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幼馴染みと大陸横断鉄道~トキオ国への道~  作者: ルト
第10章 長距離列車『ショートテイル・シェアウォーター号』
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第121話 最も残酷な人々

 刺青の盗賊ドブと、その兄で破戒僧ボードゥとの戦いが、始まった。


「うらぁっ、死ねえっ!!」

「わあっ!!」


 ドブとボードゥが、同時にトミーガンを撃ってきた。

 トミーガンはまるで、タイプライターのような射撃音を出しながら、次々に弾丸を吐き出していく。


 とてもじゃないが、真正面から戦って叶う相手じゃない。

 オレは大急ぎで、石油井戸の敷地内にある教会に、窓を割って飛び込んだ。タルや石油タンクの後ろには、隠れたくなかった。もしも万が一、弾丸が命中したら、街を火の海にしてしまう。ドブとボードゥは死ぬが、もちろんオレも助からないだろう。そしてそのことをライラが知ったら、オレの後を追うかもしれない。ライラにそんなことをさせたら、オレはシャインさんとシルヴィさんに合わせる顔が無い。もちろん、父さんと母さんにも合わせる顔が無い。


 それにオレは、できることならドブとボードゥとは、戦いたくなかった。

 トミーガンが怖いわけじゃない。連射はすごいが、弾丸はどうやら拳銃弾のようだ。教会の壁は分厚いらしく、トミーガンの弾丸は壁をぶち抜くことはできない。


 だけど、このまま一方的に撃たれてばかりではダメだ。

 反撃するか、なんとかして逃げ出すか。

 できれば逃げ出したいが、ドブとボードゥを放っておくこともできない。それに逃げ出したくても、これでは袋のネズミだ。脱出したくても、無理がある。


「どっ、どうすれば……!?」


 必ず、何かしらの手段はある。

 だけど今、オレにはそれがどこにあるのか、皆目見当もつかなかった。




「兄ちゃん! あいつ教会に逃げ込んだまま、出てこないぞ!?」

「きっと、教会の中に隠れて、俺たちの攻撃をやり過ごそうとしているに違いない。だが、あそこは正面以外に出入り口が無い。窓を破るにしても、それくらいはこっちだって想定済みだ。飛び出してきた瞬間に、撃つ。どっちにしろ、もう俺たちが勝利したようなものだ」


 ドブの言葉に、ボードゥはそう云った。


「兄ちゃん、教会に火を放って、奴を引っ張り出そうよ。あの教会だって、元々は街の奴らが勝手に建てたものなんだ。手始めに、あの教会を燃やしてしまおう!」

「ダメだ。飛び火して石油に引火したら、どうするんだ?」

「あっ、そっか……」


 シュンとしたドブに、ボードゥは微笑む。


「焦ることは無い。じっくりと苦しめてから、街の奴らに死体袋に入れて届けてやればいいさ。俺たちに逆らうと、こうなるってな!」

「そうだね兄ちゃん!」


 ドブはトミーガンのドラムマガジンを交換すると、教会に再び銃口を向けた。




 くそう、奴らめ。

 弾幕が途切れないように、交代しながら撃ってきている。

 これじゃあ、こっちが撃つ隙ができない。


 さすがは腐っても、元地下格闘技場の選手だけある。

 相手に反撃の隙を与えない戦い方を、ちゃんと心得ている。


 オレは感心しつつも、この状況を切り抜ける方法を探していた。

 このままでは、日が暮れてしまう。


「こうなったら……!」


 オレはAK47を手にしたまま、床を這うように移動していく。立ち上がれば、どこで頭を撃ち抜かれるか分からない。そんなリスクを冒すわけにはいかなかった。


 祭壇の前まで移動して、オレは説教台の下まできた。

 上を見上げると、神像がオレを見下ろしている。この場で祈りを捧げても、奇跡なんて起こるはずがない。


「説教台に、何かないだろうか……!?」


 説教台の中には、色々なものが入っていることを、オレは知っていた。

 鉄道貨物組合でクエストを請け負っていた頃、教会にも荷物を届けたことがある。その時に、教会の説教台の中を見たこともあった。

 書類に文房具、本、名簿……。

 果てには、隠し武器まであった。


 きっとこの教会の説教台にも、何か隠されていると見ていいだろう。

 オレはそう思いながら、時折窓ガラスを割って飛び込んでくる弾丸に注意しつつ、説教台の引き出しを開けた。


 すると、何枚かの紙切れが落ちた。


「……?」


 ふとオレは、その紙切れを拾い上げた。

 紙切れを手にして、そこに書かれている内容に目を通していく。


「……!」


 オレは紙切れが出てきた引き出しの中を漁った。

 さらに引き出しからは、いくつかのファイルが出てきた。


 その全てのファイルに、目を通した。


「ドブ……それにボードゥ……!!」


 オレは紙切れとファイルをまとめて服の中に隠すと、AK47を手に教会の屋根に登った。

 決着をつける時が、やってきた。




 オレは、ナフサの駅に戻ってきた。


「きっ、君! 石油井戸に行ったんだって!?」


 駅の中に入ると、ナフサの人らしき男性が、オレに訊いてくる。


「はい。そこでドブと交戦してきました」

「それで、ドブは……!?」

「ドブは、生きていますよ」


 オレの言葉に、ナフサの人々は愕然とした表情になった。

 そうだろうな。オレは結果として、ドブとボードゥは殺さなかった。


「ドブとボードゥが持っていた武器を破壊した後に、石油井戸の土地を全て、ドブとボードゥが所有することで納得してくれました。これからは兄弟で石油井戸の土地を耕して農業をしつつ、平和に暮らしたいそうです」

「ふ……ふざけるな!!」


 男が声を荒げ、町の人々からの視線が変わった。

 これまでに何度も浴びてきた、敵に向けられる視線だ。


「あの石油井戸がどれほどの価値を持つ存在か、君は分からないのか!?」

「あれ1つだけで、炭鉱3つに相当するんだ! それに石油は新しいエネルギーだ。それをお前は、ならず者のドブに渡したんだぞ!?」

「せっかく街が潤ってきたというのに、また炭鉱だけになっちゃったじゃないか!」

「どうしてドブを殺してこなかったんだい!?」

「ドブを殺したところで、痛くも痒くもないんだ!」

「旅人が好き勝手なことしてくれて!!」


 ナフサの人々が一斉に、オレに対して非難を始める。

 気持ちは最もだ。


 だが、オレはここでこの人たちの言い分を認めるわけにはいかなかった。




「勝手なことしてきたのは、お前たちだろ!!」


 オレの怒鳴り声に、町の人々の非難が止まった。


 なぜ、こいつは怒鳴った?

 勝手なのは、俺たちだって?

 このガキは何を云っているんだ?

 頭がおかしくなっちまったのかね?


 いくつもの目が、オレを見てそう云っていた。

 つくづく、勝手なことばかりを考えてくれる。


「ドブとボードゥから聞いたぞ。ドブとボードゥの両親を事故に見せかけて殺害して、土地の権利を奪ったんだって!? この人でなしどもが!!」

「ち、違う!!」


 1人の男が否定した。

 目が、明らかに泳いでいた。


「じゃあ、これはなんだ!?」


 オレは服の中から、1枚の書類を取り出した。

 土地の権利書と、探偵による調査報告書だった。


 どちらも、教会の説教台の中から見つけたものだ。

 そしてドブとボードゥと交渉し、持ち出した。


「そっ、それは……!」

「この権利書には、ドブとボードゥの両親の名前が記されている。それに探偵の調査報告書には、明らかに人為的な工作の痕跡があり、他殺の線が濃厚と出ているぞ!?」

「やっ、奴ら、探偵に頼んでいたとは……しまった!」


 認めたな。

 やっぱりこいつらは、事故に見せかけて殺害していたんだ!


「それだけじゃないぞ!!」


 オレはさらに、ドブとボードゥが集めた、八百長の疑惑に関する証拠も取り出した。

 隠し撮りされた何枚もの写真に、人々は青ざめていった。誰も知らないはずの、八百長の証拠。ドブに濡れ衣を着せるための方法が、細かくまとめられた書類。

 写真に写っている人物の何人かは、オレの目の前にいた。


「これまで好き勝手やってきたんだ。その対価を払ってもらうぞ」

「どっ、どうする気なんだ!?」

「ドブとボードゥと話し合って、これを裁判所と領主に送り付けることにした」

「そっ、それだけはやめてくれ!!」


 ナフサの人々が口々に声を上げるが、オレは聞き入れなかった。

 約束したことは、守らないといけない。


「頼む! カネならいくらでも払うから!!」

「そうだ! それに裁判所と領主がどう判断するかなんて、分からないじゃないか!」

「裁判所と領主がどう判断するかだって? それはもう分かっているよ」


 オレの言葉に、人々は首をかしげる。

 まだ分からないみたいだな。


「あんたらの反応が、ドブとボードゥが正しかったことを証明しているじゃないか。本当にあんたらが正しいなら、こんなものを見せられても、何も思わないはずだ!」

「……!!」


 どうやら、やっと気づいたみたいだ。

 だが、こんなところで芝居をやっている暇はない。


 これを駅事務室に持ち込み、裁判所と領主宛てで投函しないと。


 駅事務室に向かって歩きだすと、後ろから銃の撃鉄を下す音がした。


「くそうっ! 死ねっ!!」


 バァン!!


 駅の構内に、銃声が轟いた。




「……ぐぐっ!」


 リボルバーが、地上に落ちていく。

 オレの右手はリボルバーを握り締めていて、銃口からは硝煙が立ち上っていた。


「が……ガキめ……!」

「後ろから撃つなんて、どこまでお前たちは卑怯なんだ!!」


 オレはそう叫ぶと、もう1回リボルバーを撃った。

 地上に落ちたリボルバーは、弾丸を受けてバラバラになった。


「まだやるっていうなら、相手してやるぞ……?」

「ひいっ!」


 オレが睨むと、町の人々は後ずさる。

 もうこれで、誰もオレを襲おうとはしないだろう。


 オレは再び歩き出し、駅事務室に入っていった。


 その後、オレは駅事務室で郵送の手続きを行った。

 ドブとボードゥから預かった書類とファイルは、全て速達かつ内容証明郵便として出され、ショートテイル・シェアウォーター号の郵便貨車に載せられた。

 これで書類は、鉄道騎士団の管轄になった。町の人々が取り返そうとしても、取り返すことはできない。


 そして予定より少し遅れて、ショートテイル・シェアウォーター号はナフサの街を出発した。




 離れていくナフサの街を見て、オレはホッとしていた。

 もう二度と、この街には来たくない。


 そしてオレはナフサの街を出てから、ライラに事の全てを話した。

 ナフサにいた時に話さなかったのは、もし町の人々がライラの元へ押しかけた時に、ライラを守るためだった。知らないとライラが答えるしかなければ、ライラに危害が及ぶことは無い。

 もちろん他に、ライラに話してライラが変な行動に走るのを防ぐ目的もあった。


「ビートくんのしたことは、間違っていないよ」


 ライラはオレに、そう云ってくれた。


「ありがとう、ライラ」

「わたしだって、グレーザー孤児院や銀狼族の村で同じことがあったらと思うと、ドブさんやボードゥさんの気持ちが理解できるわ。生まれ育った場所や大切な場所って、やっぱり他には代えがたいと思うから」


 そうだよな。

 オレは不当に奪われたドブとボードゥの土地を、守ったんだ。両親を生き返らせることはできなくても、2人が過ごした思い出の場所だけは、取り戻したんだ!


 オレのしたことは、間違っていない。

 ライラのおかげで、オレは自分のしたことに、自信が持てた。




 そんなオレたちを乗せて、ショートテイル・シェアウォーター号は次の駅に向かっていった。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

感想、誤字脱字、ご指摘、評価等お待ちしております!

次回更新は、6月23日の21時更新予定です!

そして面白いと思いましたら、ページの下の星をクリックして、評価をしていただけますと幸いです!

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