1人ぼっち
XX年、僕は小さな病院で生まれた。
名前は龍崎 蓮
僕はお父さんとお母さんと仲良く暮らしていた。
お母さんはよく僕にハグをしてくれてた。
すごく安心した。
でも、お母さんはハグしながら何かを言って僕に目を開けさせないようにしていた。
力強く抱きしめていたから心臓の音がよく聞こえた。
ドクン、ドクンとすごい大きな音が聞こえる。まるで物と物がぶつかったような音だ。
それから3年後、僕が3歳の時お母さんは急にいなくなった。
どこに行ったんだろう。
しばらくしてお母さんがいなくなった理由がわかった。
全部はあいつのせいだ。
クソ親父は朝家を出て昼を過ぎた頃に帰ってくる。
そして酒を飲み暴力を振る。
母さんがいなくなる前日もそうだった。
その時母さんはいつものように抱きしめ僕に言った。
「必ず迎えに行くから待ってて。」
そう言った次の日、母さんはいなくなった。
それから週に3回、クソ親父は知らない女の人を連れてきて夜になるとうるさくなる。
僕に部屋はない押入れに座れるスペースがある。そこが僕の自由な場所だ。
残りの4日は僕を殴ったりしたり帰ってこなかったりの繰り返しだ。
僕の食事は基本ない。だからあいつがいない時こっそり食べてなんとかここまできた。
そんな日々が続き、僕は中学3年生になった。学校は義務教育だからさすがにあいつも学校には行かせてくれるようだ。
だが、相変わらずの日々、僕もそろそろ限界だ。
身長は163㎝体重40kgあだ名はがいこつ。
先生にはとても心配されている、
「龍崎くん、ちゃんとご飯食べてるの?
食べないと大きくなれないよ」
と先生には月に1回くらい言われている。
僕は笑顔で
「はい!いっぱい食べてます!」
と。
先生はうかない顔をするが、特に何も言ってこない。
実は1度先生に助けを求めようとしたことがあった。
あいつは今日帰ってこない日だから家を出ようと思い、家を出た。
友達もおらず行くあてがないまま歩いていると先生にたまたま会ったので事情を説明して泊めてもらおうと思った。
そして話そうとした時、
「おい、蓮こんなところで何してる」
後ろから聞き覚えのある声だがなんだか優しそうな声だ。
「夜遅いからもう帰るぞ」
振り返るとクソ親父が立っていた。
でも、先生に言えばまだなんとかなると思い先生の方を向き言おうとする。
だがクソ親父がいると思うと声が出ない。
昔殴られると泣いたり痛いと口に出したりするとさらに殴られた。
そのせいか、何も言えなかった。
そしてそのままお辞儀をして帰った。
家に帰ると、
「お前さっき何しようとしてた」
いつもの声だ。
震える体を抑えながら言った。
「先生に勉強教えてもらってた」
あいつは何も言わず僕のお腹を殴る。
どうして僕だけこんな思いしなきゃいけないんだ。
みんな靴とか鉛筆とか新しいものばっかり持ってるでも僕の靴は穴が開いていて鉛筆はない。
鉛筆はよく落ちてる。それは落し物箱に入れられている僕はそこから取って使っている。
たまに見つかって怒られるがこうしないと鉛筆がないんだ。
他にもまだある。
そのたくさんの嫌な思いが1つの感情を生んだ。
「殺してやる」
身体的にも精神的にも限界に近かった僕はそれ以外考えられなかった。
その日はあいつが帰ってくる日だったので、近くの公園に行き、そこの水道水でお腹をいっぱいにして帰る。
歩く足音と同時にお腹がタプン…タプン、と鳴る。
これがあいつが帰ってくる日の日課だ。
歩くのも苦しい。だが、晩ご飯がないのだから仕方ない。
あそこの水は汚いが貴重だ。
最初はお腹が痛くなり夜はなかなか寝付けなかった。そこで痛そうなそぶりをしたり声を出すと髪を引っ張られ玄関まで引きずられた。
それからは痛くても歯を食いしばったり、ももをつねって我慢した。
今は慣れて平気だ。
そんな中どうやってあいつを殺すかを考えながら歩く。
殺すなら包丁だろうが僕の家には包丁がない。あいつは料理は全くせず毎日外食をしているからだ。
帰ってきて食べているのは酒のつまみぐらいだ。
思いつかない。
運動もしないしご飯はほぼ1日1食、そのせいか素手でやれるほどの力はない。
しかもアパートは1階だから階段から突き落とすこともできない。
だから、凶器が欲しいところだ。
帰って何かないか探してみよう。
そんなことを考えながら歩いていると、
「ニャー」
どこからか猫の声が聞こえてきた。
周りを見回してみると、2、3メートル先の自動販売機の横にダンボールがあり、その中に黒猫が1匹。
僕はしゃがんで、その猫を見つめた。
すると、猫もこっちを見て鳴いた。
僕は手を猫の顔の前にだすと、ペロペロ猫は舐めてくる。
とても癒された。嫌なことを忘れさせてくれるような気がした。
飼いたいけど見つかれば何されるかわからない、あいつは動物があまり好きじゃない。
だから仕方なく、僕は猫を撫でて帰った。
それから毎日僕は猫に会いに行った。
「おまえも1人だったんだな、僕も一緒。でも、これからは僕がいるから1人じゃないね」
そう言っていつものように撫でた後帰ろうと立ち上がった時、
「その猫かわいそうよね。」
振り返ってみると、僕と同じくらいの女子がいた。
彼女は猫に近寄り鞄からパンと牛乳を出し、ダンボールにあった小さな器に牛乳を入れる。
猫は彼女に向かって鳴いた。
その時の鳴き声はとても嬉しそうに聞こえた。
僕の時とは違う。
よかったね。そう思いながら僕は家の方に体を向け歩き始める、
「あ、ちょっと!龍崎くん!」
なんで僕の名前知ってるんだろう。
「私よ同じクラスの成宮玲子よ!」
誰だろ、クラスの人はみんな僕を避けるから人の名前なんて覚えようとも思わなかった。
「あんたいつも暗いし細いし白髪あるし何考えてるかわかんないけどいいやつじゃない」
僕は足を止め、背を向けたまま、
「僕はそんなにいいやつじゃないよ」
そう言ってまた歩き出した。
玲子は不思議な顔をしながら蓮の背中を見る。
翌日も僕は普通に学校に行く。
学校に行く理由は1つだ。
給食があること、この1食が唯一の食事。
だから食事意外は基本的に空を見たり学校付近を歩いてる人を見たりする。
先生達も答えないってわかってるのか僕には絶対に当てない。
いつものように外を見ていると、
「龍崎くん!おはよう!」
振り向くと成宮玲子がいた。
どうやら成宮玲子は隣の席の人だったらしい。
でも僕は何も言わずまた外を見る。
すると、他の方から
「玲子やめなって、あいつに話しかけても意味ないよ」
それをはじめにいろんなところから成宮玲子に向かって話しかけてくる人がいた。
どうやら彼女は人気者のようだ。
それから毎日僕に話しかけてくるようになった。
そんな彼女に僕は圧倒されたのかあの日にあってから1週間後、
「龍崎くんおはよ!」
彼女はいつものように挨拶から始まる。
「おはよ。」
僕は恥ずかしいのか彼女の方を見れず、外を見ながら言う。
だが彼女からの返事がない。
気になって振り返ると、今にも泣き出しそうな顔をしながら僕を見る。
そして成宮さんは微笑んで、
「おはよ。」
僕は顔が熱くなって外を見る。
彼女が微笑んだ時僕は綺麗だ。と思ってしまった。
それからは少しずつだが話すようになり、帰り道も同じだと言うことで一緒に帰ることもあった。
僕はこんな楽しいのは初めてだ、もっと続けばいいのにと思う。
だが、家に近づくにつれ、表情も次第に無くなり、成宮さんとは猫の場所で別れた。
計画は変わらない。
学校であんな日々を過ごしていたが帰り道では凶器を探していた。
すると、最近自動販売機の近くに建て始められた家所に金槌が落ちていた。
誰かが落としたのだろう。
僕は周りを見渡し人が見ていないのを確認した後トンカチを拾ってその場を去った。
学校帰りに拾った金槌は誰にもバレないように自分の部屋に隠しておいた。
今日は帰ってくる日じゃないから明日なら帰ってくるだろう。
殺すのはあいつが寝てからだ、あいつを殺して母さんを探す。
待ってるだけじゃダメだ、だから僕から会いに行って驚かせてあげよう。
その日は少し興奮してなかなか寝付けなかった。
翌日、いつものように学校に行きいつものように成宮さんが話しかけてくる。
「おはよ!」
大丈夫、いつもと同じだ。
今日は朝から心臓の音がすごく大きい気がするが成宮さんを見たからなのか心臓の音は小さくなった。
「おはよ。」
同じだと思ってた日が今日は違った。
「ねぇ、今日あんたの家に行っていい?」
僕は一瞬思考が停止した。
「なんで?」
そう聞き返す。
「だってあんた周りの男子と比べて細いし白髪あるし、あと先生も気にしてるみたいだから。あと…」
その後はなんて言ったのか聞こえなかった。
「うち汚いからダメだよ」
ありきたりな理由をつけて断る。
だがこの理由はありきたりすぎて通用しなかった。
「私汚いの平気よ」
今日はあいつが帰る日、そして僕が計画を実行する日だ。
なんとしても断らなければ、
「ごめん、今日だけはダメなんだ。」
今日が終われば僕はもう学校にはいかない。
「そっか、わかったわ」
わかってくれてよかった。
会話が終わると僕はいつものように外を見る。
今日は曇りか、雨降りそうだな。
なんだか神様は僕の心を見ているみたいだ。
いつもの曇りとは違う、すこし暗いようなそんな感じがした。
それから天気は変わらず学校が終わった。
「帰るわよ」
成宮さんは僕に言って帰りの支度をする。
そして同じように僕も帰りの支度をする。
これで学校ともさよならだ。
学校はある程度出席はしといたからなんとかなるだろう。
そして成宮さんともさよならだ。
短い期間だったが成宮さんと歩いて帰るこの道を一歩、一歩踏みしめながら思い返す。
僕は成宮さんが好きだ。
でも人殺しになる僕に成宮さんは関わっちゃいけないんだ。
猫のところに着いた。
僕と成宮さんはいつものように猫を撫でる。
あぁ、この時間は1番好きだなぁ。
そんなことを考えると自然と笑みがこぼれる。
「あんた、今日死ぬの?」
急に言われてビクッとした。
「死ぬわけないじゃん」
少し口角を上げて言う。
「あんた今日はなんか違う。わかんないけどそんな気がして」
成宮さんは悲しそうな声で言う。
「あんたって猫みたいじゃん?何するかわかんないというか見ててほっとけないみたいな、どこかに行ってしまいそうな」
成宮さんは僕を見ながら言う。
「大丈夫だよ。」
それだけ言って僕は立ち上がり歩き始める。
「蓮!また、明日ね」
僕は振り返らず家に帰る。
いよいよ実行だ。
計画はあいつが寝てからだ。
暴力も今日で終わりだな。
これが終わったら母さんに会いに探しに行こう。
結局迎えに来なかったな…
でも、母さんは今なんとかしようとしてくれてるのかもしれない。
だから、僕から会いに行って驚かせてあげよう!
そんなことを考えながら歩くと家に着いた。
まずは、目の前の計画からだ。
僕は家に帰りいつも押入れであいつが寝るのを待った。
計画実行が近づくにつれ、呼吸が荒くなり心臓の音が大きくなる。
手も震える。
そんな時僕は成宮さんを思い出した。
すると、自然と落ち着いた。
あいつの声は聞こえないし横になってから動かなくなった。
もう寝たのだろう。
僕は押入れに隠しておいた金槌を取り出し、静かに押入れの扉を開けた。
やはり動いていない。
ゆっくりと足音を立てないように歩く。
そして、目の前で膝立ちになり振り上げる。
すると急に動いた。
僕は焦って降りかざす。
「痛ぇぇぇぇ!」
殺せはしなかったが、金槌の釘抜きの方が肩に刺さった。
あいつは肩を抑え悶えながらも起き上がる。
「お前、なにしてんだよ!」
あいつは痛がりながらも僕に近づき、思いっきり僕の腹を蹴った。
何度も、何度も。
計画は失敗した。
そして僕はこのまま死ぬんだろうと思った。
すると、
ピンポーン。
こんな時間に誰が来たんだ、
あいつの蹴りは止まり、肩から出る血とその傷を押さえてた手をジャケットを着て隠し、ドアを開けた。
「誰だお前」
あいつの声が聞こえる。
そして聞き覚えのある声が聞こえた。
「蓮!」
成宮さんだ。
どうしているんだろう。
成宮さんは倒れてる僕を見つけると、あいつを無視して走って僕のとこに来た。
「大丈夫?」
そう言って僕を抱きしめてくれた。
その時懐かしい感じがした。
昔母さんが抱きしめてくれた時と同じだ。
なぜか僕は涙が出た。
だがそんな時間はすぐに終わった。
「無視してんじゃねーよ!」
あいつは成宮さんと僕を引き離し僕にもう一度蹴った。
成宮さんは泣いていた。
目の前が霞んできた。
「こいつお前の女か?まだ若いが結構かわいいじゃねーか」
あいつは成宮さんを押し倒し、両腕を押さえた。
僕は力が入らず起き上がれない。
そしてどんどん目の前が暗くなってきた。
「やめて!助けて!蓮!」
その声で目が覚めた。
「うわぁぁぁぁぁ!」
僕は立ち上がって最後の力を振り絞り、思いっきりあいつの頭に金槌で殴った。
そして我を忘れたかのように何度も何度も殴った。
気がつくともうあいつは動いてなかった。
成宮さんはあいつの下敷きになっていた。
僕は必死に引っ張り出す。
目を開けない。
呼吸を確認してみる。
大丈夫だ、呼吸はしてる。
たぶん、あいつになにかされそうになったのとあいつが殴られてるのを見て意識を失ったのだろう。
すると、成宮さんが咳き込んで目を開けた。
成宮さんは僕に抱きついてきた。
「怖かった…怖かったよ」
泣きながらそう言った。
頭を撫でながら強く抱きしめた。
「怖い思いをさせてごめんね」
成宮さんは頭を横に振り、
「あなたのせいじゃないわ」
僕は抱きしめるのをやめて、成宮さんはの目を見る。
「僕とはもう関わらない方がいい」
「なんで!」
「僕は人殺しだから」
そう言って僕は立ち上がる。
「嫌だよ…私は…」
何か成宮さんが言おうとした時、被せるようにサイレンの音が聞こえた。
成宮さんは言うのをやめた。
サイレンが近づく音だけが聞こえる。
近所の人が通報したのだろう。
そのまま沈黙が続き、
ピンポーン。
警察が来た。
「ここでさよならだ」
僕はそう言って玄関に向かう。
彼女はまた泣いていた。
好きだよ。
声には出さずに、心の中で僕は呟いた。
「私、待ってるから!」
僕は振り返り微笑んだ。
そして警察と一緒にパトカーに乗った。
警察署で聞いたのだが、彼女はその後警察官が送っていったそうだ。
「続いて速報です。
昨夜未明某都内のアパートで遺体が発見されその場にいた中学3年生(15)少年を現行犯逮捕しました。
少年は遺体である父、亘(35)さんから虐待をされその反抗で殺害したと供述されています。
通報したのは近所の方で助けてや痛いなどの声が聞こえたので通報したとのことです。以上今日のニュースでした。」
某裁判所、
「これより判決を言い渡す。
被告人龍崎蓮は懲役2年とする。
判決までに至る経緯を説明します…」
傍聴席にいた大半が一斉に外へ出ていった。
僕はあいつが今まで虐待していたことと食事をさせていなかったことを踏まえて正当防衛とされた。
でも一度殴った後何度も殴ったから無罪にはならないらしい。
また一人ぼっちになるな。
その後検察の人から伝言をもらった。
母さんからだ。
「辛かったね。」
涙が止まらなかった。
警察の人が探してきてくれたらしい。
母さんは今も元気で結婚して子供もいるらしい。
成宮さんもそろそろ高校生だ。
見てみたかったな。
僕の髪はどんどん白髪が増え、黒い髪が少ないくらいになった。
それから月日が経ち、2年後。
「出ろ。」
1人の刑務官と向かった先は眩しくてなにも見えなかった。
目が慣れ始めあたりを見ると桜が散る季節になっていた。
「もうするなよ。」
刑務官はそう言って戻っていった。
僕は深くお辞儀をして門を開けた。
すると綺麗な女の人が立っていた。
「よっ」
声を聞いた瞬間誰かわかった。
「どうして…」
「私を家まで送ってくれた人がこの前うちに来て教えてくれたのよ」
「でも…」
「待ってるって言ったでしょ。」
僕は崩れ落ち泣いた。
そして彼女は僕を優しく抱きしめた。
彼女は鼻声になりながら、
おかえり。
そう言って彼女も泣いた。
温かい。
僕はそのまま気持ちを伝えた。
彼女は頭を縦に振った。
僕は一人ぼっちじゃなかったんだ。
10年後、
「はーい!それじゃあ成宮くん、作文を発表してください」
少年は立ち上がり作文を読む。
「僕の家族、成宮歩夢
僕の家族は3人家族でお父さんとお母さんがいます。
僕のお父さんはとっても強くて優しいです。そして髪が白くてとってもかっこいいです。
お母さんも優しくてご飯が美味しいです。そんなお父さんとお母さんが大好きです。」
少年は振り向いてピースした。
ブーブー
携帯のバイブが鳴る
「ちょっと失礼します」
そう言って教室を出て電話に出る。
「先輩、事件です!すぐに戻ってきてください!」
「わかった。すぐ行く」
教室に戻り、
「ごめん、玲子急な仕事が入った」
小声でそう伝える。
「また〜?わかった、あとで歩夢のパンチが飛んできても知らないからね〜」
笑いながら玲子は言う。
「それだけは勘弁だな」
俺も笑いながら言う。
そして玲子は小声で、
がんばって
と言ったのを聴きながら俺は教室を出た。
過去にあったことは変わらないでも未来は自分で作れる。
だから俺はこの2人とそして今の子供たちに未来を作る。
俺と同じ道を行かせない。
守ってやる、1人じゃないから。