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悪の問題〜あるいはYの悲劇’18〜  作者: 若庭葉
第三章:亡霊
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you may crawl ②

 その後、山風を抜かした全員で、夕食後から死体発見までの間、各々どこで何をしていたのかを話し合った。その結果、特に怪しい動きをしていた者はいなかった──と、同時に、満足なアリバイのある人間も、誰もいないことが判明した。

 また、それはスイカ割りを終えてから夕食前も同様である。最も長く他の者と行動を共にしていたのは、十七時から夕食の支度を始めた僕と緋村、そして弥生さんの三人であり、一応後片付けを終えた二十時前までのアリバイは保証されることとなった。

 無論、その後であれば、僕たちにも十分犯行は可能なのだが。

 そう言ったわけで、現時点では誰もが犯人足り得ることを確認しただけで、食堂での集まりはお開きとなった。


「──ナルホド。確かに、一輪減ってるな」

 背の高い白薔薇にスマートフォンのライトを向けた緋村が、無感動に呟いた。照らし上げられた大輪の花は、まるで人の生首が生っているようで不気味だが、今重要なのはその(こうべ)を刈られた方の茎だ。

 最近()られたらしい物が、二本ある。一つは昨日の晩飯前に順一さんが踏み付けていた「病める薔薇」だとして、もう一方は誰が刈り取ったのだろうか……。

「誰がやったのかはわからない──が、これで一つ、後回しにしていた謎が解けたな」ライトを足元に向けつつ、彼は続ける。「ほら、あの空き部屋の窓から、雨が吹き込んだ跡があった件さ。あれはきっと、『雨が降っている間に何者かがあそこの窓を開け、近くに咲いていたフラウ・カール・ドルシュキーを刈り取った』ってことを示していたんだ。わざわざ嵐の中外に出なくても、あの窓からであれば、軽く手を伸ばすだけで花を刈れる」

「となると……畔上の死体の(そば)にも薔薇が遺されていたわけだから──つまり、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……?」

「かもな」そっけない返事を寄越した彼は、もうここに見る物はないのか、踵を返した。

 そのまま、僕たちは現場検証へと向かう──前に、あることを確かめる為、喫煙所に立ち寄る。お目当は、昼間話題にもなったセンサー式の外灯だった。

 ──みなが食堂を出て行く中、一人椅子にもたれたまま残っていた緋村に、僕は二つのことを伝えた。一つは薔薇の数がいつの間にか輪減っていたこと、そしてもう一つは、()()()()()()()()()()()()ことだ。

 迂闊にも、山風が食堂を出て行った後でようやく気が付いたのだが、喫煙所で木原さんや須和子さんと話している間、すぐ(そば)の外灯は何故か光を発していなかったのである。少なくとも、昨夜まではセンサーは正常に機能していたはずなのだが、これはいったいどうしてなのか。

 ──問題の外灯のすぐ眼前まで来たが、やはりそれは僕たちを黙殺する。

 周囲を探してみると案の定、引き抜かれたまま放置されている差し込みプラグを発見した。

「勝手にコンセントから抜けるとは思えないし、誰かが故意に引き抜いたんだろうけど──その人物は、なんでこんなことをしたんだ?」

「さあな。ただ、ここの灯りが点かないようにしたってことは、要するに『ここで誰にも知られずに何かをする必要があった』ってことだろ。センサー式のライトが光っていたら、誰かが近くにいる、あるいは直前までいたことがバレバレだからな」

「そうか……。まあ、普通に考えてそうだよな」

 呟く僕を尻目に、緋村はライトで辺りを照らし、コンセントを探していた。

 僕もそれを手伝いつつ、再び思い付いたことを口にする。

「さっきの薔薇の件もそうだけど、やっぱり、畔上殺害は計画的な犯行だったのかな。──それにしては、そこまで強い殺意を抱かれるようなタイプには見えなかったけど」

「まあ、人間どこで恨みを買っているかなんてわからねえからな。大人しい奴だからって、全くの善人とは限らねえし。──少なくとも、昨夜の時点で、誰かが彼に殺意を抱いていたのは間違いないだろう」

「そして、その誰かは僕たちの中にいる、と。──となると、怪しいのは《GIGS》のメンバーか。昨日初め会った石毛さんたちに、動機があるとは思えないし」

「そりゃあ、普通に考えたらそうだが、もしかしたら俺たちの知らない繋がりってのがあるのかも知れねえぞ? あるいは、昨日のうちに『殺さなきゃならねえ理由』ができた、とかな」

「つまり、結局現時点ではわからないことだらけだと?」

「ああ。今のままじゃ無限後退から抜け出せねえな」

 またそれか。と言うか、さすがにその一言で片付けるのはどうかと思うが……。

 僕が呆れていると、彼はようやくコンセントを探し当てたらしく、「おっ、これか」と声を上げつつ、屈んでプラグを差し込んだ。

 正解──と言うかのように、丸い灯りが点る。

 腰を上げた緋村は、光の作る影の中からこちらを振り向き、

「ところで、お前はどうなんだ? 人に訊いてばっかじゃなくて、何か考えはねえのかよ?」

「それは、まあ──あるにはあるけど……」

「へえ、気になるな。是非ご教授願おうか」

 死んだ目をした学生は、意地悪そうな笑みを浮かべた。息をするように皮肉な言い回しが出て来る辺り、さすがにいい性格をしている。

 ともあれ、そんな風に言われては自分の考えを話すしかなさそうだ。

 今度こそ現場に向かって歩き出しつつ、僕は口を開いた。

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