正義
王座の間への扉が目の前にある。王のいる建物の割にはすごく質素で安物そうであった。我が国に馬増の兵器が送り込まれてここまで、長かったものである。手の震えに気づかぬふりをして扉を開いた。
「待っていたぞ、勇者よ」
年老いた男だった。何故だろうか、魔力を感じない。
「貴殿が魔王であろうか」
その問いかけに男は答える。
「お前たちの中では、そう呼ばれるだろう」
なんとも歯切れの悪い答えであった。魔王であれば莫大な魔力を所持しているだろう。しかし、男からは1ミリも感じ取れないのである。しかし、いつ攻撃をされてもいいように腰の剣から手を離さないでおくことにした。
それに気づいたのだろうか。男は笑って話し始めた。
「戦ったところで私に勝ち目などないのだ。そう震えずに、話を聞くだけでよい」
不気味である。魔力がなければ剣などの武力で戦えばいいこと。しかし男はそれを選ばなかった。警戒を解くことなく話を聞く。
「わかるだろう。我々には魔法など使えぬがお前たちは使える。何故であろうか。勇者はどう思う」
男が問いかける。
「才能ではないのか。魔力は生まれながらに得るものであるだろう」
その答えに対し、男は鼻で笑った。そして続ける。
「答えはお前たちは我々の作り出したロボット、新人類だからである」
衝撃的な言葉であった。ならば目の前にいる魔王を名乗る男を含め魔族は旧人類だというのか。人間であると主張することと同義である。
「人は魔法を使えない。だがずっと憧れてきたのである。その果てに作り出したのが魔法の使えるロボット、新人類だ」
何も言い出せなかった。これが本当だとしたら。
「鉄の塊であったお前たちがなぜ血を流すのか。独自に自らを改造していったのだ。そして今、邪魔になった我々をせん滅しようとしている。逃げた先がこのオンボロアパートだ」
「だから対抗する兵器を作ったのか」
静かにうなずき口を開く。
耳にこびりついて離れない言葉。
「正義とは、正しいとは――」
――何であろうか。