01 睡眠とは娯楽である
寝ることは、人生で最大の娯楽である。
少なくとも、私にとっては睡眠こそが生きがいだった。
そこそこ平和な時代の、それなりに強い王国の、ちょっと貧しい伯爵家に生まれた私。食べることや寒さに困ることはなくても、ドレスや本といった高級品にお金をかけられない経済状況で育った私にとって、睡眠が一番お金のかからない娯楽だった。
もともと、寝ることが好きだったこともある。昼間に外で遊ぶよりも、夜に毛布に包まって夢を見る方が楽しかった。
夢の中ではなんでもできた。空を飛ぶことも、星を捕まえることも、何でもありだ。私が可能と思えば何でもできる。世界の法則を無視した虚構を冒険するのは、胸が躍る。つまらない現実とは大違いだ。
ずっと夢の中にいたい。叶わないことだとはわかっていても、そう願わずにはいられなかった。
だけど、もう私は分別のきかない子供でもない。
——貴族の子息子女は、十五になれば王都の学園に通う義務が発生する。
人質、貴族同士の繋がりの強化、国王への忠誠を育むなど、この法には様々な目論見があるのだろう。
その中の一つに、「まともに人付き合いができるか」も含まれている。要は、貴族社会に馴染めるかどうかだ。向き不向きを見定めると言っても良い。
残念ながら、私は貴族社会不適合者である。誰かと会話をするのが嫌で嫌で仕方がない。駆け引きなど以ての外。
そんな私がまともに学園生活を送れるわけがなく、入学時から人を避けてきたため、周りから「日陰令嬢」と揶揄されるようになった。当然の結果だ。もちろん、友達は一人もいない。そもそもいらない。一人が良い。
そんな自分勝手な私でも、伯爵家の長女としてこれ以上ない穀潰しであると、自覚していた。家の面汚しと罵られても文句は言えない。当主であるお兄様は人格者なため妹の私を罵倒しないが、足手まといであることも否定しないだろう。
だからこそ、役立たずなりに、いい加減現実を直視するべきだった。夢の中は素晴らしいが、ずっとそっちにはいられない。
たとえ、つまらなく、苦痛で仕方がないとしても、私は現実に戻らなくてはいけないのだ。
そう、この——
「本当は、君が好きなんだ! アリス!」
「レ、レイモンド殿下……」
——この、禁断の恋を楽しんでいる方々が背後にいる現実に。