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妖かしつれづれ話 拾の話・籠の鳥  作者: けせらせら
後の章
18/22

18

 気づいた時、そこは古い道場の中だった。

 そう、ここは直江四門の道場だった場所だ。もう何年も使われていないらしく、床は埃をかぶっている。

 目の前に百太郎がいた。

 どうやらやっと夢から覚めて現実世界へ戻ってきたということか。

「何が見えた?」

「ボクの過去が……何があったのかを見てきた」

 そうだ。あれは自分がたどってきた道だった。

「そうか。なら細かな説明は不要だな」

「ボクはやってはいけないことをやったということだな」

「そういうことだ」

「どうしてここまでしてくれるんだ?」

「おいおい、まだ記憶が全部戻ったわけではないんだな。籠女は俺の従姉妹だ。あいつをお前に会わせたのは俺だ。お前が中学生の頃だった。ガキの癖に一目でお互いに惚れあいやがった」

 言葉は乱暴だが、百太郎は昔を懐かしむように言った。

(あぁ、そうか)

 記憶ではないが、感情が蘇ってくる気がする。

「それは思い出したよ。ボクが知りたいのは、ボクが狂った後のことだ。ボクは何をした?」

「まあ、待て。俺にも少しくらいは昔語りをさせろ。お前が思い出した過去と俺が知っている過去が同じとは限らない」

「同じじゃない?」

「お前たちは本当に幸せそうだった。あのまま幸せ一直線って感じだった。それなのに小鳥遊籠女が死んだ」

「ボクは全てを失った」

 結局、誰にとってもそれは変わらないのだ。

「そんな顔をするな。まったくあの時と同じ顔をしやがって。確かにお前は心から籠女を愛していた。だから、籠女はお前に本当のことを言わなかった」

「何?」

「籠女は知っていたんだ。自分が死ぬことも、その後、お前がどうなってしまうのかも」

 響は耳を疑った。

「何だって?」

 思わずもう一度聞き返す。

「籠女は知っていたと言ったんだ。あいつは俺の従姉妹で、もともとは夢見を得意とする陰陽師の家系だ。だから、自分の運命を知っていた」

「いつから?」

「お前と知り合って間もなくだ。そう言っていた。お前を苦しめることになる。だから、本当は付き合ってはいけないのかもしれない。それでも、お前と一緒にいたいとな」

「だったら、もっと早くーー」

「早く? 自分の病気に向かっていれば……か? それが意味のないことは、今のお前ならわかるだろう?」

「それは……」

 籠女の病気は今の医学では治せないものだった。彼女がどんなに早く自分の運命を知り、対処しようとしていても、結局は同じ結末を迎えたことだろう。

「籠女は自分が死んだ後のことも知っていた。お前がどうなってしまうのかも。そして、俺はそれを聞かされていた。籠女の言っていた通り、お前は『反魂法』を学ぼうとした。幼い頃から天才と呼ばれ、多くの妖かしを手にかけてきたお前にとって、そのくらいのことは簡単に出来ると思い込んだのだろう。だが、そんなお前でも人間の生命を甦らせるなんてことは出来なかった。そのためにお前は自分を見失った。そして、死者を蘇らせるための研究をはじめた。俺もそれには少しだが協力をした。そのために俺たちは『宮家陰陽寮』から睨まれることになった。死者を蘇らせるなんてのは禁忌だったからな。俺たちは二人とも頭領候補からは外された。まあ、そんなものはどうでもいいことだった。だが、おまえは『宮家陰陽寮』の力をも利用しようと考えた。そして、お前を頭領候補から外そうとしていたお前の親父さんを恨むようになった。きっと、お前は籠女を生き返らせるためならば、他の誰を殺すことも厭わなかったんだろう」

「お前は知っていて、俺に何も言わなかったのか?」

「言ったところでお前は止まらなかっただろ?」

「そう……だな」

 百太郎の言う通りだ。ある意味、籠女にも百太郎にも辛い役目を背負わせたのかも知れない。

「お前は自分自身の危険性も認識していたよ。だからこそ、俺に自分を暗殺するように依頼した。自分が常軌を逸した時には殺してくれと頼まれた」

「だから、ボクを?」

「そうだ。俺は約束したとおりにお前を殺した」

「その後は?」

「俺がお前を殺した後、お前の研究の内容を調べた。そして、お前がどこまで研究を進めていたのかを知った。憶えているか?」

「いや」

 響は首を振った。おぼろげながら研究をしていた記憶はあったが、その内容はというとまるで思い出せない。

「メチャクチャだった。それなのに一番のポイントだけは押さえてあった。しかも、恐ろしかったのは、その術が自発型のウィルスのようになって散っていたことだ」

「自発型?」

「タンポポの綿毛のようにあちこちに飛び散り、失われた生命を見つけてはまるで寄生するかのように生命を蘇らせ妖かしへと変える。おまえは狂っていたのだと俺はハッキリとわかった。もっと早く殺してやるべきだった。当然、小鳥遊籠女がその一人目だった。当然といえば当然だ。そのためにおまえは狂ってまで研究をしたのだからな」

「ボクが籠女を妖かしにしたのか」

「どんな形であれ生き返ってほしいと願ったのだろう。確かに籠女は生き返った……だが、昔の籠女じゃなかった。何もかもを忘れていた。いや、そもそもあいつは外側だけは籠女だったが、実際は違っていたのかもしれない」

「まさか……籠女はそこまで知っていたのか?」

「たぶんな。お前の絵を雑誌社に送るように手配したのも籠女だ」

「それじゃーー」

「籠女が今日のお前を導いだんだ」


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