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悪の問題〜あるいはYの悲劇’18〜  作者: 若庭葉
序章:三つの光景
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SAPPUKEI

 そこは、四畳半ほどの広さしかない狭い和室だった。薄暗い照明の下、部屋の真ん中には、安っぽい生地の布団が一組だけ敷かれている。他にあるのは小さなテーブルと荷物入れらしき籠のみ。

 独特の甘ったるい芳香がムンムンと満ちたここは、ある特殊な()()を行う為だけの空間──謂わゆる「ちょんの間」と呼ばれるシロモノだった。

「お時間どう致します? うちは、十五分一万一千円からなんですけどぉ」

 扇情的な衣装を纏った若い女は、微笑みを浮かべたまま小首を傾げる。

 対して、季節外れの黒いジャケットを着込んだその客は、黙したまま布団の手前に佇立していた。嵐の前の静けさを思わせるような、不気味な「無音」だ。

 返事がないことを訝ったのか、女の顔付きがわずかに強張る。

 ──が、やがて、客は何も言わずに上着に手を入れ、二枚の紙幣を取り出した。

「十五分ですね、ありがとうございます。──では、飲み物をお持ちしますから、寛いで待っとってくださいね」

 料金を受け取った彼女は、気を取り直すように言って、そそくさと部屋から出て行こうとした。

 襖を開け、狭い廊下に出る──その間際。

 ()()()()()が、獰猛な毒蜂のように飛来し、()()()()()()()()()()()()()()

「──えっ?」

 小さく喫驚の声を漏らした彼女は、自らの首筋に食い付いたそれに目を向けた。と、その時にはすでに、その人物の親指が押子(プランジャ)を押しており、管の中の透明な液体が見る間に、女の皮膚(はだ)の内側へと注ぎ込まれていた。

 そして、針が抜けるとほぼ同時に、彼女は倒れ込む。殺人犯の腕がその体を支え、部屋の中に引き入れた。

 直後──パタリと、戸が閉まる。


 二〇一八年八月一日、日本有数の花街の一角──とある妓楼(ぎろう)の一室で、一人の女性が殺害された。

 しかも、これは単なる殺しではなく──

 現実に起きた()()()()だと言うことを、僕たちはすぐに知ることとなる。

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