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1 前世を思い出す

 乙女ゲーム『フローラ王国物語』。

 ゲームにあまり興味のなかった私が前世で友達に勧められて始めたゲームだ。

 中世の剣と魔法の世界を舞台にしたこのゲームは、平民の主人公が貴族社会に突っ込んでいくというよくありがちな設定ながらもそこそこ人気でシリーズ化もされている。

 これ乙女ゲームかよ!っていうのが多々あるんだけど、それを含めて新しくて面白いんだとか。

 主人公は平民だけど、珍しい光の魔力を持っていたために貴族たちの通う王立学園に入学することになる。

 そこでイケメンの攻略対象たちとの出会いを果たすのだ。


「というのをさっき思い出したのよ。」


「はあ。それはまた難儀なことですね。」


 目の前のメイドはいきなり前世がどうのこうのという話をされても全く表情を変えることなくそう答えた。


「それで、この世界がそのゲームの世界だということですか?」


「まあ、色々調べて冷静に分析した結果そういうことになるわね。」


「では、お嬢様のおっしゃっていることが事実だと仮定した場合、お嬢様はゲームのどのポジションになるのでしょう?なんとなく予想はできますが。」


「おお、さすがセシルね。もちろん主人公の恋路を邪魔する悪役令嬢よ。」


 私は国でも大きな力を持つ公爵家の令嬢「アリシア=ブロッサム」。

 なにを隠そう正真正銘の悪役令嬢である。

 平民でありながら貴族の通う魔法学園に入学した同じ年の主人公が気にくわず、あの手この手で主人公をいじめるのだ。


「そして痛いしっぺ返しを受けるんですね。分かります。」


「まあね。だいたいが家から勘当されて辺境に飛ばされるんだよね。」


 死亡ルートがないことがせめてもの救いだ。

 ありがとう、制作会社さん!


「ということは、お嬢様の相談というのはその結末を迎えないためにどうするかということでしょうか?」


「いや、ここは大人しくゲームのストーリーに逆らわずに立派な悪役令嬢を目指そうと思っているの。」


「は?」


 私の言葉はさすがに予想外だったのか冷静なセシルも目を点にする。


「だって辺境に行けるんだよ?この公爵家令嬢という立場からも解放されて。もう好きなことし放題じゃない。私は辺境で自由を手に入れるのよ!」


 拳を握りしめてそう決意する私にセシルは眉間に手をあててため息をついた。


「お嬢様。私の勘違いでなければ、お嬢様は今でも十分に自由でいらっしゃると思います。」


「そんなことないって。公爵令嬢だからああしなさい、こうしなさいって言われるのいつもうんざりしているんだから。」


「言われたとしても聞いたためしがないのであまり変わらないと思いますが。」


「・・・。」


 そ、そんなことないよ?

 だってテーブルマナーとか完璧だし?

 勉強も魔法もそこそこできるよ?


「と、とにかく!私は自由を手に入れるため、完璧な悪役令嬢をやりきってみせるのよ!セシルも協力してね!」


「・・・。」


 セシルはあさっての方向を向いてこちらに視線を向けようとしない。

 が、こうなることは私も想定済み。


「あ、ここに今話題の高級ケーキが」


「もちろん喜んでお手伝いさせていただきます。」


 セシルは真面目な顔でがしっと私の手を掴んだ。

 ちらちらとケーキを見ながらだけど。


「え、ええ。よろしくね。」


 甘いもの好きのセシルをケーキで釣ろうと考えたのはいいけど、こうも態度が変わるとちょっと複雑な気持ちになる。


「所詮、長い付き合いといっても主人とメイドの関係はこんなものよね。」


「なにをおっしゃっいますお嬢様。お嬢様は私にとって大切な主でいらっしゃいます。」


「じゃあ、私とケーキはどっちが大切?」


「ケーキですね。」


「即答かい!せめてもうちょっと考えるくらいしてくれてもいいと思いますけど!」


 まあ、それでもケーキに負けてますけどね私!

 そんなにキリッとした顔で答えられても無駄に傷つくだけですから!


「そんなことより今は先に考えるべきことがあるのよ!」


 ケーキに負けた敗北を乗り越え私はショックから復活する。

 今は見逃してあげるけど後で覚えておきなさいよセシル!


「先に考えることですか?」


「そうなの。割りと大きな問題なのよね。」


 実は私ってあんまりゲーム進めてないんだよね。

 分かるのは登場人物とだいたいの物語の流れ。

 それからゲームを勧めてくれた友達が暴露した内容くらい。


 ということをセシルに伝えるとあからさまに呆れたような顔をされた。


「それはなんと申し上げればいいか。役立たずというか。」


「そんなはっきり言わないでよ!私も少しそう思ってたんだから!」


 こんなことならもっとゲームをやりこむべきだった!

 もしくは友達の話をもっと真剣に聞いとけば良かったのに。

 ああ、ごめんよはるちゃん。

『あのゲームをしないなんて人生の大半を損することになる!』っていうあなたの言い分は正しかった!

 はっ!まさかはるちゃんは私が悪役令嬢に転生することを見越して・・・!

 あ、あり得る!

 だってはるちゃんこのゲームのことばっかり鼻息荒く散々話しまくって、私にうざいくらい勧めてきたもの。

 私はありがとうの気持ちを込めて、とりあえず空に向かって拝んでおく。


 ・・・あれ?

 もしかして空に向かって拝まれないといけないのは私の方なんじゃない?

 この状況からいって私一度死んでいるんだろうし。

 そういえばなんで死んだか思い出せないな。

 高校生だったとは思うんだけど。

 ・・・ま、いっか。

 死んだところを覚えていたら絶対トラウマになるだろうし覚えていない方がいいよね。

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