表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幼馴染みと大陸横断鉄道~トキオ国への道~  作者: ルト
第10章 長距離列車『ショートテイル・シェアウォーター号』
113/140

第113話 車内販売ワゴン

 個室のドアを開けたオレたちの前に、車内販売のワゴンがやってきた。


 車内販売ワゴン自体は、珍しいものではない。

 長距離列車では行われているのが一般的だ。売店がない長距離列車もあり、そんな中で車内販売は行商人と同じくらい重宝されている。買い物は長距離列車で旅をする人々にとって、必要なものを手に入れる手段であり、同時に大きな娯楽でもあるためだ。


 なお、アークティク・ターン号には車内販売のワゴンはない。

 売店があることと、行商人車が必ず編成の中に組み込まれているためだ。


 ちょうどこれから、行商人車に行こうとしていた。

 そんな絶妙なタイミングで、車内販売のワゴンが現れた。




「いらっしゃいませー。何かご入用ですか?」


 獣人族黒猫族の女性が、ワゴンを止めてオレたちに問いかける。胸につけられたネームプレートには『ミーシャ』という名前が書かれている。この黒猫族の女性は、ミーシャという名前らしい。

 ワゴンを見たオレたちは、目を見張った。

 ワゴンには、溢れるほどの商品がいくつも積み込まれていたからだ。


 弁当や保存食といった食料品。

 酒やタバコなどの嗜好品。

 キャラメルやチョコレートといった菓子。

 各種の飲み物。

 新聞や雑誌に本といった書籍類。

 洗面道具や裁縫道具。

 銃や刀剣類の手入れ用具。

 携行に便利な医薬品。


 さすがに武器や弾丸は売られていなかったが、それでも十分すぎるほどの商品が取り扱われている。

 ハッターさんもビックリするような豊富な種類の商品に、オレとライラは食い入るように見入ってしまう。

 それにしても、このミーシャさん、すごいな。あの細い体のどこに、これほど商品を満載したワゴンを押すパワーがあるのだろう?

 人って本当に、見かけによらないものだな……。


「ビートくん、何か買っていこうよ!」


 ライラの言葉で、オレは思考の世界から現実へと引き戻された。


「えっ……買う?」

「そうよ! せっかく車内販売が来たんだから、何か買っていこうよ!」


 目を丸くしているオレに、ライラはそう云った。

 すっかり、ここで買い物をする気になっている。


「ありがとうございます! どうぞごゆっくり、お選びください」


 ミーシャの言葉に、オレたちは商品を物色し始めた。

 本当に色々な商品があって、目移りしてしまう。

 さて……何かいいものはあるだろうか……。


 オレたちはしばらくの間、個室の前で車内販売のワゴンの商品を物色した。

 そして買うものが決まると、代金を支払ってそれを購入した。




「ありがとうございました。またのご利用お待ちしております」


 ミーシャが一礼してから、車内販売のワゴンを押しながら進んでいった。

 それを見送り、オレたちは個室の中に戻って、ドアを閉めた。


 車内販売のワゴンから、オレたちはいくつか商品を購入した。

 ライラはいくつかのお菓子とジュース、そしてアイスクリームを購入した。アイスクリームがあると知ったライラは目を輝かせて、すぐに購入を決めた。確かに車内販売のワゴンで、アイスクリームが扱われていることは珍しかった。種類はバニラとチョコだけだったが、それでもライラは大満足だったらしく、バニラアイスを購入した。


 そしてオレは、2個の弁当と夕刊の新聞、それにまだ読んだことのない本と飲み物を購入した。2個の弁当は、オレたちの夕食だ。飲み物は食事の時に弁当と調和するよう、弁当の内容と合いそうなお茶を選んだ。夕刊の新聞と本は、ここ最近なかなか活字を読む機会が無かったからか、自然と手にしてしまった。特に本は、まだ読んだことのないタイトルと内容だったため、強く惹かれてしまった。


「久しぶりのアイスクリーム!」


 ライラがベッドに腰掛けて、購入したアイスクリームを見て尻尾を振った。


「最後にアイスクリームを食べたのって、いつだっけ?」

「うーん……思い出せないわ」


 オレの問いかけに、ライラはそう答える。

 そういえばオレも最後にアイスクリームを食べたのがいつか、思い出せない。アイスクリームは、高価なお菓子だ。手が出せない金額ではないが、いつでも買えるような値段ではない。

 グレーザー孤児院に居た頃、食べられたのは年に1回だった。慈善団体がアイスクリームを振舞ってくれるその日を、オレたちはいつも待ち遠しく思っていた。


 そしてライラは、甘いものが好きだ。

 アイスクリームも、喜んで食べていた。


「それじゃあ、溶けないうちに……!」


 ライラはそのまま、アイスクリームを口に運んだ。

 アイスクリームを一口食べたライラは、幸せそうな表情へと変化した。


「んーっ! 美味しい!!」


 尻尾をパタパタと振って、すごく喜んでいる。

 そんなライラを見ていると、オレは安心できた。やっぱりライラには、笑顔が一番だ。


 オレは微笑んで、イスに腰掛けると、買ったばかりの本を開いた。




 ショートテイル・シェアウォーター号に揺られながら、オレたちは個室の中で夕食に弁当を食べた。

 それからしばらくして、ライラが先にベッドで横になった。


 オレは本を途中まで読んでしおりを挟み、夕刊を開いた。

 夕刊に乗っている最新のニュースに目を通し、三面記事の隅にあるクロスワードパズルを解いていく。特に気になるニュースはなく、クロスワードパズルもすぐに解けてしまった。


「んーっ……」


 ずっとイスに掛けていたからか、いつしかオレの身体は固くなっていた。

 伸びをすると、身体がポキポキと音を立てる。


 懐中時計を取り出すと、時計の針は真夜中を指し示していた。

 すっかり、夜も更けてしまった。


 オレもそろそろ、寝たほうがいいな。


 ライラを起こさないように気を遣いながら、オレはそっとライラの隣で横になった。

 明かりを消して読書灯だけ点けると、ライラが動いた。


「んん……ビートくぅん……」

「!?」


 マズい。起こしちゃっただろうか!?

 オレは焦ったが、すぐにそれは勘違いだと知った。


「……尻尾は……らめぇ……あんっ……」


 寝言だ。

 オレは、起こしてしまったわけではないと安心すると、改めて横になる。


 しかし、ライラはどんな夢を見ているのだろう?

 オレに尻尾を触られる夢であることは、間違いないと思うけど……。


 最近、ちょっと尻尾を触りすぎたかな?

 たまには、ライラの尻尾を触るのを自重してもいいかもしれないな。


 オレはそう思いながら、そっと目を閉じた。




 ショートテイル・シェアウォーター号は、夜の闇を駆け抜けていった。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

感想、誤字脱字、ご指摘、評価等お待ちしております!

次回更新は、6月5日の21時更新予定です!

そして面白いと思いましたら、ページの下の星をクリックして、評価をしていただけますと幸いです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろうSNSシェアツール
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ