第131話 未来への意思
オレが導きの使徒と、アダムを殺した。
そう告げた途端、ノーゼル侯爵とロストダディ公爵は、オレへの態度を一変させた。
目が穏やかなものから、明らかに敵を見つめる目に変化していく。相手への敵意や憎しみが込められた、人と人ならざるものとの、境界線上に相手は居る。
「お前が……あの導きの使徒と、アダムを殺しただと……!?」
「そうだ!」
ノーゼル侯爵の問いかけに、オレは頷いた。
「導きの使徒とアダムが、銀狼族を奴隷にしようとして攻めてきた。オレは仲間たちと共に戦い、導きの使徒とアダムを殺して、銀狼族を守ったんだ!」
「お……お前が我々の仇だったとは!!」
ロストダディ公爵が、旧式ライフルを構え直した。
オレの手から、ソードオフが落ちる。
「探していたぞ! 理想的な新たなる世界を作るために身を粉にして各地を駆けずり回っていた、アダムを殺した仇を……!!」
「アダムの作る世界なんかの、どこが理想的なんだ!!」
オレは怒鳴った。
旧式ライフルの銃口が向けられているというのに、全く恐怖を感じない。アダムのことを、思い出しているからだろう。
オレの故郷であるトキオ国を崩壊させ、父さんと母さんの命を奪った。
そして銀狼族を奴隷にしようとして、多くの人の命を奪った存在。
オレにとって、絶対に許せない敵だ!
アダムはオレがこの手で殺したのに、今でも思い出すと怒りがこみ上げてくる。
「争いのない世界を、アダムは作るために必死になっていた! 全員がアダムに従えば、もう奴隷も必要なくなるし、誰も困らなくなるのだぞ!?」
「そんなもの……ただ全員がアダムの奴隷になるだけじゃないか! そんな世界で、オレは生きたいなんて思わなかった! 未来はアダムのものじゃない! オレたちが作っていくものなんだ!!」
「そうか、それなら……」
ロストダディ公爵が、オレの額に銃口を突きつけた。
「君には、ここで死んでもらうしかないようだな」
そっと人差し指が、引き金に掛かる。
「やめてぇっ!!」
ライラが叫んだ直後。
ダァン!!
駅のホームに、銃声が轟いた。
オレの額に突きつけられていた銃口が、離れていく。
「……ぐおっ!?」
ロストダディ公爵の手から、旧式ライフルが落ちていく。
旧式ライフルはオレたちの足元に落ちると、そこで機関部が分解した。内部に込められていた弾丸が飛び出し、部品と共にホームの上を転がる。機関部から破壊された旧式ライフルは、もう二度と撃てない。
「き、貴様! 撃ったな!?」
ノーゼル侯爵が、叫んだ。
「あぁ、撃ったよ」
オレは頷いた。
右手に握りしめたリボルバーからは、硝煙が立ち上っている。
「……跳弾で自分に当たるかもしれないのに、なぜ撃った?」
「もちろん、ライラを守るためだ」
ロストダディ公爵の言葉に、オレは答えた。
「オレだけが撃たれるなら、オレは構わない。だけど、オレを助けようとして、ライラが銃口を自分に向けるかもしれなかった。それに弾丸がそれて、ライラに当たるかもしれなかった。その2つを防ぐには、先に撃って銃を破壊する以外に方法が無かったんだ」
「なるほど……ライラはそんなに大切な存在なのか……」
「当たり前だ!!」
オレは叫んだ。
「ライラとは、これからもずっと共に生きていく! オレが生まれたトキオ国は、確かにもう無くなった。だけど、それはアダムのせいであって、銀狼族やシャインさんにシルヴィさん、そしてライラのせいじゃない! それに父さんと母さんは云っていた。オレはもう一人前の男になったのだから、これからは自分で帰る場所を作っていくことができる、と。そしてオレの帰るべき場所は、ライラが居る場所だ。そしてそこは、銀狼族の村だ。オレは自分の命が尽きるまで、ライラと共に過ごし、銀狼族の村をトキオ国のような場所にしていく! いつか父さんと母さんに再会できた日に、胸を張って誇れるように! だからライラは渡さない!」
オレがそう云い切った時だった。
「よくぞ云ったぞ! ビート王子!!」
聞き覚えのある声がして、オレは声がした方を見た。
そこには、これまでに何度もお世話になった人が居た。
「カリオストロ伯爵!!」
オレがその名前を呼ぶと、ノーゼル侯爵とロストダディ公爵が、驚いた表情になった。
カリオストロ伯爵は、冬用のマントを羽織っていた。
「かっ、カリオストロ伯爵だって!?」
「そんなバカな!? カリオストロ伯爵は、もう――!!」
「何を云っているのだ? この貴族たちは?」
カリオストロ伯爵は、首をかしげながら、ライラに向けられていた旧式ライフルを掴んだ。
そのまま銃口を逸らすと、鮮やかなやり方で奪い取った。
「馬鹿者! 銃はレディに向けるものではない!!」
旧式ライフルは、カリオストロ伯爵の手によって、真っ二つにされた。
「ビート王子、その言葉を待っておりました」
オレの言葉を待っていた?
カリオストロ伯爵って、何者なんだろう?
オレの中には、疑問が浮かぶだけだった。
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カリオストロ伯爵は、一体何者なのでしょうか!?





