第105話 コンテナシティ
バーン・スワロー号は、砂漠地帯を抜けた。
「ビートくん、砂や荒野じゃなくなったわ!」
ライラが、車窓から外を見て叫んだ。
砂も荒野も、どこにもない。緑あふれる景色が、そこには広がっていた。
どうやらやっと、砂漠地帯を抜けたみたいだ。
オレはライラの隣で、そう悟った。
「これでもうしばらくは、砂と荒野とはお別れだな」
「わたしは、そのほうがいいわ。緑の芝生とかの上が、やっぱり好き」
おっ、ライラもそう思うんだ。
ライラがオレと同じことを考えていると知り、オレは嬉しくなった。
「芝生の上かぁ……いいなぁ……」
「うん! 芝生の上なら、ビートくんといくらでも寝転がれるから、好き!」
ライラの発言に、オレは呆れつつも笑顔になる。
それって芝生の上だけじゃなくて、ライラがいつもやっていることじゃないか。
でも、オレも芝生の上でライラと寝転がってみたい。
寝転がりながら、ライラの尻尾と長い髪をモフらせてもらいたい!!
次の停車駅、コンテナシティに向かうまでの道中。
オレたちは平和な時間を、満喫していた。
東大陸ネルダ領アロン地方コンテナシティ。
ネルダ領の中でも、コンテナシティについてはあまりいい噂を聞かない。なぜならコンテナシティは、一部を除いて町そのものがスラムと化しているためだ。
かつては大規模な工場が存在し、治安も今よりずっと良いものだった。しかし技術革新によって、工場が用無しになって稼働を停止してしまった。失業した労働者たちは、太古の時代に用いられたという、荷物運搬用のコンテナで暮らし始めた。その結果として誕生したのが、今のコンテナシティだ。
駅の周辺はアップタウンと呼ばれ、比較的治安は安定している。しかし、それでも他の町に比べて、女性が1人で出歩くのは危険といわれている。駅から離れた郊外に当たるダウンタウンともなれば、もうそこはスラムと呼んでも差し支えない場所だ。ダウンタウンは、旅人はもちろんのこと、アップタウンで暮らしている人も滅多に近づかない。騎士団は巡回しているが、それでも犯罪は後を絶たない上に、違法な商売も行われているという……。
バーン・スワロー号が、コンテナシティの駅のホームに到着する。
しかし、降りる人はまばらだ。
それもそうだなと、オレは思った。
オレもあまり降りたくは無いし、今回ばかりはライラを連れて歩くことは絶対にできない。アップタウンならまだしも、ダウンタウンなんて絶対にダメだ。君子危うきに近寄らず、という言葉もある。オレは君子ではないが、トキオ国の王子になるはずだった存在なんだ。それにオレにもしものことがあったら、ライラがどんな行動に出るか分からない。
だから、今回ばかりはオレも列車からは降りない!
……というわけには、いかなかった。
これまでの戦闘で消費した弾丸を、まだ調達できていなかった。
手持ちが少なくなってしまったおかげで、今のままだと撃ち惜しみをしないといけない。しかし、そんなことでは万が一のときに、ライラを守れない!
なんとかして、アップタウンの銃砲店で弾丸を調達しないといけなかった。
「ライラ、オレは弾丸を調達してくる。オレが戻ってくるまでの間、ライラはここで待っていて」
「うん。ビートくん、気をつけてね!」
ライラは笑顔で、頷く。
今回ばかりは、ライラもついていこうとはしない。
オレたちが今どこにいるのか、分かってくれたみたいだ。
オレはライラを個室に残し、列車から降りた。
アップタウンまでしか、行かないぞ!
だが、オレの頭上に立ち込めていた暗雲に、オレは気がつかなかった。
「えっ、在庫切れ!?」
「はい、申し訳ございません」
オレが叫ぶと、店員はそう云って軽く頭を下げた。
リボルバーに使用する弾丸。
ソードオフのショットシェル。
そのどちらもが、在庫切れになっていた。
こんなことが、あるのだろうか……!?
「つ、次入荷するのはいつですか!?」
「申し訳ございません、1週間後になります」
店員の言葉に、オレは絶句した。
バーン・スワロー号は明日には出発してしまう。とても1週間後まで待つことはできない。しかもアップタウンにある銃砲店は、ここだけだ。
「ほ、他に弾丸を扱っているお店はありませんか!?」
「アップタウンではうちだけなんです。ダウンタウンにはもう1軒、銃砲店がございますが……」
店員の言葉に、オレは生唾を飲み込んだ。
ダウンタウン。そこにはできれば、行きたくはない。しかし、ここ以外の銃砲店は、もうそこしかない。
次に弾丸を調達できるのが、いつになるか分からない。
それにコンテナシティを出てから、もし列車強盗に襲われたら、弾丸が切れてしまうかもしれない。それだけは絶対に、あってはならないことだ!
悩んだ末、オレはダウンタウンの銃砲店に足を運ぶことにした。
ダウンタウンの中を、オレは警戒しつつ進んでいた。
あちこちにゴミが散乱し、貧民となった人々が住居にしているコンテナの中から、オレを見つめてくる。中には路上なのに寝ていたり、酒を飲んでいる者もいる。路地裏を見ると、昼間から堂々と売春や、違法薬物らしいものの取引が行われていた。
こんな場所に足を踏み入れるのは、初めてだ。
スラムとは聞いていたが、まさかこれほどまでひどいとは……。
こんな場所だから、犯罪の温床にもなりやすい。
どこで誰がオレを狙っているか分からない。
最小限のおカネだけにして、後はライラに預けておいて正解だったな。
そしてようやく、銃砲店を見つけた。
中に足を踏み入れると、マスケット銃がいくつか並んで壁に掛けられていた。中には1挺だけ不自然に、新式ライフルが置かれていたり、ガンパウダーの箱が置いてある。
「すみません……」
「ん?」
声をかけると、カウンターの下から1人の男が出てきた。
オレは驚いて叫びそうになったが、なんとか堪えた。
「何の用で?」
「あの、弾丸を売っていただきたいんですが……」
オレがそう云うと、男はハァーッとため息をついた。
面倒な奴が来やがって。顔がそう云っていた。
「うちは弾丸といっても、こんなものしかないよ!」
そう云って出してきたのは、マスケット銃のボール弾だった。
しかし、これはオレのリボルバーには装填できない。
「じゃあ、ショットシェルはありますか?」
「悪いね。ショットシェルもここ辺りでは、マスケットに詰めて使うのが常識なんだ」
男の言葉で、オレは悟った。
ここには、オレが探している弾丸はない。どうやら、無駄足だったみたいだ。
仕方がない、帰ろう。
「そうですか、では……これで失礼します」
オレがそう云って店を出ようとした時だった。
「兄ちゃん、ちょいと待ちな」
2人のヤクザが、オレの前を塞いできた。
「買わないなら、見物料を払ってもらおうか」
「えっ、見物料?」
「そうだ。買うならいいが、買わないなら見物料が必要だ」
ヤクザが云うが、オレには理解できなかった。
見ていただけだというのに、どうして見物料が必要になるんだ?
見物料が必要な銃砲店なんて、聞いたことが無いぞ!?
一体、どうすればいいんだろう?
オレは2人のヤクザと対峙して、生唾を飲み込んだ。
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次回更新は、5月20日の21時更新予定です!
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