従ってくれた。




「カリオストロ伯爵は、これからどうするのですか?」


 カリオストロ伯爵に尋ねると、カリオストロ伯爵は一礼してから、答えた。


「私の使命は、トキオ国の王家……すなわちミーケッド国王とコーゴー女王の王家にお仕えすることです。ビート王子は、今もトキオ国の王位を継ぐことができる、正当なる王位継承者でございます。ライラ王女を迎えられた今となっては、トキオ国を再興することも可能でしょう。なのでビート王子の意のままにいたします」

「僕の、意のままに……」


 オレはそっと、自分の手を見つめた。

 オレの生まれた故郷を、立て直すことができるかもしれない。

 カリオストロ伯爵は、確かにそう云っていた。


「ビート王子が望まれるのであれば、トキオ国を再興し、ミーケッド国王とコーゴー女王から王位継承をすることもできます。もちろん、私は最後までビート王子に、お仕えいたします」

「ビートくん、どうする?」


 ライラが、オレに声をかけてきた。


「わたしは、どこまでもビートくんについていくよ。ビートくんの行きたい場所が、わたしの行きたい場所。ビートくんのしたいことが、わたしのしたいことだから!」

「ライラ……」


 本当に、ライラと結婚して良かった。

 そこまで云ってくれる女性は、ライラだけだ。


 オレは、カリオストロ伯爵に向き直った。


「カリオストロ伯爵……」

「はっ!」

「悲しいことですが、トキオ国は、もう無くなってしまいました。だから僕ももう、王子じゃありません。なのでこれからは、あなたの好きなことをして、幸せな人生を送ってください。父さんと母さん……ミーケッド国王とコーゴー女王も、きっとそれを望んでいると思います」


 オレは、王子じゃない。

 それはずっと、思ってきたことだ。


「本当に……それでよろしいのですか?」

「はい」


 オレは、頷いた。


「ミーケッド国王とコーゴー女王の血を引いている僕は、トキオ国でなら確かに王子でした。だけど、トキオ国は滅びてしまいました。かつての国民も多くが殺され、生き残った人々も散り散りです。元あった場所にトキオ国を再興したとしても、そこは父さんと母さんが治めていた、かつてのトキオ国ではありません。それに崩壊するところを目にして、心に深い傷を負った人々も、大勢いたと思います。そんな人たちに『国を再興したから、戻ってきて下さい』とは、とても云えません。今の場所で過ごすことで、辛い過去の記憶に耐えている人も、きっといると思うんです」

「ふむ……」

「それに、父さんと母さんなら『自分で帰る場所を、作っていきなさい』と云うと思います。僕はそこを、ライラと一緒に、トキオ国よりも素晴らしい場所に、していきたいんです」


 父さんと母さんは、トキオ国の跡地で、そう云っていた。

 オレは一人前の男になった。だから、自分で帰る場所を、自分で作っていくことができる。グレーザーでも、銀狼族の村でもいい。ライラと共に、そこをトキオ国よりも豊かで素晴らしい場所にしていく。

 きっとそれが、父さんと母さんを早くに亡くしたオレにできる、唯一の親孝行だろう。


 オレが云い終えると、カリオストロ伯爵は微笑んだ。


「御意。ありがとうございます、ビート王子。もしお力になれることがありましたら、いつでもこちらにお手紙を下さい」


 カリオストロ伯爵はそう云って、懐からカードサイズの紙を差し出した。

 受け取って見つめると、それは連絡先を書いたカードだった。


「カリオストロ家の名誉にかけ、いつでも助太刀いたします」

「ありがとうございます。強い味方を、得られた思いです」

「ありがとうございます、カリオストロ伯爵!」


 オレたちは再び、カリオストロ伯爵に頭を下げた。




「さて……これからお祭りがあります。よろしければ、ご一緒にどうですか?」


 カリオストロ伯爵の言葉に、オレたちは驚いて顔を見合わせた。

 お祭りがある。そんなこと、全く知らなかった。オレたちが知っているサンタグラードのお祭りといえば、ニコラウス祭だけだ。しかし、今はニコラウス祭の時期ではない。


「お祭りが、あるんですか!?」

「はい、ビート王子」


 カリオストロ伯爵は、頷いた。

 どうやら、オレのことを王子と呼ぶのだけは、身体に染み付いてしまっているみたいだ。こればかりは、オレがお願いしても止めないだろうな。


「北大陸には、獣人族の雪狐族が暮らしています。その雪狐族の中でも、サンタグラードに暮らしている雪狐族たちが行う、雪まつりというものです。たくさんの美味しい屋台が、立ち並ぶのです」


 やけに詳しいなと思ったが、オレはハッとした。


 カリオストロ伯爵は、大食いだ。

 雪まつりの屋台を、きっと全て制覇する気でいるんだ!


 そしてその予想は、正しかった。


「これから、全ての屋台で買い食いをしようかと思います。トキオ国に居た頃は、人目を気にしてなかなかできないことでしたが、今となっては貴族でも気軽に楽しめます。美味しいんですよ」

「では、是非ご一緒に!」

「わたしも行きたいです!」


 オレとライラが云うと、カリオストロ伯爵は頷いた。


「かしこまりました」


 オレたちはカリオストロ伯爵と共に、雪まつりに向かった。



 雪まつりの会場で、オレたちはカリオストロ伯爵と共に、屋台回りを楽しんだ。

 雪まつりに参加したのは初めてだったが、雪まつりの中で買い食いをしていると、寒さも忘れてしまった。串焼きやショコラトル、フルーツサンドを食べていく。

 楽しい時間は、あっという間に過ぎ去ってしまう。


 もしもトキオ国が滅びずに、カリオストロ伯爵が側近として常に近くに居たら、王子としても楽しい生活ができていたかもしれないな……。

 ライラを王女として迎え、こうしてお祭りを、カリオストロ伯爵と共に楽しむ。

 庶民派王子として、親しまれていたのかもしれないな……。


 オレはそんなことを考えながら、買い食いを楽しんでいた。



 久しぶりに、平和な時間を過ごすことができたオレたちの心は、穏やかになっていった。




 雪まつりが終わると、カリオストロ伯爵はサンタグラード駅へと戻ることになった。


「ビート王子にライラ王女、ここでお別れとなります」


 サンタグラード駅のロビーで、カリオストロ伯爵はそう告げた。


「私はこれから、西大陸に戻らなくてはなりません」

「もう、帰ってしまうんですか?」


 ライラが問うと、カリオストロ伯爵は頷く。


「留守を預かっている使用人たちが、私の屋敷で待っています。交代に来た者たちと入れ替わりで、休暇を与えてあげないといけません」

「それは大変ですね」

「えぇ。しかし、こうして私が動くことができるのも、使用人たちのおかげです」


 カリオストロ伯爵は、改札の前で立ち止まった。


「カリオストロ伯爵、どうかお元気で!」

「はい、ビート王子にライラ王女。またお会いできる日を、楽しみにしております」


 オレの言葉にそう答え、カリオストロ伯爵は改札の内側へと入っていく。


「さようならーっ!」

「お元気でーっ!!」


 カリオストロ伯爵の姿がホームの奥に消えるまで、オレとライラは手を振りながら、カリオストロ伯爵を見送った。

 その時に、オレは確かに見た。


 カリオストロ伯爵が、少しだけ目元に涙を浮かべていたのを――。




「……行っちゃったね、ビートくん」

「うん……」


 カリオストロ伯爵の姿が見えなくなると、オレとライラはロビーに残された。

 先ほどまでは感じなかった寒さが、今になって身体に突き刺さるように、感じられる。


 あぁ、温かいものに触れたい!

 そう思ったオレは、ライラの手を握った。


「……オレたちも、行こうか」

「うん!」


 笑顔で返事をしたライラと共に、オレたちはサンタグラード駅を出ていく。

 そうだ、オレたちも、行かなきゃいけない場所がある。




 オレたちは雪が舞うサンタグラードの街中を、進んでいった。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

感想、誤字脱字、ご指摘、評価等お待ちしております!

次回更新は、8月24日21時更新予定です!

そして面白いと思いましたら、ページの下の星をクリックして、評価をしていただけますと幸いです!


カリオストロ伯爵のモデルとなったのは、風の谷のナウシカのクロトワです。

あんまり似ていないですが(笑

ルパン三世カリオストロの城とは、名前が同じ以外は関係ありません。

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