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幼馴染みと大陸横断鉄道~トキオ国への道~  作者: ルト
第9章 東大陸北部路線
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第103話 帰ってきたビート

 わたし、ライラは起きた時、ビートくんが隣に居ないことに気づきました。

 いつもなら、ビートくんが起きるとすぐに気づいてわたしも起きていたのに、どうして気がつかなかったのでしょう?

 時計を見ると、まだ夜中の3時です。


「ビートくん!?」


 眠気は一気に吹き飛びました。苦いコーヒーを飲むよりも、ビートくんがいない現実の方が、わたしの目を一気に覚ましてくれます。

 少しでもビートくんの匂いがするものは、どこかにないでしょうか!?

 わたしは鼻をクンクンとさせて、ビートくんの匂いを探ります。


 すると、机の方からビートくんの匂いが漂って来ました。


「!?」


 机の上には、置手紙が置いてありました。

 わたしは机に駆け寄り、すぐに置手紙に目を通します。


 そこには、次のように書かれていました。



 ライラへ。


 夜の間に、西の砂漠に行ってエメラルドを探してくるよ。

 明日には戻るから、心配しないでね。


 ビートより。



「ビートくん……」


 わたしは、後悔していました。


 エメラルドが欲しいなんて、云わなければよかった!

 わたしが欲を出したことで、ビートくんが危険な西の砂漠に行くなんて……!


 今から後悔しても、遅すぎることは分かっています。

 でも、わたしはビートくんの所まで行かなくちゃいけません!


 わたしの居場所は、ビートくんの腕の中だけです!!


 急いで服を着替えて、わたしは個室を飛び出しました。




 外に出たわたしは、あまりの寒さに驚きました。


「寒い……!」


 わたしは急いで、ケープのフードを被りました。

 砂漠の夜は寒いと聞いていましたが、思っていた以上に寒さがあります。まるで北大陸のようです。


 でも、ビートくんは今も西の砂漠でこの寒さと戦っている。

 それを思いますと、少々の寒さなんて気にならなくなりました。


「ビートくん!」


 わたしは駅から出て、一直線に西の砂漠へと向かいました。




 あと少しで西の砂漠に出られるところで、わたしは騎士団に止められました。


「待ちなさい!」


 立ちはだかってきた騎士団に驚き、わたしは立ち止まってしまいます。


「この先は西の砂漠だ。こんな夜中に出歩く場所じゃない! すぐに帰りなさい!」

「イヤです!!」


 わたしは息を切らしながら、叫びました。


「わたしの大切な人が、西の砂漠に居るんです!!」

「西の砂漠は迷いやすくて危険だ!」

「ビートくんは、もっと危険な状態なんです!!」


 騎士団とわたしは、押し問答を繰り返します。

 時間がもったいない!!

 こんなことをしている場合じゃ、ないというのに!!


「残念だけど、西の砂漠に出すわけにはいかないよ。夜に西の砂漠に出るなんて、それこそ自殺をするようなものだ」

「じゃあ、ビートくんは……!?」

「……すまない」


 騎士がわたしから目を逸らします。

 それが何を意味しているのか理解して、わたしはその場に座り込んでしまいました。


 もう二度と、わたしはビートくんとは会えない。

 エメラルドを少しでもほしいと思ってしまった、わたしのせいで。

 ビートくんは、砂漠の砂に埋もれて、そのまま名も無き白骨となってしまう。


「ビートくん……!!」


 わたしの目から涙が溢れて、ポタポタと砂の上に落ちていきます。

 落ちた涙は砂に吸い込まれて、すぐに分からなくなってしまいました。


 エメラルドなんか、いらない。

 ビートくんが戻って来てくれるなら、もうそれ以上何もいりません。

 わたしにとってビートくんは、エメラルド以上の価値がある人。わたしが世界で一番愛している人です。ビートくんのいない世界で生きていくことなんて、わたしにはできません。


 神様、お願いします!!

 エメラルドなんていりません!!

 ビートくんを、返してください!!


 わたしは心の中で、念じます。

 そうしているうちに、夜が明けてきました。


 太陽が地平線から昇って朝日を放ち、夜空の星をかき消していきます。

 あぁ、ビートくんもきっと、あの星のように消えて行ってしまう……。


 その時、わたしの耳は確かに、聞き覚えのある声を掴みました。


「……おーい!」

「!!」


 わたしの耳がピクンと動き、声に反応します。


 何度も耳にした、あの安心する声。

 大好きな人の、温かみのある声。


「ビートくん!!」

「ライラ!!」


 こちらに向かって、西の砂漠から走ってくる人。

 それは間違いなく、わたしの夫、ビートくんでした。




 やった! この方角で間違いなかった!


 オレはエメラルドを抱えながら、安堵した。

 もしも方角を間違えていたら、きっと飢えと渇きで苦しめられただろう。

 だけど、オレはグリーンベリルの町に戻って来れた。これから朝食の時間だ。パンとスープで、冷え切った身体を温めよう。


 あれ?

 町の入り口に、ライラがいるぞ?

 それに、騎士団もいる。何があったのだろう?


「……おーい!」


 オレが叫ぶと、ライラが顔を上げた。

 そして周りにいた騎士たちも、驚いて走ってくるオレを見てくる。


 入り口近くまで来ると、はっきりとライラだと分かった。

 ライラは立ち上がると、オレに向かってくる。


「ライラ!」

「ビートくん!」


 オレが叫ぶと、ライラはオレに抱き着いてきた。

 あぁ、やっぱりライラはいつもブレないなぁ……。


「あっ、あの西の砂漠から戻ってきた!?」

「あり得ない! どうやって迷わず戻って来れたというんだ!?」


 騎士団が、オレを見て騒いでいる。

 いや、本当にたまたまだったんだけどなぁ……。


「それにしても、あのエメラルドはすごいぞ!?」

「原石にしては大きすぎる。信じられないが、事実だ」


 騎士団がそう云っているのを聞いて、オレははっとする。

 そうだ!

 まだ、このエメラルドの原石をエメラルド組合に持ちこんでいない!!


 これをこのままライラに渡しても、ライラが困るだけだ。

 まずは、エメラルド組合に売り渡すんだ!

 そのおカネで、ライラにエメラルドを買おう!


「ライラ、とりあえずこれをエメラルド組合に持って行きたいんだけど……?」

「うん! わかった!!」


 ライラはオレから離れたが、手だけは離さなかった。




 その後、エメラルド組合に持ちこまれたエメラルドの原石は、組合の人々を驚かせた。

 100年に1度、出るか出ないかというクラスの、巨大なものであった。


 すぐに騎士団立ち会いの下、鑑定が行われた。

 そして鑑定の結果、オレが持って来た巨大エメラルドの原石には、大金貨100枚という法外な値段がつけられた。売るか否か尋ねられたが、これを売らない手はない。オレはすぐに売買契約書にサインをして、エメラルドの原石を売り払い、大金貨100枚を受け取った。


 この日、最も大きなエメラルドの取引となったのは、これが最初で最後だった。




「はい、ライラ」


 オレはライラに、エメラルドをあしらえたブレスレットを手渡した。

 ライラがエメラルド組合のショーケースに入ったアクセサリーの中で、最も見つめていたものだった。


「ビートくん、ありがとう!」


 ライラは笑顔で受け取った。


「そして……ごめんなさい」

「えっ、どうして?」


 オレが首をかしげていると、ライラは顔を上げた。


「わたしが、エメラルドが欲しいなんて思ったから、ビートくんが西の砂漠に行って危険な目に遭って……」

「ライラ、オレはこの通りちゃんと帰ってきたよ」


 オレは右腕を挙げて、ガッツポーズを作る。


「どこか怪我したり、病気になったわけじゃない。書置きにも書いておいたよね? ちゃんと帰ってくるからってさ。それに、オレはライラにエメラルドをプレゼントできて、本当に良かったと思っているよ」

「ビートくん……!!」


 ライラは目をウルウルさせながら、左腕にブレスレットをつけた。

 手首で、エメラルドをつけたブレスレットが輝いた。


「ビートくん、大好き!!」

「うわっと!?」


 オレは、ライラに抱き着かれて、そのままベッドに倒れ込んだ。

 それからキス攻撃が始まったのは、あえて云うまでもないだろう。




 そして再び、バーン・スワロー号はオレたちを乗せて、砂漠地帯を走りだした。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

感想、誤字脱字、ご指摘、評価等お待ちしております!

次回更新は、5月15日の21時更新予定です!

そして面白いと思いましたら、ページの下の星をクリックして、評価をしていただけますと幸いです!

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