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幼馴染みと大陸横断鉄道~トキオ国への道~  作者: ルト
第11章 北大陸の大嵐
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第135話 タルタロス監獄の使者

「こっちだ!」

「はいっ!!」


 カリオストロ伯爵が連れてきたのは、捕まえたノーゼル侯爵とロストダディ公爵だけではなかった。

 旧式ライフルで武装した、騎士たちだ。制服の胸には、鉄道騎士団の紋章。


 泣く子も黙る、鉄道騎士団の騎士たちだ。




「ノーゼル侯爵とロストダディ公爵、それにその手下のオーレリアとヘルガですね」

「はい、間違いありません」


 騎士の問いに、カリオストロ伯爵が答える。


「わかりました。それではこれより、ジオスト駅へ連行します」

「その後は、どうなるんですか?」


 ライラが、騎士に尋ねた。


「貨物車に乗せ、サンタグラード駅へ運びます。電信で連絡して、駅にタルタロス監獄の使者を呼び寄せます。そこでタルタロス監獄の使者に引き渡します」

「タルタロス監獄……。なるほど、そこなら安心ですね」


 カリオストロ伯爵が頷くと、鉄道騎士団がロープを手にした。


「それでは、連行します」

「よろしくお願いいたします」


 鉄道騎士団がロープを受け取り、カリオストロ伯爵が一礼すると、騎士団は連行していく。

 ノーゼル侯爵とロストダディ公爵は、さんざん殴られたらしく、顔中があざだらけになっていた。ちょっとかわいそうな気もしたが、トキオ国を滅ぼす片棒を担いだ連中だ。同情はできない。

 オーレリアとヘルガは、連れていかれるときに、オレの方を一瞥した。


「……?」


 どうして、オレを見るんだ?

 尻尾をめちゃくちゃにしたから、怒っているのか?


「……」

「……」


 オーレリアとヘルガは、恨めしそうな目でオレを見てから、連行されていった。

 やっぱり、尻尾のことは恨んでいるんだろう。


 さて、寒いからオレたちも列車に戻ろう。

 そう思っていると、ライラが口を開いた。


「あの、タルタロス監獄の使者って、何ですか?」

「ライラ王女、列車に戻ってからお話してもよろしいでしょうか? もうすぐ、出発時刻でございます。列車の中で、お話いたしましょう」

「はっ……はい!」


 王女と呼ばれたのが嬉しかったらしく、ライラは顔を赤くしていた。


 その後、オレたちはジオスト駅に戻り、ショートテイル・シェアウォーター号に乗り込んだ。

 出発時刻がやってくると、ショートテイル・シェアウォーター号は出発を汽笛で告げる。機関士が信号を確認し、機関車が線路の上を走りだす。停車中にできた氷柱をバキバキと折りながら、雪の中をショートテイル・シェアウォーター号は駆け抜ける。

 次の停車駅は、北大陸の終点、サンタグラードだ。


 そしてそこで、オレたちは列車を降りることになっている……。




 ショートテイル・シェアウォーター号の中でオレたちは、助けてくれたお礼にと、カリオストロ伯爵に食堂車で夕食をご馳走した。

 最初はカリオストロ伯爵は遠慮していたが、オレが『父さんと母さんも、きっと喜ぶから』と云ったら、受けてくれた。

 好きな料理を頼んでいいと告げると、カリオストロ伯爵はスープを一杯だけ注文した。

 それだけでいいのかと思ったが、カリオストロ伯爵は、それを本当に美味しそうに食べていく。


「あの、すみません、カリオストロ伯爵」

「ライラ王女、どうされました?」


 スプーンを置き、カリオストロ伯爵がナプキンで口を拭う。


「列車に乗る前に尋ねたことなんですが……タルタロス監獄の使者って、何ですか?」


 ライラが尋ねた。

 タルタロス監獄の使者。


 オレは本で読んで知っているが、ライラには話したことが無かったな。

 話すような出来事も無かったし、グレーザー孤児院では教わらないことだ。知らなくても、無理はない。


「知りたいんです。教えてください!」

「かしこまりました、ライラ王女」


 カリオストロ伯爵は、口を開いた。


「まずは、タルタロス監獄についてお話しします。タルタロス監獄とは、北大陸で最も寒さと雪が厳しい、北東の奥地にあります。寒さを避けるためと、脱走防止を兼ねた、三重の高い防壁の中にあります。そこには各地から送られてきた凶悪犯を収容しております。心の底まで凍りつくような寒さと、囚人に課せられる重労働で、囚人たちは罪を償うのです」

「聞いただけで寒そう……」


 ライラは両腕で、自分を抱え込んだ。

 北大陸の北東の奥地とは、北大陸の中でも最も寒さが厳しい所だ。サンタグラードと銀狼族の村の間にある場所よりも、よっぽどきつい寒さが待っている。そんな場所には、行くだけでも大変だ。脱走するのは、死を意味するといっても過言ではない。

 オレだって間違っても、そんなところには行きたくない。


「そんなタルタロス監獄から来たものが、タルタロス監獄の使者でございます。看守が直接、身柄を護送することが決まりであり、脱走はできません。すでにサンタグラードの駅には、使者が待機しております。列車が到着後、速やかに引き渡されますので、ご安心を」

「はい! ありがとうございます!」


 ライラが云うと、カリオストロ伯爵は再びスープを口に運んだ。


 その夜、オレは個室でライラの尻尾を思う存分に、モフモフした。

 翌日になると、ショートテイル・シェアウォーター号は、サンタグラードに到着した。




 ホームで待ち構えていたのは、黒いローブを着て、新式ライフルで武装した男たちだった。

 あれが、タルタロス監獄の使者か。風で黒いローブがたなびく様は、オレには死神を彷彿とさせた。

 いや、これからタルタロス監獄に収容されるノーゼル侯爵とロストダディ公爵、そしてオーレリアとヘルガにとっては、死神に間違いないだろう。


 そしてオレたちは、立ち会いをしなくてはならなかった。

 立ち会いにはオレたちとカリオストロ伯爵の他、駅員が数人と、鉄道騎士団が立ち会った。


「こちらが、ノーゼル侯爵とロストダディ公爵、そしてオーレリアとヘルガです」

「確かに、こちらでお預かりいたします」


 鉄道騎士団から、タルタロス監獄の使者に身柄引き渡しが行われていく。

 タルタロス監獄へは、サンタグラードの駅にある別のホームから、専用列車によって護送されるらしい。詳しくは分からないが、カリオストロ伯爵が云うには、牢獄のようになっている貨物車らしい。まるで、人間貨車だ。


「さぁ、乗り込め!」

「は……はい……」

「わかりました……」


 使者の指示で、ノーゼル侯爵とロストダディ公爵は、自ら専用列車に乗り込んでいく。

 さすがは腐っても爵位持ちの貴族だ。こんな時でさえ、見苦しい振舞いなどは一切見せない。それどころか、堂々としているようにさえ見える。敵ながら、これにはあっぱれだ。

 それに続くオーレリアとヘルガは、正直予想外の振舞いをしていた。


 オレの姿を見るなり、口を開いたのだ。


「お願い! ちょっと止まって!!」

「ダメだ、来い!」


 使者が引っ張るが、抵抗するオーレリアとヘルガ。

 よほど、タルタロス監獄に行きたくないのだろう。年齢がいくつくらいかは分からないが、オレたちより少しだけ上ということは分かる。これからという時に、タルタロス監獄への幽閉となっては、抵抗する気持ちも分かる。


 そう考えていたオレだったが、その考えは間違っていたことを、すぐに知ることとなった。


「お願い!! あのビートに、最後に尻尾を触ってほしいの!!」

「はぁ!? 何を寝ぼけたことを云っている!?」


 オーレリアの言葉に、使者も戸惑いの声を上げた。


「1回だけでいいの! あのテクニックを知ったら、もうあれ無しなんて想像したくもないの!!」

「タルタロス監獄でもどこにでも行くから! どんな罰だって受けます! お願いですから、ビートに私たちの尻尾を、満足いくまで触ってほしいんです! 何でもしますから!!」


 こいつら、頭がおかしくなったんじゃないか?

 あんなに好き勝手に触ったんだ。プライドを、ズタズタになるまで踏みにじられたのだから、オレに危害を加えようとするなら理解できる。しかし、それとは逆に、尻尾を触られたことを喜んでいる。

 オレとライラは、顔を見合わせた。

 目の前で起きていることが、とても現実のものとは思えなかった。


「ええい、見苦しいぞ! そんなに触られたいのなら、刑罰の中に入れてやる!!」

「ダメ! ビートに触ってほしいの!!」

「あれ無しじゃあ、もう生きていけない!! お願いします!!」


 オーレリアとヘルガは、悲痛な声で訴える。

 しかし、そんな努力も虚しく、オーレリアとヘルガは専用列車に乗せられていった。


 ドアが閉じられると、声は一切聞こえてこなくなった。

 どうやら防音性も優れているらしい。きっと機密保持のためと、北大陸の寒さに耐えるためだろう。


「それではこれより、身柄をタルタロス監獄へと送ります」

「よろしくお願いいたします」


 カリオストロ伯爵に敬礼して、タルタロス監獄の使者たちも、専用列車と機関車に乗り込んだ。

 汽笛を鳴らすと、専用列車はゆっくりとサンタグラードの駅を出て、北東方面に伸びる線路の上を走っていく。オレたちに見送られて、専用列車は真っ白な大地の中へと、消えていった。




 やれやれ、これにてなんとか、一件落着か……。


「ビートくん、オーレリアとヘルガって……」

「うん。これで何年かは、タルタロス監獄の中で罪を償うことになるな。……それにしても最後、ちょっとみっともなかったな」


 オレは少しだけ笑いながら、ライラに云った。


「めちゃくちゃに尻尾を触ったオレを見て、また尻尾を触ってほしいなんて叫んでたよ。正直、耳を疑ったな」

「ビートくん、わたし……オーレリアとヘルガの気持ちが、最後には分かったの」

「……えっ?」


 ライラの言葉に、オレは首をかしげる。

 オーレリアとヘルガの気持ちが、最後に分かった?


「どういうこと?」

「ビートくんに尻尾を触られて、気持ちよかったってことよ」


 真剣な目で、ライラは云った。


「ビートくんに尻尾を触られると、すっごく気持ちがいいのよ。もちろん最初からそういうわけじゃなかったけど、触られていくうちに気持ちよく感じるようになってきちゃったの。オーレリアとヘルガも、それに目覚めちゃったんだわ。だから、醜態を晒してでも、触ってほしかったんだと思うの。これからタルタロス監獄にいる間は、ずっとビートくんに尻尾を触ってもらえない。そう考えると、まさに地獄ね」

「オレの手は……一体どうなっているんだ……?」


 自分自身の手なのに、まるで分からなかった。

 この手からは、獣人族の尻尾を性感帯に変えてしまう何かが、出ているのだろうか?


 すると、ライラがオレの手を握った。


「ビートくん、わたし以外の人の尻尾には、触らないでね?」

「さっ、触らないよ! オレがタルタロス監獄に入れられるから! それにオーレリアとヘルガの尻尾、イマイチだった。ライラの尻尾が、オレには1番だ」

「もうっ、ビートくんってば!!」


 顔を真っ赤にして、ライラが恥ずかしがる。

 しかし尻尾は、左右にブンブンと振られていた。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

感想、誤字脱字、ご指摘、評価等お待ちしております!

次回更新は、8月23日21時更新予定です!

そして面白いと思いましたら、ページの下の星をクリックして、評価をしていただけますと幸いです!


尻尾をモフモフするのは、夢でもあります。(笑


ルトくんも

     ライラの尻尾を

            モフりたい

                  詠み人 ルト

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