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幼馴染みと大陸横断鉄道~トキオ国への道~  作者: ルト
第10章 長距離列車『ショートテイル・シェアウォーター号』
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第126話 大陸間鉄道橋

 冷たい風が、北から時折雪を運んでくる、カルチェラタン。


 カルチェラタンの駅では、ショートテイル・シェアウォーター号が出発の準備を行っていた。

 機関士と機関助士が立ち会い、機関車のすぐ後ろに連結された炭水車に、次々と石炭が載せられていく。同時に水の補給も行われ、整備士たちが慎重に水を炭水車のタンクにホースで流し込む。


 そして出発の準備に追われているのは、機関士や駅員ばかりではない――。




「急げっ、急げっ!!」


 オレはカルチェラタンの街の中を、走っていた。

 運動不足になって太ってきたからとか、ライラの身に何か起こったとか、そういうことではない。オレの体型は変化していないし、ライラは列車で待っている。

 走っているのは、以前頼んだ化粧水を受け取りに行くためだ。

 もちろん、オレが使うものではない。


 以前、ショートテイル・シェアウォーター号でルルティナを助けた後。

 ルルティナがお礼をしたいと申し出てくれた時に、オレが頼んだものだ。


 茶犬族のルルティナの父親は、カルチェラタンの大商人オーバーだ。

 オレはルルティナに頼んで、父親のオーバーに化粧水を用意してもらった。その化粧水を、ライラにプレゼントしようと考えていた。

 ルルティナは快く引き受けてくれ、すぐに手紙でオーバーに連絡してくれた。そして昨日、ルルティナから化粧水が入荷したから取りに来てほしいと、駅員を通じて連絡があった。


 そして今、オレはルルティナから教えてもらった住所を頼りに、カルチェラタンの街の中を走っていく。


「この近くのはずだ……!」


 早くしないと、売り切れてしまうかもしれない。

 化粧水は最近カルチェラタンの研究施設で開発されたばかりで、数が限られていると聞いた。さらに、カルチェラタンの女性から熱烈な支持を受けている。売り切れになるのは、時間の問題だ。

 ショートテイル・シェアウォーター号が出発するのは、今日だ。

 今日を逃したら、もう手に入れるチャンスはない。


 なんとしてでも、ライラのために化粧水を手に入れるんだ!!


 オレはその一心で、カルチェラタンの街を走っていった。




「ビートさん、お待ちしておりました!」


 オーバーの店に到着すると、ルルティナが出迎えてくれた。

 ルルティナは店先で呼び子と会計をしていて、店には学生の客が大勢来ている。数人の店員と共に、ルルティナは客の相手をしていた。


「ルルティナ、お願いしていた化粧水は?」

「こちらに、用意してあります!」


 ルルティナはそう云って、自分の懐……というか服の中から、化粧水が入ったビンを取り出した。

 いや、どう見ても胸の谷間から取り出したぞ!?

 確かに大きさとしては、ライラといい勝負かもしれないが……。


 ――って、オレは何を考えているんだ!?


「あっ……ありがとう!」

「ビートさんのために、特別に取り置きしておきました!」


 満面の笑みで、ルルティナはオレに化粧水が入ったビンを差し出してくる。

 オレはそれを、受け取った。

 ほのかに温かいが、それは気にしないでおこう。


「顔を洗った後に、少しだけ手に取って、顔につけてください。それだけで効果が出るはずです」

「ありがとう、ルルティナ。本当に、お代は良かったの?」

「はい! 私と父からのお礼の気持ちです。父も大変喜んでいました。ビートさんとライラさんは、娘の命の恩人だって。だから、お代は結構です」

「わかった。お父さんにもよろしくね」

「いえ、大変お世話になりました。北大陸は寒いですから、どうぞお気をつけて!」


 ルルティナとそう言葉を交わしてから、オレは駅に向かった。

 駅に向かっている途中で、雪がチラチラと舞い始める。どうやら風向きが変わって、北大陸の方角から雪が流れてきたみたいだ。その証拠に、北大陸の方角の空には、灰色の雪雲がどっしりと構えている。


 何度見ても、嫌な雲だなぁ……。

 大雪にならないうちに、早く列車に戻ろう。

 化粧水を、ライラに一刻も早く手渡ししたい。


 オレは足を速めた。




 改札で乗車券を見せ、ホームへと足を踏み入れる。

 その先に停車している列車、ショートテイル・シェアウォーター号にオレは乗り込んだ。ちょうど乗り込んだ車両は、客車の投球に関係なく利用できるラウンジカーだった。すでに寒くなってきたためか、乗客の多くが北大陸の装いになっている。1等車や特等車を使う王侯貴族らしき乗客は、毛皮のコートを身にまとい、寒さをしのいでいる。対して2等車や3等車を使っている人々は、持ち合わせの衣類でなんとかしのいでいるといった様子だ。中には、新聞紙を身体に巻き付けている人までいた。


 そんな中を進んでいき、オレは2等車に足を踏み入れた。

 2等車の廊下には、誰も居ない。個室へと通じるドアは全て閉じられていて、中からは話し声が微かに聞こえてきた。しかし、何を話しているのかまでは、分からなかった。


 だが、そんなことは今はどうだっていい。

 オレはライラに、化粧水を渡さなくてはならないのだから。


 オレとライラが使っている部屋のドアを見つけると、オレはノックをした。


「ライラ、戻ったよ」


 ドアに向かってそう云うと、鍵が外れる音がして、ドアが開いた。


「お帰りなさい」


 ライラが、内側からドアを開けてくれた。

 1人で個室に居る時は、ライラは常に鍵をかけている。オレは2人で決めた回数のノックをしないと、個室には戻れない。

 個室に入ると、オレは内側から鍵をかけた。

 もうこれで、この個室はオレとライラのプライベートスペースになった。


「ライラ、これ受け取ってきたよ」


 オレはそう云って化粧水を取り出すと、それをライラに手渡した。

 ライラはスンスンと臭いを嗅ぐと、目を輝かせてオレを見た。


「ビートくん、これってもしかして……!」

「うん、化粧水」

「やっぱり!!」


 ライラは尻尾をブンブンと振りながら、化粧水を見つめた。


「ルルティナが恩返しをしたいからと云ってきた時に、化粧水を頼んだんだ。顔を洗った後に、少し手に取ってつけるよいいんだって」


 オレはルルティナから聞いた使い方を、ライラにそのまま伝える。


「こんなに高いものを……!」

「どうしても、これが欲しかったんだ。ライラには、いつまでも綺麗で美しく居てほしくて……。そんなときに、ルルティナが恩返しをしたいからって申し出てきた時に、これを用意してもらうことを思いついたんだ。オレはライラに化粧水を渡せて満足だし、ルルティナはオレたちに恩返しができて満足。共にウィンウィンだ」

「ビートくん……!」


 ライラは尻尾をブンブンと振りながら、オレに近づいてきた。


「それじゃあ、わたしからのお礼ね」

「おうっ!?」


 そう云うと、ライラはオレの頬にキスをした。

 オレは実質的にタダで、ライラのキスという報酬を手に入れてしまった。


 いや、確かライラはお願いしてくれたらいつでもするって、云っていたような……。

 まぁ細かいことはいいや。

 ライラからのキスは、最高だから……。




 夕方が近づいてきた頃。

 ショートテイル・シェアウォーター号の出発時刻が、やってきた。


 駅員が出発時刻を告げて笛を吹き、機関士が信号を確認して、機関助士に指示を出す。

 機関助士が合図をすると、機関士が汽笛を鳴らして、ブレーキレバーを操作した。


 蒸気機関車が動き出し、ショートテイル・シェアウォーター号はカルチェラタンの駅を出発していく。

 駅員と見送りの人々に見送られながら、ショートテイル・シェアウォーター号は線路の上を進む。その先に待ち構えているのは、北大陸と東大陸の間に架けられた、大陸間鉄道橋だ。

 そこに向かって、ショートテイル・シェアウォーター号は進んでいく……。




 大陸間鉄道橋に列車が入ると、雪が本格的に舞い始めた。

 カルチェラタンでは、少しパラつく程度の量だった。北大陸に近づいているためか、雪はしんしんと降り続いては、景色を白く染めていく。


「ビートくん、また北大陸に戻ってきたわね」


 ライラの言葉に、オレは頷いた。

 北大陸を出て、西大陸まで行って、北大陸に戻ってきた。


 銀狼族の村が北大陸にあるためだが、もうオレは北大陸に郷愁のようなものを感じていた。


「うん。銀狼族の村に少しずつだけど、近づいている。村に帰ったら、シャインとシルヴィさんに、トキオ国の跡地がどうなっていたのか、報告しなくちゃ」


 そうだ。

 オレは報告しなくちゃいけない。


 シャインさんとシルヴィさんは、かつてオレの父さんと母さんの下で働いていた。

 そしてトキオ国が崩壊する時、父さんと母さんから頼まれて、生まれたばかりのオレを連れてトキオ国を脱出した。それ以来、トキオ国の跡地には一度も足を踏み入れていない。出発する前に話した時、トキオ国の跡地がどうなっているのかを、とても気にしていた。

 オレがライラと共に見てきたトキオ国の跡地のことは、シャインさんとシルヴィさんにも、必ず伝える。それをしないといけない。


「ねぇ、ビートくん」

「ん?」

「ちょっと、いい?」


 ライラはそう云って、オレの耳元で何かを話し始めた。




「……えっ? 変な男たち?」


 ライラの話の内容に驚いて、オレは目を丸くした。


「うん。ビートくんが居ない時に、ホームをうろついていたの。微かに聞こえてきた話だと、展覧会で見た銀狼族のスペースの前にいた、白狼族の娘がどうとかって……話していたの」

「……!」


 オレは、全身をアドレナリンが駆け抜けるのを感じた。

 白狼族の娘。

 しかも、展覧会で見た銀狼族のスペースの前にいた。

 ライラのことで間違いないだろう。


 ホームで話していたことであっても、ライラは耳が良いから、聞こえてきたに違いない。


「ビートくん、怖いよ……」

「ライラ、大丈夫」


 オレはそっと、ライラの手を握った。


「しばらく、様子を見よう。ノルテッシモかジオストで何かあると、大変だ。大丈夫、いつもオレがついているから」

「ビートくん……ありがとう」


 ライラが笑顔を見せ、オレはひとまず安心する。




 そのとき、ショートテイル・シェアウォーター号が急ブレーキをかけた。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

感想、誤字脱字、ご指摘、評価等お待ちしております!

次回更新は、8月14日21時更新予定です!

そして面白いと思いましたら、ページの下の星をクリックして、評価をしていただけますと幸いです!


大変お待たせして申し訳ございませんでした!

本日より更新再開いたします!

そして毎日更新に戻します。


退職に引っ越しに資格試験勉強と、色々と予定が重なりすぎました。

おかげで未だに、手続きなどが済んでいない部分があります。

執筆も進まず、楽しみにして頂いている皆様には、大変ご迷惑をおかけいたしました。

この場を借りまして、お詫び申し上げます。


次回から、一気に最終章に突入いたします。

カリオストロ伯爵の正体が、最終章で明らかになります。

ビートとライラを、どうか最後までお見守り下さいますよう、お願い申し上げます!

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