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妖かしつれづれ話 拾の話・籠の鳥  作者: けせらせら
後の章
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21

「生まれ変わる? 百太郎、何を言っているんだ?」

 百太郎の言っている意味がわからず響は聞き返した。

「約束したと言ったろ。お前の後始末は俺がやると」

「あの約束を守るっていうのか? 今になっても?」

「そうだ……と言えばカッコいいかもしれないが、実はそうじゃない。俺たちは禁忌を犯した。お前は籠女の生命を取り戻そうしたが、俺も別のことを試みていた」

「別のこと?」

「俺はな、時を遡り、運命を変えようとした」

「そんなことが出来るのか?」

 その問いかけに、百太郎は肩をすぼめて首を振った。

「だから、失敗したんだ。その結果、俺は永遠に時間を彷徨う『時の旅行者』となる」

「時を彷徨う?」

「俺には『時飛』という呪いがかけられている。時を飛び、彷徨い、俺を知っている者は俺を忘れ、俺を知らない者は俺を知るようになる。そして、どこにでも存在をし、どこにも存在しない者となる。今はまだ押さえられているが、もう抑える術もなくなる。だから、お前の力を、生命を生み出す力を俺によこせ」

「……どうするつもりだ?」

 百太郎がその力を欲する理由がわからなかった。

「『時飛』は強い力を必要とする。それこそ生命をかけるだけの力を。『時飛』の呪いが発動すれば、俺は生命を落とすことになる。だからこそ、お前の中にある『生命の力』が必要だ」

「そんな呪いが……」

「もちろん時を飛ぶ中で生命を落とすことが俺の罰だというならばそれも仕方ないのかもしれない。だがな、俺はそれでも抗うつもりでいる。その抗うことまでが含めて罰を受けることだと思うからだ」

「その呪いは解けないのか?」

「無理だろうな。俺の罪は俺が受けるだけだ。あとはお前の力を手に入れれば、俺はその罰を受け入れることが出来るということだ」

「でも、それはボクが受けるべき罰じゃないのか?」

 百太郎は少し意外そうな顔をしてからーー

「ずいぶん責任感が強いんだな」

「だってーー」

「言っただろう。俺たちはそれぞれに罪を犯したんだ。それでもお前が俺の代わりをやってくれるというのか。ならば、まずは俺から『時飛』の呪いを取り出しお前にうつしてみろ」

「それは……どうやって?」

「なんだ? わからないのか?」

 そう言って眉をひそめる。だが、それは予めわかっていたかのようだ。

「教えてくれ」

「いや、残念だがそれは無理だ」

百太郎はわざとらしく額を押さえ、空を仰ぎ見た。「『時飛』の呪いをお前にうつすのはそう簡単なことではない。確かに玄野響ならば、そのくらいのことは簡単だっただろう。だが、今のお前は? やはり、お前は玄野響の身体を持っただけの存在ということだな。とても無理だ」

「でも、ボクが行くためにはーー」

「だから無理だと言っているだろ。お前が俺と同等の陰陽師だったらそれは可能だ。だが、今のお前にはそんな力はない。なぜならお前は玄野響ではないからだ。諦めろ。それにおまえには他にやらなければいけないことがあるはずだ」

「他に? それは陰陽師としての務めを言っているのか?」

「そうだな。そういう言い方をするということは、その女の言うように『魔化』の影響を受けただけで、俺たちが正気を失ったわけではないとわかっているということだな。確かにこの国にはもっと違う負の力が存在している」

「ボクがそれに対処しなければいけないと?」

「いいや。まあ、それをやるかどうかはお前が決めればいいことだ。お前がやらなくても、他の誰かが代わってやってくれるかもしれない。しかし、籠女はどうだ? 籠女をどうするつもりだ?」

「でも、あれはーー」

「妖かしだ。だが、それでも籠女だ。もう元のようには戻れない。火輪は良い奴だから、あれをあのまま封印していてくれるかもしれない。だが、それでいいのか?」

「それは……」

 響は答えられなかった。

「なら、御厨マリノは? 俺が時間旅行者となってこの世界から消えたからといって、これまで妖かしとなった者たちは何も変わらない。この時代でお前が救っていかなければいけない存在だ」

「だが、ボクはどうすれば?」

「それはお前が一人ひとりに向き合っていくことだ。この世界ならば、お前は草薙響として妖かしの一族たちの力も借りることが出来る。わかったならば力を渡せ」

「力をお前に渡すというのは? どうすればいい?」

「だからこそこの刀がある」

 そう言うと、百太郎は再び、自らの持つ短刀『流我』を抜き払った。


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