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幼馴染みと大陸横断鉄道~トキオ国への道~  作者: ルト
第9章 東大陸北部路線
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第106話 ハッターさん再び

「そ……そんな、買うものがないのに見物料が必要なんですか!?」


 オレは、ヤクザに問う。

 対話が通じる相手だとは、当然思っていない。


 だけどオレは、事を荒立てたくなかった。

 もしもボコボコに殴られたりしたら、列車に戻った時にライラが悲しむ。ナヴィ族から貰った傷薬があっても、できることなら殴られたくはない。

 なんとか、穏便に済んでくれると嬉しいが……。


「当たり前だろう? 慈善事業で商売やってるんじゃないんだ。買うならいらねぇが、買わないで見るだけなら見物料をもらう。そうしないと、誰も買わなくなっちまうだろう?」

「でも、買うつもりだったのに欲しいものが無かった時は、どうするんですか?」

「それでも見ていったんだ。見物料はいただかなくちゃなぁ!」


 ヤクザたちは、それが当たり前であるかのように云ってくる。

 一歩たりとも譲る気は、ないようだ。


 仕方がない。

 穏便に済ませたいけど、今の状況ではそれは望めないようだ。


「見ただけなのに金を払えとか、後から要求してきた奴に出会ったのは、初めてだ」


 オレは、口調を変えた。

 その変化に、ヤクザたちの表情も変わっていく。


「ここは有料の博物館なのか? 通りで古い武器しかないと思っていたよ。マスケット銃なんて、旧式ライフルが普及してからほとんど需要は無いんだから。そうか、高すぎてこの博物館には展示ができないのか。それじゃあ、見物料は払えないなぁ。だって見たところで、楽しくないんだもんね!」


 オレが挑発すると、ヤクザたちは怒鳴った。


「このガキ!!」

「バカにするのも、いい加減にしろ!!」


 ヤクザはそう云って、壁を蹴った。

 ガンパウダーの缶が落ちて、辺りに火薬が散らばる。


「そうですか」


 オレはそう云うと、ガンパウダーにリボルバーの銃口を向けた。

 ヤクザが目を見開くのを、オレは見逃さなかった。


「見物料は支払いませんが、これで保険金なら支払われますよ?」

「……!!」


 もちろん、本当に撃つ気など無い。

 これで相手が白旗を挙げるのが、オレの狙いだ。


「ちょいと、邪魔するぜ」


 そのとき、1人の大柄な男が入ってきた。逆光で、顔はよく見えない。

 もしかして、ヤクザの援軍か!?


 緊張したオレだが、すぐにその緊張は消えることとなった。




「おぉっ、もしかしてビートか!?」


 大柄な男が、オレを見てオレの名前を呼んだ。

 そしてその声には、聞き覚えがあった。


 もしかしてあの大柄な男の人は……!!


「ハッターさん!?」

「やっぱり、ビートか!」


 ヤクザを押しのけて、ハッターさんが入ってきた。

 ハッターさんは、オレがアークティク・ターン号で知り合った行商人だ。オレたちにとって良き友人でもあり、ノワールグラード決戦では武器を提供してくれた、恩人でもある。


「ビート、どうしてここにいる?」

「実はですね……」


 オレはこれまでの出来事を、ハッターさんに話していった。

 全てを話し終えると、ハッターさんは頷いた。


「そういうことか。ビート、こいつらの相手をするなんて、時間の無駄だ。行こうぜ!」

「はいっ!」

「おい、待てコラ!」


 ヤクザが外に出ようとしたオレたちの前に、立ちはだかった。


「どいてもらおう」

「見物料を払え!」

「わかった。これが見物料だ」


 ダァン!


 オレはヤクザにリボルバーを向け、発砲した。

 そしてその場に倒れたヤクザを踏み、外に出る。


「待ちやがれ!」


 他のヤクザがオレたちを追いかけようとしたが、オレは先に、再びリボルバーを撃った。

 今度はヤクザなんかではなく……床に散らばったガンパウダーだ。


 ボワアッ!!


 ガンパウダーに火が付き、小規模な爆発が起きた。

 そしてそのまま、銃砲店に火が回っていく。


「うわあっ!」

「はっ、早く火を消すんだ!!」


 ヤクザと店主が、慌てて水汲みに走っていく。


「ビート、行くぞ」

「はいっ!」


 その間に、オレとハッターさんはアップタウンへと向かっていった。




「ハッターさん、ありがとうございました」


 アップタウンに入り、コンテナシティの駅まで戻ってきたオレは、ハッターさんにお礼を云う。


「いやいや、俺は何もしていないぜ。それにしても、ビートがトキオ国の王子だったとは、初耳だったぜ」


 オレはここに来るまでの間に、ハッターさんにこれまでのことを話した。

 そこでオレが、トキオ国の王子であることと、銀狼族の村に帰る途中であることも話した。


「ハッターさんは、行商の仕事でここに来たんですか?」

「あぁ、そうだ。しかし、ここは噂に聞いていた通りにひどい。貧困層が多いせいか、ロクに買わずに商品へのケチばかりつけてくる奴が多すぎる。仕入れるようなものもない。コンテナシティは、噂通りハズレだ」


 ハッターさんは、やれやれと首を振る。


「あの、もしよければ昼食なんていかがでしょうか? 助けてくれたお礼もしたいですし、ハッターさんがもし弾丸を持っていましたら、買いたいです」

「ありがとう、ビート。それなら是非、ライラちゃんも連れてきてくれると、ありがたい」

「わかりました! では、少し待っていてください」


 オレは頷くと、駅の中に入っていった。

 バーン・スワロー号の個室で待っていたライラを連れて、ハッターさんの所まで戻ってくる。


「ハッターさん!」

「ライラちゃん、久しぶりだな!」


 ハッターさんを見たライラは、尻尾を振って近づいていく。

 久しぶりに再会できたことに、喜んでいるようだ。


「ハッターさん、アレはありますか?」

「もしかして……これのことかい?」


 ライラの問いに、ハッターさんはピンク色の液体が入った小瓶を取り出す。

 避妊薬だと、オレはすぐに気づいた。

 それを見たライラは、頷いた。


「はい! これです!」

「在庫ならたくさんあるよ。だけど……その前に食事にしようか。そろそろお昼だから、ライラちゃんもお腹が空いているはずだ」

「そっ、それでは、先に食事に行きましょう!」


 ここは駅前だ。

 避妊薬を昼間から駅前で堂々と取引していたら、駅員から注意される。最悪、騎士団を呼ばれるかもしれない。

 ハッターさんも、そのことはちゃんとわきまえてくれたみたいだ。


 オレたちは駅前から、アップタウンのレストランへと向かっていった。




 コンテナシティのレストランだけは、ちゃんと営業していた。

 しかし、メニューは量が多かったり、野菜が少ないものばかりだった。かつて、工場労働者たちが多く暮らしていた時代の名残なのだろう。


「うん、これは美味い」


 ハッターさんは、フライドチキンを口に運び、味わっていた。


「食事だけはまともで助かった。うん、美味い」

「ビートくん、これも美味しいよ!」


 ハッターさんに続き、ライラもカントリーフライドステーキを食べながら云う。

 揚げてあるステーキとか、ものすごいカロリーモンスターだ。ライラが太ってしまわないか、少し心配になる。


「ところで、ハッターさんはノワールグラード決戦の後、どちらへ行商に行っていたんですか?」


 オレが尋ねると、ハッターさんはフライドチキンを置いた。


「西大陸に、行っていたんだ。そこでひと儲けして、東大陸にやってきたんだ。西大陸は少し前まで景気が良くてな、行商人で歓迎されない奴はいなかった。そうなると書き入れ時よ。とにかく、在庫を払拭する気で売れるものは何でも売る。在庫が無くなれば、仕入れてまた売る。それの繰り返しよ」


 ハッターさんは笑いながらそう云うと、再びフライドチキンを口に運んだ。


「そして今は……お2人さんとまた一緒にいるわけさ」

「そうだったんですね……そうだ!」


 オレは、大切なことを思い出した。

 弾丸だ。リボルバーの弾丸と、ソードオフのショットシェルを補充しないといけない!


「ハッターさん、食事が終わったら弾丸を売ってください!」

「おぉ、もちろんだ。在庫はたくさんあるから、好きなだけ持って行くといい」

「わたしも、アレをお願いします!」

「わかった。食事を終えたら、列車に戻ってから取引しよう」


 オレとライラに向かって頷き、ハッターさんは笑顔になった。




 食事を終えて、レストランから出た直後だった。


「おい、よくもダウンタウンの銃砲店を滅茶苦茶にしてくれたな!」


 オレたちの前に、ヤクザが立ちはだかった。

 その中に、先ほどのヤクザがいた。


 あいつら、まだ見物料を要求してくる気か!?

 オレが1人葬ったというのに、諦めが悪すぎるだろう。

 いや、目の前で1人殺されても来るということは、頭が悪すぎるのか?


 ……って、今はそんなことを考えている場合じゃない!


「そこのガキ、お前いいメスを連れているじゃねぇか」


 ヤクザの1人が、ライラを舐めるように見つめる。

 ライラが驚いて、オレの腕を握り締めた。


「まだ見物料を諦めていないのか?」

「違うな。仲間を殺されておいて黙ったままだと、メンツが立たないんだよ」


 メンツがどうとか、人に迷惑かけておいて云えた口か?

 つくづく、ヤクザの考えていることは分からない。


「そのメスを引き渡せば、手打ちにしてやる。だから、そのメスをよこせ!」

「断る!」


 オレはそう云って、リボルバー……ではなく、ソードオフを取り出した。


「これ以上、関わってくるな! ソードオフで吹っ飛ばされないうちに、失せろ!」

「そんなもの、怖くねぇぞ!」

「待ちな!」


 そのとき、ハッターさんがオレとヤクザの間に出てきた。

 ハッターさん、何を考えているんだ!?


 驚いたオレは、ソードオフの銃口を下ろした。

 間違っても、ハッターさんを撃ってはいけない。それを防ぐためだった。


「なんだテメェ!?」

「このお2人さんは、大切な友人であり、お得意様だ。お得意様に危害を加えることは、俺の商売の邪魔をするということだ。それが何を意味しているか、分かっているのか?」

「るせえ!!」


 ハッターさんの言葉に対し、ヤクザはナイフを取り出した。

 おい、オレがソードオフを持っていることを、もう忘れたのか?

 ナイフでソードオフを相手にして、勝てるわけないだろう。


「行商人が出しゃばるな!」

「構うことはねぇ! やっちまえ!!」


 来た!!

 ヤクザたちがナイフを手に、動き出す。


 オレはそっと、ソードオフの引き金に指を掛けた。




 ドガガガガガッ!!


 突然、連続した銃声が轟き、ヤクザが次々に倒れていく。ヤクザはオレたちの2メートル手前で、全員が動かなくなった。穴あきチーズのように身体に大穴が空き、そこから血が流れていく。

 その独特な銃声に、オレは聞き覚えがあった。


 まさか……!


「ハッターさん!?」


 銃声が鳴り止むと、ハッターさんが振り返った。

 ハッターさんの手には、AK47が握られていた。銃口からは、硝煙が立ち上っている。


「お2人さん、もう大丈夫だ」


 ハッターさんはそう云うと、コートの下にAK47をしまった。


「俺は、商売の邪魔をされることが大嫌いなんだ。お得意様のお2人さんに危害を加えようとした、当然の報いを受けたまでのことさ」

「あ……ありがとうございました!」


 ハッターさんが、オレたちを守ってくれた。

 オレとライラは、ハッターさんに頭を下げた。




 その後、バーン・スワロー号に戻ったオレたちは、ハッターさんから商品を購入した。

 オレは弾丸。

 ライラは避妊薬を多めに購入していた。


 そして取引が終わった後、ハッターさんもバーン・スワロー号に乗って行商することを知った。


「俺はいつでも、行商人車にいる。また何か入り用だったら、いつでも訪ねてきてくれよ!」


 ハッターさんはそう云って、オレたちの個室を後にしていった。

 次も、ハッターさんから必要なものを購入しよう。


 オレとライラは、そう決めた。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

感想、誤字脱字、ご指摘、評価等お待ちしております!

次回更新は、5月22日の21時更新予定です!

そして面白いと思いましたら、ページの下の星をクリックして、評価をしていただけますと幸いです!

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