表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
青春と都市伝説  作者: 池田 ヒロ
◇冬の事変
88/89

最終話 青春と都市伝説 ⑥

 いきなり空はどうしたんだ、とカンナは先ほどよりも目を大きくして二人を見ていた。あんなに嬉しそうな表情は見たことはあるが――憎いと思っている相手に対してするほど彼は甘くないはずだ。というよりも、関わりを持ちたいとは思わず、遠ざかろうとするだろう。


「…………」


 この衝撃的事実にカンナだけではなく、白衣の男も驚愕している――いや、どことなく嬉しそうな顔を見せているぞ。


「き、期末テスト……?」


「うん、オレって数学は得意なんだよね。代わりに現国とかがニガテかな。父さんは得意?」


「あー、あー……まあ、それなりには……」


 戸惑っている、戸惑っている。おそらくではあるが、これは空の作戦か。なんとなく、状況を察したカンナは黙っておくことにした。しばらくは様子を見ていようか。


「でさ、父さん。オレ、期末テストをガンバったから、新しいゲーム機を買って欲しいな。ウチのガッコーってバイトが厳しーからさ」


「ゲーム機?」


 なんと、以前に壊されたゲーム機の弁償をさりげなく要求してきたぞ。というよりも、空は嘘をついていた。紅花高校はアルバイト禁止ではないからである。普通に申請をすれば、できるのだ。しかし、彼の場合は都市伝説の件に加えて、生活指導部にあのネチネチうるさい英語教師である土生がいるから無理があるだろう。


「そうそう。帰ったら、母さんがケーキ作って待っているよ。それに、カンナも来るんだよ。なっ、カンナ」


「あ、うん」


 突然の振りに、カンナは困惑している姿を見せまいとして、話を合わせた。しかしながら、空は一体どんな作戦でここから出してもらおうと思っているのか。今更息子面しても、この男は出してくれるというのはあまりないだろう。


「あっ、カンナがここにいるなら今の内に渡しておこうかな」


 そういう空は持っていたバッグの中からオレンジ色でラッピングされたプレゼントを取り出した。ビンゴゲーム及び、格闘ゲームで勝ち取った物である。それをカンナは知っていた。


「ふへっ?」


「これさ、ホントはカンナにあげるために買ったんだ」


 今、この状況でプレゼントを渡してくるのか!? 更に戸惑いは大きくなっていく。というか、ここに白衣の男がいるのに、それが恥ずかしくてカンナは顔を真っ赤にしていた。思ったよりも気恥ずかしいと思っているのだろう。


 それ以前に、両手両足縛られて、自分は鉄格子の中である。


 空が言おうとしているこの後の言葉をなんとなく察する。彼がカンナに言いたいこと。ずっと前から知っていた思い。知っていたからこそ、黙っていた。気がつけば、空と同じ気持ちになったが、それでも待った。度胸はあったとしても、肝心の勇気がなかった。それ故である。


「オレ、カンナに言いたいコトがあるんだ」


 その言葉にカンナの耳までもが真っ赤に染まる。だが、空は恥ずかしがることもなく、彼女が好きな笑顔を見せていた。そこにまだまだ混乱が収まらない自身の父親がいるというのに。彼ならば、誰かに対する好意を覚られたくないと思っているはずなのに。


 なんだか、逆になって――。


――逆?


 ここでカンナは空の思考を理解した。


――そういうコト?




「オレさ、カンナのコトが好きだ。ずっと、ずっと前から……」




 気丈を振る舞っていたはずなのに、これが当たり前だと錯覚させていたというのに。真逆のことをしてみた結果、カンナに告白したところで空の羞恥心はキャパシティを超えた。彼もまた、顔を真っ赤にさせたのである。シュール的で全くの青春さはないが、その場に甘酸っぱい雰囲気が漂った。


「あっ……えっと……」


 この作戦、失敗したなと空は茹でダコのようにして赤い顔を途端に青くした。いくら、真逆のことをしたとしても、カンナに告白をするべきではなかったのだ。勢いあまり過ぎた。それよりも、ここから軌道修正なんてできそうになかった。これはもうどうにもならない。きっと、男だってばかにするに決まっている。くだらない、と一蹴してきそうだ。それで終われば、こちらの人生とやらも終わり。あの恐ろしい姿で一生を過ごさなければならないだろう。


 どうすることもできない。それならば、当たって砕けろ。最後に自分の思いの丈をぶつけよう。


「だから……ここから出れたら、付き合ってください」


「……うん、わたしも空のコトが好き。一緒に……いたいな」


 空の諦めにカンナも気付いたのだろう。甘酸っぱい雰囲気から哀愁が漂っていた。悲しそうな表情を浮かべながら、自分なりの答えを出す。


 それに、拘束をされているから、ようやく好きだという確信を持てた相手の近くにいることができないのが寂しい。


「悲しいなぁ……」


 思わず、目から涙がこぼれる。やっと空の本音を聞けたというのに。これから会えなくなると――。


「泣くなよ」


 悲しいのはこちらも同じである。思いを伝えることができたのに。向こうも自分のことが好きだと言ってくれたのに。もうカンナとは会うことがない。いや、会おうとはしないだろう。これから空はあの顔のない人物と同列になるのだ。誰もが望む世界の犠牲者となるのだ。


「オレ、カンナの気持ちが聞けただけでもすげー嬉しかったから」


 最後くらいは笑顔で別れよう。そう思って、決心がついた空は白衣の男の方に「ゆーコトを聞くから」と顔を向ける。


「父さんのゆーコトを聞くから、カンナを――」


 だが、そこにいたのは冷徹そうなあの男ではなかった。目から、鼻から汁を垂れ流して感動しているどことなくあやしげなおじさんである。これに空は肩を強張らせた。なぜにこちらも泣く?



「うぅ……。オマエたち、オレは決めたぞっ! 今研究しているのをすべて放棄する!!」



 そう宣言する男は泣き方が汚い。


「はあ?」


「オマエたちのその心にくる告白……。オレだって、そんなもの見せつけられたら、二人を離れ離れさせることができるかよっ! ようやく、息子がオレに心を開いてくれたってのに!!」


「えっと?」


 今度は空たちが困惑する番である。男の泣き姿を呆然と見ていると、鉄格子から空を解放した。それに伴って、カンナを拘束していた縄を解いてあげる。


 そして、二人は男の隙をついてその場を後にしたのだった。


     ◆


 空たちが屋外へと出ると、そこには大地たちと共にパトカーの姿を見せていた。次郎が通報したのだろう。


「よー」


 二人が無事でよかった、と大地と洋子が近寄ってきた。その一方後ろには呉羽もいる。ほんの少しだけ、彼の姿を見て身構えるが――「何もしないよ」と彼は言う。


「てか、もー何もする気起きない」


「そうスか」


「だから、謝って許されるコトじゃないかもしれないケド、すまなかった」


 そうやって頭を下げている呉羽の姿は本当に反省をしているようだった。これに二人が少しばかりびっくりしていると、警察に連行されている男の姿が見えた。まだ白衣の男は感動している様子。


「うぅっ、空ぁ……。父さんはこれから罪を償ってくるからな」


 きっと、戻ってきたならば、親子としての時間は取り戻せるよなと空に対して鼻声でそう言っていたのだが――。


「取り戻したければ、ゲーム機をベンショーして」


 まだゲーム機の恨みは大きいらしい。先ほど見せていた息子のような表情は一切見られなかった。というか、誰が見せるか。別に反抗的でも何でもないのだが、男はそれを照れ隠しとして勘違いしているのか――。


「手紙、書くからなぁ!」


 そう言って、パトカーに乗せられてしまった。その走り去るパトカーを見て、大地は「オマエ」と表情を引きつらせる。


「あのおじさんに何言ったんだよ」


「……別に?」


 内容を知られてしまうくらいならば、空は何も言う気になれなかった。だがしかし、これで事件は終わったのだ。これに安心したのか、大きなため息が出てきた。さて、さっさと家にでも帰ろう。ある意味で疲れたな、と彼が帰路に着こうとしたとき――「空」そう、カンナが呼びかける。


 カンナの手には袋から取り出されたバースデー・ベアが。


「一緒帰ろ」


「うん」


 そう言うカンナは左手を握ってきた。夏祭りのときとは違う、さりげなくではない。きちんと、自身の手を見て、相手を見て手を握ってきているのだ。これに空はあのとき同様に「好きだよ」と言う。小さな、掻き消えるような声ではない。ハッキリと、隣にいる彼女にも十分に伝わる大きさだ。


 その言葉を聞いて、カンナは「わたしも」と嬉しそうに――。


 空の頬に優しくキスをするのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ