第132話 カリオストロ伯爵
「カリオストロ伯爵、あなたは一体……!?」
オレがカリオストロ伯爵に尋ねようとした時、ノーゼル侯爵とロストダディ公爵が口を開いた。
「カリオストロ伯爵だと!?」
「なぜ生きている!? トキオ国崩壊の際に、運命を共にしたと聞いていたぞ!? さては偽物か!?」
「黙れ!!」
ノーゼル侯爵とロストダディ公爵に向かって、カリオストロ伯爵が怒鳴った。
「ビート王子のお言葉を遮るな!! この不届き者が!!」
カリオストロ伯爵の言葉に、ノーゼル侯爵とロストダディ公爵が怯んだ。
確かに、すごい声量だ。いつも飄々としていたカリオストロ伯爵からは、想像もつかない怒号だ。鉄道貨物組合でさんざん怒鳴られてきたオレも、この声にはビクっとなってしまった。隣にいるライラに至っては、耳を塞いでいる。
「少しでも動いたら、容赦なく殺す! いいな!!」
最後にそう怒鳴ると、カリオストロ伯爵はオレたちに向き直った。
「あの、カリオストロ伯爵、あなたは一体何者なんですか?」
「私は、かつて側近としてトキオ国で、ミーケッド国王とコーゴー女王にお仕えしておりました」
その答えに、オレたちは耳を疑った。
カリオストロ伯爵が、オレの父さんと母さんに仕えていた。そんな話は、シャインさんからもシルヴィさんからも、聞いたことが無かった。
カリオストロ伯爵の告白に、オレは驚きのあまり、言葉を失っていた。
しかし、ライラの言葉でオレは我に返った。
「ビートくん、どういうことか説明してもらおうよ!」
「そっ、そうだな!」
そうだ。確認するなら今だ。
ノーゼル侯爵とロストダディ公爵は、先ほどの怒号で怯んでいる。大きく見えた2人が、縮こまっていた。あの怯み方は尋常じゃない。きっと2人は、カリオストロ伯爵にトラウマを持っているに違いない。カリオストロ伯爵の背中を狙って、攻撃を仕掛けてくることはないだろう。オレたちは常に、カリオストロ伯爵の背後に目が向いているし、カリオストロ伯爵がそんなことでやられるようには思えなかった。
「……詳しい話を、聞かせてもらえませんか?」
「かしこまりました」
カリオストロ伯爵は軽く頭を下げてから、オレたちの前に跪いて、話してくれた。
カリオストロ伯爵の話によると、カリオストロ伯爵は元々、トキオ国の出身貴族だった。ただの貴族ではない。オレの父さんと母さん……つまりミーケッド国王とコーゴー女王に、代々仕える家柄の貴族だ。最も近い側近として、家令や執事に当たる立ち位置であったらしい。カリオストロ伯爵だけでなく、その親も祖父も曾祖父も……ずっと歴代の国王と女王にお仕えしてきた。
当然オレが生まれたことも、シャインさんとシルヴィさんを助けたことも、ライラが生まれたことも知っていた。そしてもちろん、トキオ国の崩壊も……。
カリオストロ伯爵は、そこでミーケッド国王とコーゴー女王と共に敵と戦い、運命を共にする覚悟であった。
しかしその時、ミーケッド国王とコーゴー女王から最後の命令ともいえることを下された。
それは『たった1人残していくビートに再会できたら、ビートの力になり、支えてほしい。そのために生き延びて天寿を全うせよ』というものだった。
最後の命令に戸惑ったが、カリオストロ伯爵は自らの使命を思い出し、崩壊する王宮とトキオ国から脱出した。
その後、生き延びているはずのオレを探し、グレーザー孤児院にいることを突き止めた。しかし、自分がアダムにマークされていたために、接触することができなかった。
しかし、かといって何もしていなかったわけではない。カリオストロ伯爵は将来的にオレを支援するために、貴族としての肩書きと経歴、そして学歴をフルに活用した。考古学者として論文を書き、大食漢であることを活かして大食い貴族としても名をはせ、アダムがおいそれと手を出せないまでになった。
ビートが銀狼族の村にいると知り、すぐに駆け付けようとしたが、カルチェラタンまで来た時にケイロン博士からビートのことを聞いた。
アダムを倒してくれたビートを一目見ようと、サンタグラードまで赴いた時に、オレを見た。その時にミーケッド国王とコーゴー女王からの命令を思い出し、カリオストロ伯爵はオレたちと共に、アークティク・ターン号に乗り込んだ。
その後は旅をしながら、オレたちを支えることに決めたのだった……。
「……そうか! だからだったのか!」
カリオストロ伯爵の話が終わると、オレは声を上げた。
「オレたちが行く先々に、いつもカリオストロ伯爵がいた。神出鬼没な不思議な貴族だと思っていたけど、あれはオレたちを見守ってくれていたんだ!」
「そういうことだったの!?」
「はっ、左様でございます」
オレの言葉にライラが驚き、カリオストロ伯爵が頷く。
カリオストロ伯爵が、そんなことを考えながら動いていたなんて……。
そういうことなら、全て理解できる。どうしてオレたちの行く先々で、カリオストロ伯爵がどこからともなく現れるのか。同じ列車で旅をしているだけではなかった。カリオストロ伯爵は、オレたちに目的をもって、近づいてきていたんだ。
「また、それと並行して、ノーゼル侯爵とロストダディ公爵の捜索と調査を行っておりました」
「あの2人の……?」
オレは一瞬、ノーゼル侯爵とロストダディ公爵に目を向けた。
表情に、焦りが浮き出ている。
カリオストロ伯爵は立ち上がると、ノーゼル侯爵とロストダディ公爵を睨みつけた。
「こいつらは、トキオ国の崩壊に関わっているのです」
「ほっ、本当ですか!?」
「はい。確かでございます」
オレの問いに頷くと、カリオストロ伯爵はノーゼル侯爵とロストダディ公爵に向けて、怒鳴った。
「我が主君、ミーケッド国王とコーゴー女王に背き、さらにビート王子を路頭に迷わせたこと。アダムと結託してトキオ国を崩壊に導き、多くの人命を奪ったこと。そして近衛兵団団長シャイン殿とその妻、シルヴィ夫人の娘ライラを引き離したこと、万死に値する! 探すのに時間と手間はかかったが、ついに見つけたぞ! 国賊め!!」
「トキオ国を崩壊に導いた……!?」
アダムと結託して、トキオ国を崩壊に導き、多くの人命を奪った。
カリオストロ伯爵は、確かにそう云った。
この2人が、あのアダムと結託していただって!?
「でたらめだ!!」
「なぜ結託していたと分かるんだ!! 我々もあの時、トキオ国に居たんだぞ。お前と同じ、我々もトキオ国の貴族だったのだからな!!」
ノーゼル侯爵とロストダディ公爵が、反論した。
この2人も、トキオ国の貴族だったのか。
「銀狼族の2人の女だ!」
カリオストロ伯爵が叫ぶと、ノーゼル侯爵とロストダディ公爵は、共に冷や汗をかいていく。
銀狼族の2人の女……もしかして、オーレリアとヘルガのことだろうか?
オレがそう思っていると、カリオストロ伯爵が続けた。
「オーレリアとヘルガの存在だ!」
やっぱりだ、当たっていた。
「アダムがなぜ、トキオ国を襲って崩壊に導くことができたのか、私はずっと疑問だった。しかし、オーレリアとヘルガが、その疑問を解く鍵となった。貴様らはミーケッド国王とコーゴー女王が国民から慕われていることに嫉妬して、国を滅ぼしてトキオ国と国民の財産全てを奪おうとしていた。そこでトキオ国の内部情報を、トキオ国と対立していたアダムに、教えることにした。しかし、直接アダムに伝えると目立ってしまう。そこに現れたのが、シャイン殿とシルヴィ夫人を追いかけてきた、オーレリアとヘルガだった。オーレリアとヘルガが伝書鳩の代わりとして、アダムに情報を伝えた。その情報を元に、アダムに有利なようにことを進めていき、最後にはトキオ国を滅亡へと導いた。貴様らを許すことなど、絶対にできん!!」
カリオストロ伯爵の言葉に、オレの中で怒りが燃え上がっていった。
あのアダムと、この2人は結託していた。オレを不幸のどん底に叩き落すために、動いていた!!
「くっ……!」
「知っていたのか、カリオストロ伯爵!」
いや、オレだけじゃない。
アダムに殺された、父さんと母さん。
銀狼族として狙われたシャインさんとシルヴィさん、そしてライラ。
トキオ国で安心して暮らしていた多くの人々。
これらの人を、不幸のどん底まで叩き落したんだ。
許すことなど……できるわけがない!!
「許さない!!」
オレは落としていたソードオフを、拾い上げた。
「よくも……オレの祖国を! そして父さんと母さん……多くの人の命を奪っておいて、のうのうと自分たちは生き残っている……絶対に許さない!!」
ノーゼル侯爵とロストダディ公爵を、オレは睨みつける。
アダムと結託していた、敵。
たとえトキオ国の貴族だった相手だとしても、関係ない。
アダムと手を組んだ時点で、オレにとって敵でしかないんだ!!
「地獄へ送ってやる!!」
「そうはさせないわ!!」
オレがソードオフを構えた直後。
女の声と共に、オレの手が鞭で叩かれた。
「ぐっ……!」
オレの手からソードオフが離れ、背後に落ちた。
「誰だ!?」
「私たちよ!」
ノーゼル侯爵とロストダディ公爵の背後から、2人の銀狼族の女性が現れた。
間違いなく、オーレリアとヘルガだった。
オーレリアが、鞭を持っている。オレの手を叩いたのは、オーレリアのようだ。
「ビートくん、あの2人がオーレリアとヘルガ!?」
「ああ、間違いないよ」
ライラの問いかけに、オレは頷いた。
鞭で打たれた右手が、まだ痛む。
「あなたがライラね!?」
ヘルガが叫ぶと、ライラは顔を上げた。
「そうよ! よくもビートくんを鞭で叩いたわね!」
「それがどうしたっていうのよ……」
すると、ヘルガが一歩前に歩み出た。
「あなたの両親のせいで、私たちがどれだけ苦労したと思っているの!!」
「どういうことよ!?」
ライラがオーレリアとヘルガを睨んだ。
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オーレリアとヘルガの過去には、一体何があったのでしょうか!?





