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あの会話から一週間も過ぎていない。
(それなのに……)
あれが最後の籠女との会話となってしまった。
あれから数時間後、籠女の容態は急変した。そして、意識のないまま5日が過ぎ、昨夜、帰らぬ人となった。
目の前が真っ白だった。何も考えられない。
神妙な顔をし、黒いスーツを着た男たちが静かだが盛んに動き回っている。その中心に、既に血の気の失って横たわる白い肌をした籠女の姿があった。
いつも白い肌をしていた。だが、今の彼女はそれまでとはまるで違っている。
それなのにその表情は静かで柔らかい。
(どうして……こんな?)
彼女の病を知って以来、助ける方法がきっとあると信じてずっと調べてきた。だが、何の手がかりも見つけることが出来なかった。
自分は何をしているのだろう。
足元がふらつく。
叫びだして逃げ出したくなるのを、響はグッと堪えた。
その肩に手が置かれーー
「響君、来てくれたんだね。ありがとう。籠女も喜んでいるよ」
喪服を着た籠女の父親が慰めるように言う。だが、そんな言葉も素直に聞き入れることが出来ない自分がいる。
(バカを言うな)
心の中で呟く。
なぜ、籠女が喜んでいるなんて思えるんだ?
ただの慰めでしかない。でも、そんな慰めが何の役にたつのだろう。
まだ十五年。
生まれてからたった十五年しか経っていない。
それでどうして死ななければいけないんだ?
こんなことは間違っている。
彼女が死ぬなんて許されない。
このまま彼女を逝かせはしない。
* * *
籠女が亡くなってから既に半年が過ぎる。
あれ以来、ずっと生命の在り処を捜し続けている。
さまざまな術を探し求め、妖かしたちの力をも追求した。だが、未だに求めるものは見つけられずにいる。
多くの人が響を心配して訪れてくれる。だが、誰にも会う気にはなれなかった。誰も欲しい答えを持っていないからだ。
先日は師匠である直江四門も訪れたようだが、響はそれにすら会うのを拒否した。
今、自分が求めるのは、籠女をもう一度取り戻すこと。それ以外のものはただの時間の無駄でしかない。
少しでも時間があるならば、今は研究を続けていたい。
宮家陰陽寮に仕える両親とも、あえて顔を合わせないようにしている。彼らに自分がやろうとしていることに気付かれないようにするためだ。
ただ、一つ気になることが会った。
時々、意識を失うことがあるようだ。それはただ眠っているということではない。その間、自分はどこかで何かをしているらしい。
(ボクハナニヲシタイ?)
誰かが頭の中に囁きかける。
時々、自分というものがわからなくなる。
(ボクハキガクルッテイル?)
自分がやろうとしていることもわからない。
(ボクハマチガッタコトヲシヨウトシテイル?)
それでも構わない。




