今夜、貴方とマトンシチューを②
確かな手ごたえを両手に感じた瞬間、オオッと歓声が上がった。タオルを取ってみると、見事にスイカが割れている。分厚い皮の中から鮮やかな赤い果肉を覗かせている様は、なんだかかち割られた人の頭のようで、少し不気味だ。
幽霊部員であり仮にもアルバイト中の身である僕が、トドメを刺してしまって本当によかったのだろうか──と、少しだけ不安になる。
すると、ちょうどそこで土砂崩れの様子を見に行っていた二人が、咥え煙草のまま戻って来た。
「どうだった?」と尋ねると、緋村は眉皺を深く刻み、首を振った。
「ダメだな。今朝のままだったよ。たぶん、まだ下界に認知されてねえんだろう」
投げやりな口調で紫煙を吐き出す。ちなみに、一緒に帰って来た佐古さんは報告などそっちのけでスイカを所望していた。
「もしかしたら、もう一晩くらいはここで過ごすことになるかもな」
やはり、場所が場所だけに、そう簡単には土砂崩れに気付かれないのだろう。あるいは、普段から人が来ることの少ない山頂付近と言うこともあり、後回しにされているのか。
いずれにせよ、これは本格的に籠城を覚悟すべきかも知れない。
「最悪、山道を強行突破するしかねえな。無論危険だろうから、マジで最後の手段だが」
彼は手にしていた携帯灰皿へと灰を落とす。その視線は、練習室のある建物のすぐ裏側──鬱蒼とした雑木林へと向けられていた。
一方、切りわけられたスイカを手にした佐古さんは、抑揚の乏し声で、
「塩は?」
「持って来てないです。──佐古さん塩付ける派っすか?」
「別に、特にこだわりはない。けど、今はそう言う気分なんや」
これを聞いた後輩は、また子どもみたいなことを、と言いたげに、唇をへの字に曲げる。
「じゃあ、借りて来ましょうか?」
空気を読んで名乗り出ると、「ええんか?」と、湯本の方が申し訳なさそうにする。
「ああ。一応まだ、アルバイト中だから。──たぶん」
「なら、悪いけど頼むわ」
そんな声に送り出された僕は、棒とタオルを湯本に手渡し、踵を返した。
玄関に入る直前、僕はふと花壇の方に視線を投じる。
向日葵と白薔薇は、幾らかダメージは見受けられるものの、昨日見た時とあまり変わらない状態だった。完全に花が散ってしまっておらず、人知れず安堵した──が、それも束の間。ある異変に気付き、僕は思わず足を止めた。
──白薔薇の数が、一輪少ないのである。
昨日順一さんか始末していた物を抜かして、本来は四輪なければならないはずなのだが、白薔薇は三輪しか咲いていない。
いったい、何故? どこにも落ちていないようだから、誰かが手折って持ち去ったとしか考えられないのだが……。
報告すべきか否か迷った──が、結局その時は誰にも何も言わずに、僕は再び母屋へと歩き出した。
この白薔薇の消失が、事件の真相と密接に関係していることなど、この時は知る由もなかったのだ。




