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幼馴染みと大陸横断鉄道~トキオ国への道~  作者: ルト
第9章 東大陸北部路線
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第104話 オアシス

 バーン・スワロー号は、走り続けていた。

 オレたちを乗せたバーンスワロー号は、砂漠地帯を疾走し、オレたちは進んでいく。


「ビートくん、なんだか水の匂いがするわ」

「水の匂い?」


 オレは何度か匂いを嗅ぐ。

 しかし、水の匂いは感じない。


 ライラ特有のいい匂いなら、いくらでもオレの鼻腔をくすぐってくるが。


「トイレでも故障したのかな?」

「ビートくん、トイレの水の匂いじゃないわ」


 ライラが、オレの考えを否定する。


「飲んでもいいような、水の匂いよ!」

「そんな水の匂いなんてどこから……?」


 オレが外を見た時。

 ライラがなぜ水の匂いを感じ取っていたのか、オレはやっと理解できた。


 バーン・スワロー号が向かう先に、巨大なオアシスが見えた。

 緑が生い茂る中に、潤沢な水を蓄えた泉。まさしくオアシスだ。


 そして少しずつ、バーン・スワロー号の速度が落ちてくる。どうやらバーン・スワロー号は、あのオアシスで停車するようだ。

 それなら、もうオレたちがやることは決まったようなものだ。


 オレは、ライラに向き直った。


「ライラ、列車が停止したら、オアシスで出発までゆっくりと羽を伸ばそう!」

「うん、賛成!!」


 オレの決断に、ライラは2つ返事で頷いた。




 オアシスの中に造られた駅で、バーン・スワロー号は停車した。

 砂漠の中のオアシスとだけあって、オレたちは真っ先にバーン・スワロー号から降りて、駅を出た。


 駅を出た直後、目の前にオアシスが広がった。


「おぉ……!」

「すごーい!」


 オレとライラは、目の前の景色に感動して心を奪われた。

 砂漠の中にあるのに、暑くはないオアシスには、いくつもの植物が生い茂っていた。中には木の実をつけたものもあり、美味しそうな果物がたわわに実っていた。

 辺りには誰もおらず、オレたちのプライベート空間のようだった。


「ビートくん、お水飲んでいこうよ!」

「そうだな。喉がカラカラだ」


 喉が渇いていたオレたちは、まっすぐに水辺に向かった。

 しゃがみ込んで、水面を覗き込む。水は透き通っていて、ゴミや変な虫などは見えない。手を入れてみると、冷たさが手に広がった。どうやら、この水は湧き水のようだ。そして、飲めるみたいだ。


 我慢できなかったオレたちは、手で水を汲み、口に運んだ。

 冷たい水が、身体の中に染み渡るようだ。ゴクゴクと喉を通過していくたびに、身体中の細胞が大喜びしているような気になった。


「……ぷはぁっ! 美味い!!」

「美味しい!!」


 オレとライラが同時に云う。

 そしてオレたちは顔を見合わせて、笑った。




 オレたちはあちこちに生い茂る木から、果物を収穫していた。

 市場にも滅多に出回らないような、珍しい果物が数多くあり、オレたちは夢中になって果物を集めた。


 そして木陰に腰を下ろすと、収穫した果物を分け合って食べ始める。

 皮ごと食べられる果物が多く、オレたちは夢中になって食べ進めていく。新鮮な果物を食べたのは、久しぶりだ。砂漠では新鮮な果物は、どこに行っても高い。そうそう気安く食べられるものではない。

 だからこそ、タダで好きなだけ食べられるこの状況を、今は楽しんでおこう。


「はぁ、美味しかった……」


 ライラが最後にオレンジを食べると、そこで手を止めた。

 隣には、ライラが食べた果物のゴミが積まれていた。どうやらオレの倍以上、果物を食べたらしい。


「……ねぇ、ビートくん」

「ん?」


 オレは、食べていた果物を飲み込んで、ライラに向き直った。


「どうしたの?」

「わたし今気づいたけど、オアシスに来るのって、初めてかも」


 ライラに云われて、オレは過去の記憶を振り返った。

 確かに、オアシスに足を踏み入れたのは、これが初めてだ。


 オレもオアシスのことは、本でしか知らなかった。ましてや砂漠にそんな場所があるなんて、想像もできなかった。


「オレも初めてだよ。砂漠の中にポツンとある、水と緑が豊かな場所。楽園と表現する以外に言い表せない、オアシス。本でしか読んだことが無かったけど、本当にあったんだね……」


 オレは木陰から、水を飲んだ場所を見つめた。

 どうして砂漠の中に、こんな素敵な場所ができるのだろう?

 灼熱地獄とは無縁の場所。ここでライラと昼寝をしたり、本を読んだりするのは、きっと最高の贅沢だろう。


 周囲を見回しても、オレたち意外には誰も居ない。

 今なら、ちょっとくらいなら大丈夫だろう……。


「ライラ」

「なあに?」


 オレが名前を呼ぶと、ライラはすぐに反応してくれた。


「オレにとってオアシスっていうのはね……ライラなんだよ」

「わたしがオアシス? それって、どういう意味?」


 ライラが首をかしげる。


「……いつもオレのことを癒してくれる、大切な存在っていうこと」

「……!!」


 オレがそう云うと、ライラは顔を真っ赤にしていく。

 ちょっと、キザっぽい表現だったかな?


 顔を真っ赤にしたライラは、笑顔になって尻尾をブンブンと振った。

 照れてしまったかと思ったけど、喜んでもくれたみたいだ。


「ビートくんってば……!」


 すると、ライラがオレの前に尻尾を差し出した。


「ライラ……?」

「ビートくん、わたしからのお礼。さっきの言葉、とっても嬉しかった。だから、好きなだけ触っていいよ!」

「本当!?」


 オレが問うと、ライラは頷いて尻尾をゆらゆらと揺らす。

 まるで触ってくれと云わんばかりに、ライラの尻尾はオレを誘惑してきた。


 あぁ、もう我慢できない!!

 触り心地最高の、ライラの尻尾だ!!


 オレは尻尾を、思いっきり掴んだ。


「ふにゃああああん!!!」


 ライラが、いつか聞いたような声で叫ぶ。


 しまった!

 強く握りすぎた!!


 オレがそう思った直後だった。




「ふにゃああああん!!!」


 オレは気がつくと、ベッドの上でライラの尻尾を握り締めていた。


「わあっ!?」


 驚いて、オレはライラの尻尾を手放した。

 おかしい。さっきまでオアシスにいて、ライラと果物を食べていたはずなのに……!?


 オレは夢を見ているのかと思い、自分の頬をつねる。

 しかし、痛いだけで目が覚めたりはしない。

 そこでオレは、さっきまでの出来事は、全て夢だったことを悟った。


「もっ……もうっ、ビートくん!!」


 ライラが珍しく、少しだけ怒りを含んだ声で叫んだ。


「尻尾を強く掴まないでって、前にも云ったじゃない……!!」

「ごっ、ごめんね! ライラ!!」


 オレは慌てて、ライラに謝る。


「ビートくんってば……もうっ! 気持ちよく寝ていたのに……!」


 ライラは尻尾を何度も、ベッドに打ち付ける。

 それはライラが、不機嫌になっている何よりの証拠であることを、オレはよく知っていた。


「もしかして、嫌がらせじゃないわよね?」

「ちっ、違うよ!」

「じゃあ、どうして尻尾を掴んだの?」


 ライラは、不思議そうにオレを見つめてくる。

 オレ、過去に1回でも嫌がらせで尻尾を触ったりしたことが、あっただろうか?

 いや、今はそんなことはどうでもいい!


 幸い、先ほどまでの夢の内容は覚えている。

 それを正直に、話してしまおう。


 オレは、夢の内容を話しだした。




「……というわけで、目が覚めたらライラの尻尾を掴んでいたんだ」


 夢の内容を話し終えると、オレは再び、ライラに頭を下げた。


「夢の出来事とはいえ、ライラの尻尾を許可なく強く掴んじゃったのは事実だ。ライラ、本当にごめんね」

「ううん……いいよ、ビートくん」


 あれ?

 意外とあっさり許してくれたな。


 オレがそんなことを思っていると、ライラがそっとオレに抱き着いてきた。


「夢の中でも、ビートくんがわたしのことを大切に思ってくれていることが知れて、嬉しかったわ。尻尾を強く握ったことなんて、なんだかどうでも良くなってきちゃった」

「ライラ……ありがとう」


 そう云ってくれたライラを、オレは抱き返した。

 これからも、ライラのことはかけがえのない最愛の女性であり、大切な人であることに変わりは無い。




 オレたちはバーン・スワロー号で、次の停車駅に向かって進んでいった。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

感想、誤字脱字、ご指摘、評価等お待ちしております!

次回更新は、5月18日の21時更新予定です!

そして面白いと思いましたら、ページの下の星をクリックして、評価をしていただけますと幸いです!


昨日は更新できず、申し訳ございませんでした!

予想以上に多忙となってしまい、執筆もプロットもできておりません!

なので次回更新を、隔日とさせていただきます!

申し訳ございませんでした!

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