表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幼馴染みと大陸横断鉄道~トキオ国への道~  作者: ルト
第10章 長距離列車『ショートテイル・シェアウォーター号』
120/140

第120話 破戒僧

 ナフサの街は、死んだように静まり返っていた。


 ほとんどの建物は窓ガラスやドアが破壊され、鍵が無意味になっていた。

 しかし、気になるのはほぼ全ての建物に、弾丸が撃ち込まれていることだ。弾丸は連続して撃ち込まれていて、さらに弾痕の間隔から、短時間の間に複数発撃ち込まれている。これは人力では困難なことだ。複数人で同時に撃つか、AK47のような連射できる銃でもない限り、不可能だ。


 本当に、これは1人で行ったことなのだろうか?

 オレにはとても、そうは思えなかった。


 いや、もしかしたら……。


 オレはそこまで考えて、頭を横に何度も振った。

 まさかだ。オレの持っているAK47のような、連射できる銃を持っているなんて!

 だが、あり得ないことではない。


 導きの使徒だって、黒い銃を持っていた。

 他にどこかで見つけてきた奴が居ても、全くおかしくない。


「考えても仕方ない!」


 オレは宣言するように云い切ると、走り出した。

 とにかく誰か見つけて、ドブの行方を探ろう。




「やぁ、そこのお方」


 ナフサの街を進んでいく中で、オレは神官から声をかけられた。

 黒い僧衣を身にまとった神官は、手にロザリオを持っていて、オレに一礼をした。


 こんな荒れ果てたナフサの街で、何をしているのだろう?

 そう思ったが、オレはこの神官が何か知っているかもしれないと、考えた。


「あの、神官さま……お尋ねしたいことがあります」

「どんなことですか? この神官ボードゥに答えられることなら、何なりとお話ください」


 ボードゥと名乗った神官は、穏やかな声でオレにそう云ってくれた。

 良かった。変な人などではない。多くの街にある教会にいる、神官だ。


「僕はビートといいます。今、ドブという男を探しているんです」

「あぁ、今この街で暴れまわっている男ですね」


 ボードゥは、うんうんと頷いた。


「もちろん、知っていますよ」

「ほっ、本当ですか!?」


 オレが驚きつつ問うと、ボードゥはゆっくりと頷く。

 まさかいきなり、ドブのことを知っている人に出会えるなんて!

 運がいいなぁ、オレ。


「教えて下さい! ドブは今、どこに居るんですか!?」

「ドブは今……」


 ボードゥはそう云いながら、北の方を指し示した。


「この街の北側の外れにある、石油井戸にいるよ」

「石油井戸……?」


 聞きなれない言葉だった。

 少なくともオレは、これまでに聞いたことが無い。


 オレが首をかしげていると、ボードゥは微笑んだ。


「石油という、新たに発見された油を産出している基地のことです。石炭は鉱山のように山を掘って採掘しますが、石油は井戸水のように地下から湧いてくるのです。それを掘って汲み上げるので、石油井戸と呼んでいるんですよ。他の地方では、まず見受けられないものですね」

「なるほど……」


 通りで、聞いたことが無かったわけだ。

 オレは納得した。


「それで……そこにドブがいるんですか!?」

「あぁ。あそこを乗っ取って、生活しています」


 ボードゥが頷く。

 よし、ついにドブの居場所を突き止めたぞ!


「ありがとうございます! 僕はこれから、ドブを退治してきます!」

「頼みました。実は石油井戸には、教会があります。そこは、かつて私の居場所でした。取り返してもらえると嬉しいです」

「分かりました! きっと取り返して見せます!」

「ありがとうございます。君が勝利できるように、神に祈りを捧げていますね」


 ボードゥから見送られて、オレは石油井戸に向かった。

 なんとしても、石油井戸を乗っ取っているドブを、やっつけよう。


 オレの心の中は、そんな思いで溢れていた。




 石油井戸は、周りをフェンスに囲まれた、基地のような場所だった。

 中にはタルがいくつも置かれていて、中心部には鉄塔が建っている。鉄塔の先端には火がついていて、燃え続けていた。まるで地上に突き立てられた、巨大な葉巻のようだ。

 正面から向かって左側には、教会。きっとあれが、ボードゥがいた協会に間違いないだろう。右側には、いくつものパイプが通っていて、それが建物へと続いていた。あのパイプの中を、石油が通っていることは想像がついた。パイプは全て、中心にある鉄塔の下から、右へ向かって伸びているためだ。

 正面の奥には、工場のような建物がある。きっとあそこに、ドブがいるはずだ。


「……それにしても」


 オレは、足元を見た。

 そこには、いくつもの白骨が散らばっている。

 白骨の周りには、武器が散らばっていた。ほとんどが剣で、どれもさび付いている。


「なんてひどい……!」


 この白骨は、きっとドブを倒そうとして、命を落としていった人たちだろう。

 数えていくと、少なくとも5人はここでドブにやられたらしい。

 あまり長居するのは、得策とはいえないな。

 

 オレは石油井戸に入り、鉄塔へと続く道を進んでいく。

 道に罠などは仕掛けられていないらしい。しかし、道は直線だ。奥の建物から狙撃するとしたら、これほど狙いやすい場所もないだろうな……。


 進んでいくと、鉄塔の下に1人の男が立っていた。

 筋肉質な体付きの男は、鉄塔の下でタルをハンマーで破壊していた。

 オレの存在に気づくと、男はハンマーを置いて、オレをじっと見つめてくる。


 あれが……ドブだろうか?


 いや、ドブであろうとなかろうと、関係ない。

 ドブでないのなら、その時はドブがどこにいるか、問いただすだけだ。


「誰だぁ……おめえ……?」


 太くさびた声で、男が云う。


「僕はビートです。ドブという男がここにいると聞いて、ここに来ました」

「ドブってのは、俺のことだ」


 ドブと名乗った男は、そう云った。


 筋肉質な身体は、さすがは元地下格闘技場の選手といったところか。肉体労働で鍛えられた部分も、大きいだろう。

 まるで図鑑で見た太古の生物、ゴリラというものを彷彿とさせる。

 正直、こんな奴が大暴れしたら、誰も勝てないだろう。


 しかしその顔を、オレはどこかで見たことがあるような気がした。


「お前は何者だ? 町の人間じゃないな?」

「僕は、北大陸に帰る途中なんです。でも、ドブという男が街を荒らしまわっているせいで、汽車が出ないんです。すぐに止めて下さい!」

「うるせえ!!」


 ドブが叫んだ。


「俺から街の奴らは、全てを奪ったんだ! 奴らへの復讐は、まだまだ始まったばかりなんだ。奴らが全員、この街を出ていくまで、俺はここを動いたりはしない!!」

「八百長の疑いを掛けられたことは、気の毒に思います。だけど、町の人全員に責任を負わせて復讐するなんて、いくらなんでもメチャクチャじゃないですか!」


 オレが反論すると、ドブが一瞬だけ目を見張った。

 どうやらオレが八百長のことを知っていたことに、驚いたらしい。

 しかしそれも、すぐに元に戻った。


「うるさい! 俺から地位もカネも仕事も奪い、さらに生まれ故郷まで奪ったんだ! 奴らにはこれまでの対価を全て、支払ってもらう!!」

「生まれ故郷も……!?」


 生まれ故郷。

 その言葉に、オレは耳を疑った。


 地位にカネに仕事を奪われた。

 それは分かる。八百長が本当であれ濡れ衣であれ、地位にカネに仕事を失うのは分かる。


 だけど、生まれ故郷を奪われるとは、どういうことだろう?

 街を追い出されて、ここに流れ着いたということか?


「もしかして……ナフサの街を追われたから、街に帰りたいんですか?」

「違う! 俺の生まれ故郷は、この石油井戸だ!!」


 ドブが叫ぶ。

 この石油井戸が、生まれ故郷なのか!?


 オレは足元に広がる、石油井戸を見た。




「それは、どういうことなんですか!?」

「話したところで何になる!? さっさと失せないと、お前も命の保証は無いぞ!?」

「僕も、生まれ故郷を失っているんです!!」


 オレの言葉に、ドブは目を見開く。明らかに、驚いているようだ。


「お前も、ナフサの出身なのか!?」

「違います。僕は、西大陸のトキオ国出身で、育ちは南大陸のグレーザーです。トキオ国は戦争で滅ぼされ、僕は両親を喪い、グレーザー孤児院で育ちました」

「……ビートといったな。ここがどうして俺の生まれ故郷なのか、知りたいか?」

「教えてください!」


 そうだ、きっと分かるはずだ。

 オレもドブも、同じ故郷を失ったという共通点がある。共通点があると、相手に共感を抱きやすくなるのは、ハズク先生が教えてくれた。


「……わかった。話してやる」


 ドブはそう云うと、語り始めた。


「ここは今は石油井戸になっているが、元々は俺が生まれた家があったんだ。俺はそこで家族と共に、仲良く暮らしていた。金持ちではないが、貧乏というほどでもない。中流として十分な生活を送っていた。だけど、俺の家の地下に石油があると知ってから、ナフサの奴らは目の色を変えてきたんだ。石油は新しい燃料でカネになるから、街のためにも立ち退けって、土地を捨てるよう要求してきたんだ」


 オレはドブの言葉を、黙ったまま聞き続けた。


「もちろん、両親は反対した。両親は戦災で家を失ってから、命からがらここまで逃げてきて、苦労して家を建て、俺を育ててくれたんだ。そんな両親を、街の奴らは事故に見せかけて殺害した!」

「……!」

「馬車の事故に見せかけてな。もちろん俺は、街の奴らが仕掛けたものであることを知っていた。だけど、騎士団も誰も、俺の言葉を信じなかった。俺は家と両親を奪われてから、鉱山奴隷に混じって働きながら、地下格闘技場で選手として闘った。そしてファイトマネーを稼いでいったんだ。石油基地になった思い出の土地を買い戻すためには、莫大なカネが必要だ。だからファイトマネーを貯めて、この土地を買い戻そうと必死だった。だけど、街の奴らがそれに気づいて、今度は俺に八百長の濡れ衣を着せたんだ……!」

「しょ、証拠は……!?」


 オレの問いに、ドブは頷いた。


「もちろん、ある。だが、奴らはそれを認めず、捏造したと決めつけた。ファイトマネーは没収されて、俺は地下格闘技場からも追放された。だからもう、我慢ならん!!」


 ドブは怒りと悲しみに燃えた目で、オレを見た。


「街の奴らは、親も思い出の場所も、俺から全てを奪っていったんだ!! 両親も俺も、悪いことをしたわけじゃない! ただ地下に石油があるというだけで……!!」

「ドブ……気持ちは分かったけど、どうして1人で、ここまでできたんですか!?」

「これだ!」


 ドブは叫ぶと、背後から1挺の銃を取り出した。

 円盤のようなものを取り付けた、小ぶりだが長い銃だった。


「これはトミーガンだ。50発の弾丸を連続して発射できる唯一の銃だ! こいつは1挺で、百人分の働きをするといっても過言じゃない。騎士団も街の奴らも、これには勝てなかった。歯向かってきた街の奴らは、何人も殺した! 俺の邪魔をするのなら、誰であろうと容赦はしない!!」

「……っ!!」


 オレは咄嗟に、AK47を構えた。

 まさか、AK47やRPK以外にも、連射ができる銃が存在していたなんて!


 しかし、そんな凶悪な銃を持っていると知っては、野放しにしてはおけない!

 それに、オレは……!!


「ドブ! 銃を捨てるんだ!! 連射ができるのは、トミーガンだけじゃない。このAK47だって、連射ができるんだ!」

「撃てるものなら、撃ってみろ」


 ドブは笑いながら、挑発してきた。


「石油井戸には、大量の石油があるんだ。そこら辺に、いくつもタルがあるだろう? タルの中には、大量の石油が入っている。この石油は、石炭なんかとは比べ物にならないほど、引火しやすいんだ」

「何!? まさか……引火したら、爆発するのか!?」

「ほう、察しが良いな。その通りだ」


 オレの額を、冷や汗が流れ落ちる。

 もしも間違ってタルに当てたりしたら、大惨事になる!!


「一度引火したら、この街ごと火の海になる。もちろん俺は死ぬだろう。だが、お前も街の奴らも死ぬ。俺にとっては、そのほうが好都合だけどな。弾丸で殺す手間が省ける」

「くっ……!!」


 笑うドブの前で、オレは奥歯をかみしめる。

 うかつに手が出せない。もしもナフサの街が火の海になったら、それこそ取り返しがつかない。

 もしもライラが、火の海の中に取り残されたりしたら……!!


「ドブ!!」


 その時、背後から聞き覚えのある声がした。

 振り返ると、そこには先ほどの神官、ボードゥがいた。




「ボードゥさん! ここは危険です!」

「おぉ、兄ちゃん!!」

「!?」


 ドブがそう叫び、オレは目を見開く。


 兄ちゃん?

 つまりボードゥは、ドブの兄だというのか!?


 そうか!

 ドブを見た時に、どこかで見たことがあると思ったが、こういうことだったのか!

 ボードゥとドブは、そっくりだ!!


「ドブ、よくやったな!」


 ボードゥはドブに駆け寄ると、肩を叩いた。


「よくやってくれた。俺たちの土地を取り戻してくれて、ありがとう」

「兄ちゃん! やっと帰ってきてくれたんだね!」

「あぁ。ドブが石油井戸を取り返したと聞いて、飛んできたんだ。ナフサの奴らも、震え上がっていたな。兄としても、誇らしいよ」

「どっ、どういうことなんだ!?」


 オレは叫んだ。


 神に仕え、平和と博愛を説いて人々を正しい方向に導くのが、神官としての役目だ。

 それなのに、ドブの行いを褒めたたえているなんて!!


「ビート、私は元々神官だった。だけど、これまでいくつも人に裏切られてきた。そんな現実を見て行くうちに、神も何もあったもんじゃないと、気づいたんだ。そしてそれを教えてくれたのは、弟のドブだった」

「そんな……!」

「だからこそ、私も戦うんだよ……!」


 ボードゥはそう云うと、神官服の下から、ドブと同じトミーガンを取り出した。


「さぁ、これから街の奴らも、皆殺しといこう! まずは、そこのガキからだ!!」

「この……破戒僧め!!」


 オレは、戦うことを決め、AK47の安全装置を解除した。




 そして銃声が、石油井戸に轟いた。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

感想、誤字脱字、ご指摘、評価等お待ちしております!

次回更新は、6月21日の21時更新予定です!

そして面白いと思いましたら、ページの下の星をクリックして、評価をしていただけますと幸いです!


お待たせして申し訳ございませんでした!

執筆が進まない&多忙により更新が遅くなりました!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろうSNSシェアツール
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ