第121話 最も残酷な人々
刺青の盗賊ドブと、その兄で破戒僧ボードゥとの戦いが、始まった。
「うらぁっ、死ねえっ!!」
「わあっ!!」
ドブとボードゥが、同時にトミーガンを撃ってきた。
トミーガンはまるで、タイプライターのような射撃音を出しながら、次々に弾丸を吐き出していく。
とてもじゃないが、真正面から戦って叶う相手じゃない。
オレは大急ぎで、石油井戸の敷地内にある教会に、窓を割って飛び込んだ。タルや石油タンクの後ろには、隠れたくなかった。もしも万が一、弾丸が命中したら、街を火の海にしてしまう。ドブとボードゥは死ぬが、もちろんオレも助からないだろう。そしてそのことをライラが知ったら、オレの後を追うかもしれない。ライラにそんなことをさせたら、オレはシャインさんとシルヴィさんに合わせる顔が無い。もちろん、父さんと母さんにも合わせる顔が無い。
それにオレは、できることならドブとボードゥとは、戦いたくなかった。
トミーガンが怖いわけじゃない。連射はすごいが、弾丸はどうやら拳銃弾のようだ。教会の壁は分厚いらしく、トミーガンの弾丸は壁をぶち抜くことはできない。
だけど、このまま一方的に撃たれてばかりではダメだ。
反撃するか、なんとかして逃げ出すか。
できれば逃げ出したいが、ドブとボードゥを放っておくこともできない。それに逃げ出したくても、これでは袋のネズミだ。脱出したくても、無理がある。
「どっ、どうすれば……!?」
必ず、何かしらの手段はある。
だけど今、オレにはそれがどこにあるのか、皆目見当もつかなかった。
「兄ちゃん! あいつ教会に逃げ込んだまま、出てこないぞ!?」
「きっと、教会の中に隠れて、俺たちの攻撃をやり過ごそうとしているに違いない。だが、あそこは正面以外に出入り口が無い。窓を破るにしても、それくらいはこっちだって想定済みだ。飛び出してきた瞬間に、撃つ。どっちにしろ、もう俺たちが勝利したようなものだ」
ドブの言葉に、ボードゥはそう云った。
「兄ちゃん、教会に火を放って、奴を引っ張り出そうよ。あの教会だって、元々は街の奴らが勝手に建てたものなんだ。手始めに、あの教会を燃やしてしまおう!」
「ダメだ。飛び火して石油に引火したら、どうするんだ?」
「あっ、そっか……」
シュンとしたドブに、ボードゥは微笑む。
「焦ることは無い。じっくりと苦しめてから、街の奴らに死体袋に入れて届けてやればいいさ。俺たちに逆らうと、こうなるってな!」
「そうだね兄ちゃん!」
ドブはトミーガンのドラムマガジンを交換すると、教会に再び銃口を向けた。
くそう、奴らめ。
弾幕が途切れないように、交代しながら撃ってきている。
これじゃあ、こっちが撃つ隙ができない。
さすがは腐っても、元地下格闘技場の選手だけある。
相手に反撃の隙を与えない戦い方を、ちゃんと心得ている。
オレは感心しつつも、この状況を切り抜ける方法を探していた。
このままでは、日が暮れてしまう。
「こうなったら……!」
オレはAK47を手にしたまま、床を這うように移動していく。立ち上がれば、どこで頭を撃ち抜かれるか分からない。そんなリスクを冒すわけにはいかなかった。
祭壇の前まで移動して、オレは説教台の下まできた。
上を見上げると、神像がオレを見下ろしている。この場で祈りを捧げても、奇跡なんて起こるはずがない。
「説教台に、何かないだろうか……!?」
説教台の中には、色々なものが入っていることを、オレは知っていた。
鉄道貨物組合でクエストを請け負っていた頃、教会にも荷物を届けたことがある。その時に、教会の説教台の中を見たこともあった。
書類に文房具、本、名簿……。
果てには、隠し武器まであった。
きっとこの教会の説教台にも、何か隠されていると見ていいだろう。
オレはそう思いながら、時折窓ガラスを割って飛び込んでくる弾丸に注意しつつ、説教台の引き出しを開けた。
すると、何枚かの紙切れが落ちた。
「……?」
ふとオレは、その紙切れを拾い上げた。
紙切れを手にして、そこに書かれている内容に目を通していく。
「……!」
オレは紙切れが出てきた引き出しの中を漁った。
さらに引き出しからは、いくつかのファイルが出てきた。
その全てのファイルに、目を通した。
「ドブ……それにボードゥ……!!」
オレは紙切れとファイルをまとめて服の中に隠すと、AK47を手に教会の屋根に登った。
決着をつける時が、やってきた。
オレは、ナフサの駅に戻ってきた。
「きっ、君! 石油井戸に行ったんだって!?」
駅の中に入ると、ナフサの人らしき男性が、オレに訊いてくる。
「はい。そこでドブと交戦してきました」
「それで、ドブは……!?」
「ドブは、生きていますよ」
オレの言葉に、ナフサの人々は愕然とした表情になった。
そうだろうな。オレは結果として、ドブとボードゥは殺さなかった。
「ドブとボードゥが持っていた武器を破壊した後に、石油井戸の土地を全て、ドブとボードゥが所有することで納得してくれました。これからは兄弟で石油井戸の土地を耕して農業をしつつ、平和に暮らしたいそうです」
「ふ……ふざけるな!!」
男が声を荒げ、町の人々からの視線が変わった。
これまでに何度も浴びてきた、敵に向けられる視線だ。
「あの石油井戸がどれほどの価値を持つ存在か、君は分からないのか!?」
「あれ1つだけで、炭鉱3つに相当するんだ! それに石油は新しいエネルギーだ。それをお前は、ならず者のドブに渡したんだぞ!?」
「せっかく街が潤ってきたというのに、また炭鉱だけになっちゃったじゃないか!」
「どうしてドブを殺してこなかったんだい!?」
「ドブを殺したところで、痛くも痒くもないんだ!」
「旅人が好き勝手なことしてくれて!!」
ナフサの人々が一斉に、オレに対して非難を始める。
気持ちは最もだ。
だが、オレはここでこの人たちの言い分を認めるわけにはいかなかった。
「勝手なことしてきたのは、お前たちだろ!!」
オレの怒鳴り声に、町の人々の非難が止まった。
なぜ、こいつは怒鳴った?
勝手なのは、俺たちだって?
このガキは何を云っているんだ?
頭がおかしくなっちまったのかね?
いくつもの目が、オレを見てそう云っていた。
つくづく、勝手なことばかりを考えてくれる。
「ドブとボードゥから聞いたぞ。ドブとボードゥの両親を事故に見せかけて殺害して、土地の権利を奪ったんだって!? この人でなしどもが!!」
「ち、違う!!」
1人の男が否定した。
目が、明らかに泳いでいた。
「じゃあ、これはなんだ!?」
オレは服の中から、1枚の書類を取り出した。
土地の権利書と、探偵による調査報告書だった。
どちらも、教会の説教台の中から見つけたものだ。
そしてドブとボードゥと交渉し、持ち出した。
「そっ、それは……!」
「この権利書には、ドブとボードゥの両親の名前が記されている。それに探偵の調査報告書には、明らかに人為的な工作の痕跡があり、他殺の線が濃厚と出ているぞ!?」
「やっ、奴ら、探偵に頼んでいたとは……しまった!」
認めたな。
やっぱりこいつらは、事故に見せかけて殺害していたんだ!
「それだけじゃないぞ!!」
オレはさらに、ドブとボードゥが集めた、八百長の疑惑に関する証拠も取り出した。
隠し撮りされた何枚もの写真に、人々は青ざめていった。誰も知らないはずの、八百長の証拠。ドブに濡れ衣を着せるための方法が、細かくまとめられた書類。
写真に写っている人物の何人かは、オレの目の前にいた。
「これまで好き勝手やってきたんだ。その対価を払ってもらうぞ」
「どっ、どうする気なんだ!?」
「ドブとボードゥと話し合って、これを裁判所と領主に送り付けることにした」
「そっ、それだけはやめてくれ!!」
ナフサの人々が口々に声を上げるが、オレは聞き入れなかった。
約束したことは、守らないといけない。
「頼む! カネならいくらでも払うから!!」
「そうだ! それに裁判所と領主がどう判断するかなんて、分からないじゃないか!」
「裁判所と領主がどう判断するかだって? それはもう分かっているよ」
オレの言葉に、人々は首をかしげる。
まだ分からないみたいだな。
「あんたらの反応が、ドブとボードゥが正しかったことを証明しているじゃないか。本当にあんたらが正しいなら、こんなものを見せられても、何も思わないはずだ!」
「……!!」
どうやら、やっと気づいたみたいだ。
だが、こんなところで芝居をやっている暇はない。
これを駅事務室に持ち込み、裁判所と領主宛てで投函しないと。
駅事務室に向かって歩きだすと、後ろから銃の撃鉄を下す音がした。
「くそうっ! 死ねっ!!」
バァン!!
駅の構内に、銃声が轟いた。
「……ぐぐっ!」
リボルバーが、地上に落ちていく。
オレの右手はリボルバーを握り締めていて、銃口からは硝煙が立ち上っていた。
「が……ガキめ……!」
「後ろから撃つなんて、どこまでお前たちは卑怯なんだ!!」
オレはそう叫ぶと、もう1回リボルバーを撃った。
地上に落ちたリボルバーは、弾丸を受けてバラバラになった。
「まだやるっていうなら、相手してやるぞ……?」
「ひいっ!」
オレが睨むと、町の人々は後ずさる。
もうこれで、誰もオレを襲おうとはしないだろう。
オレは再び歩き出し、駅事務室に入っていった。
その後、オレは駅事務室で郵送の手続きを行った。
ドブとボードゥから預かった書類とファイルは、全て速達かつ内容証明郵便として出され、ショートテイル・シェアウォーター号の郵便貨車に載せられた。
これで書類は、鉄道騎士団の管轄になった。町の人々が取り返そうとしても、取り返すことはできない。
そして予定より少し遅れて、ショートテイル・シェアウォーター号はナフサの街を出発した。
離れていくナフサの街を見て、オレはホッとしていた。
もう二度と、この街には来たくない。
そしてオレはナフサの街を出てから、ライラに事の全てを話した。
ナフサにいた時に話さなかったのは、もし町の人々がライラの元へ押しかけた時に、ライラを守るためだった。知らないとライラが答えるしかなければ、ライラに危害が及ぶことは無い。
もちろん他に、ライラに話してライラが変な行動に走るのを防ぐ目的もあった。
「ビートくんのしたことは、間違っていないよ」
ライラはオレに、そう云ってくれた。
「ありがとう、ライラ」
「わたしだって、グレーザー孤児院や銀狼族の村で同じことがあったらと思うと、ドブさんやボードゥさんの気持ちが理解できるわ。生まれ育った場所や大切な場所って、やっぱり他には代えがたいと思うから」
そうだよな。
オレは不当に奪われたドブとボードゥの土地を、守ったんだ。両親を生き返らせることはできなくても、2人が過ごした思い出の場所だけは、取り戻したんだ!
オレのしたことは、間違っていない。
ライラのおかげで、オレは自分のしたことに、自信が持てた。
そんなオレたちを乗せて、ショートテイル・シェアウォーター号は次の駅に向かっていった。
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