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幼馴染みと大陸横断鉄道~トキオ国への道~  作者: ルト
第9章 東大陸北部路線
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第105話 コンテナシティ

 バーン・スワロー号は、砂漠地帯を抜けた。


「ビートくん、砂や荒野じゃなくなったわ!」


 ライラが、車窓から外を見て叫んだ。

 砂も荒野も、どこにもない。緑あふれる景色が、そこには広がっていた。

 どうやらやっと、砂漠地帯を抜けたみたいだ。


 オレはライラの隣で、そう悟った。


「これでもうしばらくは、砂と荒野とはお別れだな」

「わたしは、そのほうがいいわ。緑の芝生とかの上が、やっぱり好き」


 おっ、ライラもそう思うんだ。

 ライラがオレと同じことを考えていると知り、オレは嬉しくなった。


「芝生の上かぁ……いいなぁ……」

「うん! 芝生の上なら、ビートくんといくらでも寝転がれるから、好き!」


 ライラの発言に、オレは呆れつつも笑顔になる。

 それって芝生の上だけじゃなくて、ライラがいつもやっていることじゃないか。


 でも、オレも芝生の上でライラと寝転がってみたい。

 寝転がりながら、ライラの尻尾と長い髪をモフらせてもらいたい!!


 次の停車駅、コンテナシティに向かうまでの道中。

 オレたちは平和な時間を、満喫していた。




 東大陸ネルダ領アロン地方コンテナシティ。

 ネルダ領の中でも、コンテナシティについてはあまりいい噂を聞かない。なぜならコンテナシティは、一部を除いて町そのものがスラムと化しているためだ。

 かつては大規模な工場が存在し、治安も今よりずっと良いものだった。しかし技術革新によって、工場が用無しになって稼働を停止してしまった。失業した労働者たちは、太古の時代に用いられたという、荷物運搬用のコンテナで暮らし始めた。その結果として誕生したのが、今のコンテナシティだ。

 駅の周辺はアップタウンと呼ばれ、比較的治安は安定している。しかし、それでも他の町に比べて、女性が1人で出歩くのは危険といわれている。駅から離れた郊外に当たるダウンタウンともなれば、もうそこはスラムと呼んでも差し支えない場所だ。ダウンタウンは、旅人はもちろんのこと、アップタウンで暮らしている人も滅多に近づかない。騎士団は巡回しているが、それでも犯罪は後を絶たない上に、違法な商売も行われているという……。


 バーン・スワロー号が、コンテナシティの駅のホームに到着する。

 しかし、降りる人はまばらだ。

 それもそうだなと、オレは思った。


 オレもあまり降りたくは無いし、今回ばかりはライラを連れて歩くことは絶対にできない。アップタウンならまだしも、ダウンタウンなんて絶対にダメだ。君子危うきに近寄らず、という言葉もある。オレは君子ではないが、トキオ国の王子になるはずだった存在なんだ。それにオレにもしものことがあったら、ライラがどんな行動に出るか分からない。

 だから、今回ばかりはオレも列車からは降りない!


 ……というわけには、いかなかった。


 これまでの戦闘で消費した弾丸を、まだ調達できていなかった。

 手持ちが少なくなってしまったおかげで、今のままだと撃ち惜しみをしないといけない。しかし、そんなことでは万が一のときに、ライラを守れない!

 なんとかして、アップタウンの銃砲店で弾丸を調達しないといけなかった。


「ライラ、オレは弾丸を調達してくる。オレが戻ってくるまでの間、ライラはここで待っていて」

「うん。ビートくん、気をつけてね!」


 ライラは笑顔で、頷く。

 今回ばかりは、ライラもついていこうとはしない。

 オレたちが今どこにいるのか、分かってくれたみたいだ。


 オレはライラを個室に残し、列車から降りた。

 アップタウンまでしか、行かないぞ!


 だが、オレの頭上に立ち込めていた暗雲に、オレは気がつかなかった。




「えっ、在庫切れ!?」

「はい、申し訳ございません」


 オレが叫ぶと、店員はそう云って軽く頭を下げた。


 リボルバーに使用する弾丸。

 ソードオフのショットシェル。


 そのどちらもが、在庫切れになっていた。

 こんなことが、あるのだろうか……!?


「つ、次入荷するのはいつですか!?」

「申し訳ございません、1週間後になります」


 店員の言葉に、オレは絶句した。

 バーン・スワロー号は明日には出発してしまう。とても1週間後まで待つことはできない。しかもアップタウンにある銃砲店は、ここだけだ。


「ほ、他に弾丸を扱っているお店はありませんか!?」

「アップタウンではうちだけなんです。ダウンタウンにはもう1軒、銃砲店がございますが……」


 店員の言葉に、オレは生唾を飲み込んだ。

 ダウンタウン。そこにはできれば、行きたくはない。しかし、ここ以外の銃砲店は、もうそこしかない。


 次に弾丸を調達できるのが、いつになるか分からない。

 それにコンテナシティを出てから、もし列車強盗に襲われたら、弾丸が切れてしまうかもしれない。それだけは絶対に、あってはならないことだ!


 悩んだ末、オレはダウンタウンの銃砲店に足を運ぶことにした。




 ダウンタウンの中を、オレは警戒しつつ進んでいた。


 あちこちにゴミが散乱し、貧民となった人々が住居にしているコンテナの中から、オレを見つめてくる。中には路上なのに寝ていたり、酒を飲んでいる者もいる。路地裏を見ると、昼間から堂々と売春や、違法薬物らしいものの取引が行われていた。

 こんな場所に足を踏み入れるのは、初めてだ。


 スラムとは聞いていたが、まさかこれほどまでひどいとは……。


 こんな場所だから、犯罪の温床にもなりやすい。

 どこで誰がオレを狙っているか分からない。

 最小限のおカネだけにして、後はライラに預けておいて正解だったな。


 そしてようやく、銃砲店を見つけた。

 中に足を踏み入れると、マスケット銃がいくつか並んで壁に掛けられていた。中には1挺だけ不自然に、新式ライフルが置かれていたり、ガンパウダーの箱が置いてある。


「すみません……」

「ん?」


 声をかけると、カウンターの下から1人の男が出てきた。

 オレは驚いて叫びそうになったが、なんとか堪えた。


「何の用で?」

「あの、弾丸を売っていただきたいんですが……」


 オレがそう云うと、男はハァーッとため息をついた。

 面倒な奴が来やがって。顔がそう云っていた。


「うちは弾丸といっても、こんなものしかないよ!」


 そう云って出してきたのは、マスケット銃のボール弾だった。

 しかし、これはオレのリボルバーには装填できない。


「じゃあ、ショットシェルはありますか?」

「悪いね。ショットシェルもここ辺りでは、マスケットに詰めて使うのが常識なんだ」


 男の言葉で、オレは悟った。

 ここには、オレが探している弾丸はない。どうやら、無駄足だったみたいだ。


 仕方がない、帰ろう。


「そうですか、では……これで失礼します」


 オレがそう云って店を出ようとした時だった。


「兄ちゃん、ちょいと待ちな」


 2人のヤクザが、オレの前を塞いできた。


「買わないなら、見物料を払ってもらおうか」

「えっ、見物料?」

「そうだ。買うならいいが、買わないなら見物料が必要だ」


 ヤクザが云うが、オレには理解できなかった。

 見ていただけだというのに、どうして見物料が必要になるんだ?

 見物料が必要な銃砲店なんて、聞いたことが無いぞ!?


 一体、どうすればいいんだろう?




 オレは2人のヤクザと対峙して、生唾を飲み込んだ。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

感想、誤字脱字、ご指摘、評価等お待ちしております!

次回更新は、5月20日の21時更新予定です!

そして面白いと思いましたら、ページの下の星をクリックして、評価をしていただけますと幸いです!

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