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2 私は悪役令嬢

 私はアリシア=ブロッサム。

 なにを隠そう、近い将来ヒロインをいじめ倒して悪役令嬢になる予定の人物である。

 前世を思い出して自分が悪役令嬢だということに気づき、普通ならここでそうならないように努力するところなんだろうけど、あえて私は悪役令嬢の道を突き進もうと考えた。


 アリシアはフローラ王国公爵家のご令嬢。

 公爵家でおまけに珍しい闇の魔力を持って生まれたために、家族からも周りからもちやほやされて我が儘で性格の悪いお嬢様に育った。

 ちなみに闇の魔力といっても忌避されているということはなく光魔法と同じく珍しくて強力な魔法だ。

 チートなヒロインに立ちふさがるボスキャラでもあるのでかなり強い。

 アリシアは性格が悪いことを除けば、家柄、成績、顔と三拍子揃ったなかなかの令嬢なんだけどね。

 まあそのせいでいきなり現れたヒロインに、プライドの高いアリシアはひどく対抗心を抱いて敵視するわけだけど。


 そんな私は現在12歳。

 来年は王立学園の入学、つまり乙女ゲーム本番開始を間近に控えていた。

 まさか今さらそのことを思い出すとは思わなかったけど、私がやることは変わらない。

 学園に入学すれば、きっとヒロインも入学してくるはず。

 ちょっとかわいそうだけど、私は気ままな辺境生活のためにヒロインをいじめなくてはならない。

 そうすれば攻略対象たちがヒロインを守るために、華麗に私を断罪してくれることだろう。


「というわけで、どうやって立派な悪役令嬢になるかなんだけど。なにかいい考えはあるセシル?」


「あまり私を巻き込まないで欲しいんですが。」


「いいじゃん。私のケーキあげたでしょ?」


 セシルが不満そうな顔をするので、私はにっこりと微笑んでケーキのことを主張する。

 ちゃっかり食べたんだから協力しないとは言わせない。


「そうおっしゃいましても、ヒロインをいじめるしかないのでは?」


「それはそうなんだけど、どうやっていじめればいいのかなって思って。」


「そういえばあまりゲームの内容が分からないんでしたね。」


 セシルが「そんぐらい覚えとけよ。」とでも言いたそうな目で見てくる。


「水をかけるとか?」


「風邪ひいちゃうじゃん。」


「ヒロインの持ち物を捨てる。」


「え、もったいない。」


「悪い噂を流す。」


「他人を巻き込むのはまずいよ。」


「・・・お嬢様、諦めましょう。人には向き不向きがございます。」


「そんな!私を見捨てないでよ!私とセシルの仲でしょう?」


 セシルのあんまりな言葉に私はセシルにすがりつく。

 まあ、ケーキ以下の仲だけども。


「・・・もう、ヒロインを罵るでいいんじゃないですか?」


「うーん、普通だけどそれが無難かな。」


 私もこれといっていい考えは思い付かないし、あまり過激なものだと辺境に飛ばされるどころか死刑になっちゃうかもしれないからほどほどにしておかないと。

 上手くできるか分からないけど悪口言うくらいなら私にもできるだろう。

 申し訳ない気はするけど、ヒロインたちにしても私が悪役として頑張らないことには物語が進まないからこれは仕方がないことなんだ。




 ************




 色々な悪口を考えこんで悪役令嬢になりきろうと張り切っている目の前のアリシアお嬢様を見て私は小さくため息をついた。


 お嬢様は突然「前世の記憶がー」とか言い始めて、ついに頭がおかしくなってしまったのかと思った。

 今でも思っているけど。


 お嬢様は貴族のご令嬢として元々変わったお方で、最初は完璧なメイドとして振る舞っていた私だが、お嬢様を見ていると自分がなんだか馬鹿らしくなって今のような関係に至る。

 それまで自分を偽り感情を押し殺して生きてきた私だけど、なぜだかお嬢様の前では自然な自分でいることができた。

 私のような性格は嫌われるらしくそれを隠してきたというのに、お嬢様はそんな私をすんなりと受け入れてくださった。


 そんなお嬢様だが、いきなり「私は悪役令嬢で前世の記憶がある!」と言われてもいくらお嬢様に慣れた私でも正直困る。

 いつもおかし・・・変わったお嬢様だけど今日はそれ以上だった。

 ただ、お嬢様が辺境に行きたいということは分かった。

 そのためにはヒロインの少女をいじめなければならないことも。

 たしかにお嬢様には貴族は向いていないだろうから辺境に行って自由に過ごしたいその気持ちも分からないわけではないが、正直不器用なお嬢様に誰かをいじめるという高度な芸当ができるのかは微妙だ。


 だいたいこういう時って殺されることがなかったとしても、自分が破滅しないように行動するのが普通ではないのか。

 どこに自分からバットエンドに突っ走る人がいるというのだ。

 目の前にいるけれども。


 私はもう一度今日何度目か分からないため息をついた。


 もしお嬢様が辺境に行くというのなら、仕方がないから私もついていくだろう。

 たとえケーキがもらえなかったとしてもだ。

 今さら他の誰かに仕えようとは思えない。

 私が私としていることのできる場所はおそらくお嬢様の側だけだろうから。

 本人には絶対に言わないけど。


 それにしても・・・


 私は未だにどんな悪口がいいのか考えているお嬢様を見て思った。



 人に悪口を言ったくらいで辺境に飛ばされるだろうか?と。

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