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一条家の当主、一条春影から呼び出されたのはそれから二日後のことだった。
呼び出されたといっても、同じ一条家の屋敷の中だ。それでも春影のいる『奥の院』と呼ばれる座敷に行くのはいつも緊張するものだ。
響が春影の前に座るとーー
「蓮華さんに調べてもらいました」
そう言って、春影はA4サイズの封筒を響の前に差し出した。一条家の顧問弁護士を務めている蓮華咲子には、ミラノが見せてくれた絵に関する情報を調べてくれるようお願いしていた。
「勝手なお願いをして申し訳ありません」
春影は静かに首を振った。
「いいえ、あなたが必要だと思うことはいつでも言ってくださって構いません。それにこれはあなたが思っているとおりのことかもしれませんから」
「それって……やっぱりこれは妖かしが関わっていると思いますか?」
春影は少しだけ間をおいてからーー
「――かもしれません」
「ボクが関わっても良いものなのでしょうか?」
「どうしてそう思うのですか?」
「いえ……」
響は言葉を濁した。「ただ、あの絵は確かにボクだと思います。しかも絵が描かれたのが十年以上も前だとすると、今のボクは何者なのかと」
「不安ですか?」
「少し」
「もし、あなたの気が進まないというのなら、無理に調べる必要はないのではありませんか?」
「しかし、妖かしが関わっているなら放ってはおけないでしょう」
「だからといって、それがあなたの役割というわけではありません。この家に住んでいるからといって、あなたが縛られる必要はないのです」
「いえ、そういうわけじゃありません。もちろん不安がないわけではないですが、ちゃんと調べたいと、真実を知りたいと思っています」
「そうですか。あなたが行きたいと思うなら、あなたが知りたいと思うなら、ちゃんとその目で確かめてくるのも良いでしょう」
その微妙な言い方は、少し春影らしくないような気がする。
それでも響は封筒を取り上げて中を確認した。
その封筒には一枚のメモ紙だけが入っていた。そこには住所が一つ書かれているだけだった。
「これだけですか?」
思わず響は顔をあげて春影に訊いた。これまでも妖かし関連のことで一条家の手伝いをしたことがある。その時は妖かしに関わる一人ひとり、もっと詳しい情報まで調べ上げてあった。
こんなのは初めてのことだ。
春影は小さく頷いてからーー
「これ以上の情報はあなたの手で調べてください。今回のことはその必要があるのです」