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妖かしつれづれ話 拾の話・籠の鳥  作者: けせらせら
後の章
17/22

17

 目を開けると、目の前に百太郎の姿があった。

「よぉ。目が覚めたか」

「ここは?」

「寝ぼけているのか。しっかりしろよ。ここはお前の部屋であり、お前が閉じこもっている研究所でもある」

「ああ……そうか。どうやってここに?」

「ドアを開けて入ってきたさ」

百太郎はそう言って笑ってみせた。鍵をかけられた部屋、結界の張られた空間。百太郎でなければ、そう簡単に入ってこれるはずがない。

「ちょうど良かった。今日はわりと気分がいい」

「そりゃあ良い。せっかくだからこのまま外に出てみないか? 皆、お前のことを心配しているぞ」

「ボクの心配など不要だ。そういえば先日、國太郎くにたろうが来てくれた」

 國太郎は百太郎の弟で、今年になって中学に入学したばかりだ。

「國太郎が? 何のために?」

「さあ、なんだったかな」

「昔からあいつも籠女を姉のように慕っていて、ここのところずっと元気がなかったんだ。何か用があったのか?」

「悪いな。あまり憶えていない」

「そうか。じゃあ、別の話にしよう。お前、昨日の夜、どこにいた?」

「え?」

 百太郎が何を言いたいのかがわからない。「ここにいたに決まっているだろ。ここで研究をしていた」

「本当か?」その目は明らかに疑っているようだ。

「ああ、どうしてだ?」

「昨夜、宮家陰陽寮の頭領の寝所に忍び込んだ者がいる」

「それで?」

「捕まった。若い術者で、頭領の暗殺を企てたようだ。だが、不思議なことにそいつは自分がやったことを記憶していない。誰かに術をかけられていた可能性がある」

「それがどうかしたのか?」

「憶えていないか? 田口豊久という若者だ。お前のことを慕っていたと思ったんだが」

「さあ、憶えてないな」

「……そうか」

 百太郎は諦めたような顔をして目を伏せた。

「それよりも教えてほしいことがある」

「何だ?」

「ボクは宮家の頭領になりたい。方法を教えて欲しい」

「何?」

 百太郎は呆気に取られたような顔をして聞き返した。

「頭領だよ」

「突然、何を言い出すんだ? おまえの力なら、いずれは頭領になれる可能性は十分あるだろう」

 咎めるような口調で百太郎は言った。

「違う。今、すぐなんだ」

「やはり昨夜のことはーー」

「そんなこと、ボクは知らない」

 響はキッパリと言い切った。「それとも何かボクに繋がる証拠でもあるのか?」

「いや……」

「なら、そんな無駄な話をボクにしないでくれ。ボクはこれでも忙しい」

「何?」

 百太郎は改めて部屋を見回した。「一人で籠もって、おまえは何をしている?」

「研究だよ」

「研究? 何の?」

「決まっているだろう。甦りだよ。反魂法だ」

「おまえ……そんなことを」

「籠女を甦らせる」

「バカなことを」

「何がバカなんだ? ボクたちは式神を使う。式神の生命を操ることだってある。同じように人の生命だってーー」

 百太郎が響の胸ぐらを掴む。

「そんなことが出来るわけがないだろう! 目を覚ませ!」

「出来ない? いや、術式は存在している。過去にそういうものが書かれている文献はある。全貌はきっと宮家が隠している。それを手に入れなきゃいけない」

「あれは禁忌だ」

「だから? 禁忌ということは、術式が存在している。つまりは死者を甦らせることは出来るということだろう?」

「違う。もし、そんなことが出来たとしてもそれは必ず別の問題が起こる。だからこそ禁忌とされている」

 それでも響は表情を変えなかった。

「それは試してみなければわからないことだ」

「バカな」

「バカ? 禁忌だから? だから籠女を諦めるのか? もし籠女が生命を取り戻せても、それを諦められるのか? 籠女を取り戻すことが出来るなら、バカと言われようと気狂いと罵られようと構わない。お前は違うのか?」

「……それは……」

 百太郎は掴んでいた響を力なく放した。百太郎の中にも、響と同じような気持ちがないはずがない。

「百太郎……ボクは自分を止められない」

「その先に幸せがあるとは限らないんだぞ。俺たち陰陽師の術は自然の理に従うものだ。だが、死者を生き返らせるというのはそれに逆らうことになる。ヘタをすれば、この世の中を狂わせることにもなりかねない」

「なら……百太郎……ボクを殺してくれ」

 それを聞き、百太郎は唖然として響の顔を見つめた。

「おまえ、何を言っている?」

「お前の言っていることはきっと正しい。それでもボクは何をするかわからない。だから、ボクの頭がおかしくなったと感じたら、迷わずにボクを殺してくれ」

「……玄野」

「――でないとボクは取り返しのつかないことをしてしまうかもしれない」

 自分が何を言っているのか、何を頼んでいるのか、響にはよくわからなかった。

「あぁ、わかった。おまえの後始末は俺が全部やってやる」

 諦めたように、それでも決意したように百太郎は言った。


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