第133話 過去の精算
「オーレリアとヘルガね!!」
ライラが叫んだ。
「ライラね!?」
「そうよ! わたしはライラ。ビートくんの妻よ!」
ライラ、最後の情報は必要なのか?
オレが疑問に思っていると、オーレリアが口を開いた。
「あなたとあなたの両親のせいで、私たちは苦しい思いをしたのよ!!」
オーレリアはそう云うと、これまでの出来事を語り始めた。
私たち、オーレリアとヘルガは、東大陸で生まれたの。
両親は銀狼族の村以外で暮らしている銀狼族の夫婦で、その間に生まれた姉妹が、私たちオーレリアとヘルガだった。私オーレリアが姉で、ヘルガが妹よ。
生まれてから10歳になる頃までは、両親と共に平和に暮らしていたの。両親が読み書きと計算を教えてくれて、10歳を過ぎてからは、両親の仕事の手伝いをしていたわ。
だけど、奴隷狩りが私たちの家を襲撃したの。
銀狼族がいるとどこかで知って、奴隷として高く売れると思ったのね。その時は、家族全員が奴隷の身に堕とされると思ったわ。
だけど、そうじゃなかったの。
奴隷商人は、両親と取引をしたの。
私たち姉妹を奴隷として売り飛ばせば、両親のことは奴隷にしないと。
両親はそれを承諾して、私たちを奴隷商人に売り渡したわ。
後から分かったんだけど、両親は年を取っていたから、奴隷としての利用価値が低くて商品にならない。だから商品として高値が付く、私たちを仕入れようとしたの。
それにその時は、私たちの家も貧しかった。だから口減らしと、少しでも自分たちが生き延びるために、私たちを売ったの。
その後、私たちは奴隷商人によって駅に連れていかれ、そこで輸送列車に載せられたの。奴隷商人がチャーターした列車で、他の多くの奴隷たちと一緒に南へと運ばれたわ。
これで私たちの人生は終わった。輸送列車に揺られている中で、そう思ったわ。せめての希望は、同じ人に姉妹揃って買ってもらって、共に過ごせることだけだった。
だけど、神様は私たちを見捨てはしなかった。
奴隷商人の輸送列車が、盗賊団の襲撃に遭ったの。厳重な警備をしていたから、金目のものが多く積まれていると、盗賊団は考えたのかもしれないわ。
奴隷商人は殺害され、奴隷たちは次から次へと混乱に乗じて逃げ出した。もちろん、私たちも逃げ出したわ。中には盗賊団に捕まった人も居たけど、奴隷商人でも盗賊団でも、捕まれば同じ運命が待っていると思ったの。
必死で私たちは、工業都市のギアボックスを目指した。ギアボックスまで行けば、何か仕事があるかもしれない。姉妹で共に暮らしていけるかもしれないと思ったの。
そんな中で出会ったのが、旅をしていたシャインとシルヴィだった。
同族ということで、最初は助けようとしてくれた。
でも、それもすぐに終わったの。
2人は奴隷商人のアダムに追われていたわ。それに加えて、シルヴィはその時すでに妊娠していたの。
一緒に逃げることはできないと、2人は持っていた武器とわずかなおカネだけを渡して、去っていった。
そしてギアボックスで、ついに私たちもアダムに見つかった。
シャインとシルヴィが置いていった武器があったけど、それはただの古いデリンジャーだった。弾丸も1発しか入っていないし、そもそも私たちは武器なんて扱ったことが無かった。使うとしても、自殺以外にどうやって使えばいいのか、分からなかったわ。
奴隷になるくらいなら死のうと思ったときに、アダムがこう云ってきたの。
「シャインとシルヴィの追跡に協力してほしい。協力してくれるなら、命と身の安全は保障する。よく働けば、褒美もやろう」
それに、アダムはこうも云っていたわ。
「武器とわずかなおカネだけを渡して、共に逃げなかった? それは君たちが同族であると知りながら、どうでもいい存在としか考えていなかったということだ。そんな薄情な同族、君たちにとってもどうでもいいのではないか? むしろ、自分たちを見捨てたシャインとシルヴィに復讐する、チャンスだと私は思うがね……」
その言葉に、私たちは救われたわ。
生きる希望さえ見失いかけていた私たちに、アダムは希望を与えてくれた。
そしてシャインとシルヴィを、恨むようにもなったわ。当然のことよね。使えもしない武器と、あっという間に無くなってしまう金額のおカネ。これだけしかくれなかったの。これならまだ、何もくれなかったほうがマシだと何度思ったか分からないわ。
それから私たちは、アダムの手先となってシャインとシルヴィを追跡した。2人がトキオ国に身柄を保護されたと知ると、アダムはノーゼル侯爵とロストダディ公爵を紹介してくれた。
自分がトキオ国の貴族と接触すると、敵対しているミーケッド国王に気づかれる可能性があったの。だから間に私たちを挟むことで、気づかれにくくしたの。
幾度となく情報を流し続けて、やがてトキオ国を攻める時が来たわ。
導きの使徒と共に武装して、私たちもトキオ国に攻め入ったの。私たちはそこで、シャインとシルヴィ、そして生まれた娘のライラを殺そうとしたわ。
だけど、それはできなかった。
ミーケッド国王とコーゴー女王によって、トキオ国を脱出していたの。
ミーケッド国王とコーゴー女王は、最後まで私たちの邪魔をしてくれたわ。シャインとシルヴィが行ってきたことも知らずに、大切な友人だとぬかしていたわね。さらにライラと同じころに産まれた、たった1人の王子まで託していたのだから、泣かせてくれるじゃないの。
トキオ国が崩壊した後、私たちはアダムの命令で、シャインとシルヴィの行方を追ったわ。
目標はシャインとシルヴィ、ライラを殺すこと。
そしてアダムに、トキオ国王子ビートの首を差し出すことだった。
でも、シャインとシルヴィもそれくらは対策していたわ。
あっという間に私たちを巻いて、行方をくらませたの。ライラもビートも行方不明になって、どこにいるのか分からなかった。銀狼族の村に帰ることは間違いなかったけど、私たちは銀狼族の村がどこにあるかなんて、知らなかった。両親は最後まで教えてくれなかったし、北大陸にあるとは分かっていても、正確な場所までは分からなかった。
そして少し前に、やっとビートとライラの居場所が見つかった。
それからノーゼル侯爵とロストダディ公爵に連絡して、ビートに近づいたの。ビートを抑えれば、絶対にライラがついてくる。2人が揃ったところで銀狼族の村の場所を聞き出して、殺すつもりだったのよ。
「……時間はかかったけど、やっとライラ……それにビートを見つけたわ」
話を終えたオーレリアが、オレたちに銃を向けてくる。
それに同調するように、ヘルガも銃を取り出した。
「やっと恨みを晴らす時が来たわ!!」
「……ライラがいなければ、私たちの運命も変わっていたかもしれない。だから、シャインとシルヴィだけじゃない。ライラ……それにトキオ国の王子、ビートにも恨みがあるのよ。銀狼族の村の場所、教えてもらうわよ!」
「さぁ、云いなさい! 云わなければ、命は無いわよ!?」
2挺の銃が、オレたちに銃口を向けている。
だが、オレは全く怖くなかった。
「……ライラ、どうする?」
「答えなんて……最初から決まっているわ」
ライラの言葉に、オレは頷いた。
「……分かった」
オレたちの間に、言葉は多くなくてもいい。
目と目だけで、考えていることは手に取るように分かる。
「「フンッ!!」」
オレとライラは、同時に足をけり上げた。
「わっ!?」
「あっ!?」
オーレリアとヘルガの手から、銃が離れる。
宙に高く舞い上がった銃は、オレたちの背後に落ちていった。
「銀狼族の村の場所なんて、死んでも話すか!!」
「どうせ聞き出した後で、わたしたちを殺す気なんでしょ!? ビートくんもお父さんもお母さんも、誰も死なせないから!!」
「こ……この……!」
ヘルガが、オレたちを睨みつけた。
「皆殺しにしてやるわ!!」
「「させるかぁ!!」」
オーレリアの怒号に、オレとライラの叫びが響いた。
もうここで、こいつらを始末するしかない。
オレはそう思っていた。
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