多分俺は不幸です
小学生の時、国語のテストで『攻めの対義語は?』という問題があったので俺は自信を持って『受け』と書いたら間違ってた。
おかしい。ねーちゃんに教えてもらったのに!
俺はねーちゃんに抗議した。
「ねーちゃん!攻めの反対は守り!!」
「何言ってんの、攻めの反対は受けよ!」
「だって!テストで!先生違うって言ったもん!」
「馬鹿じゃないの、それ先生が間違ってんのよ!」
俺はねーちゃんに激しく抵抗した。
先生が間違うはずないって。
そしたらねーちゃんに殴られた、思いっきり。痛かったからびえびえ泣いたらかーちゃんからもうるさいと殴られた。
ひどい。理不尽だと思った。
中学生の頃、友人達に彼女が出来始めた。羨ましかった。
「いいなー、彼女~~…」
「何、おまえも欲しいの?恋人」
クラスメイトで仲も良い九条というやつがいた、顔もいいし身長もそこそこあったしもててたはずなのに、彼女いない仲間だった。
「欲しいよ~~…って!九条!!あれあれ!みてみて!チューしよる!!」
俺は田舎生まれの田舎育ちだから、中学生が、校舎の裏で、熱烈キスなんてしてようもんなら、興奮したし恥ずかしかったし、だけど見たいしで、そりゃもう狼狽えまくった。
「何だよ。あんなキスくらいで……」
「だって!九条!キスだぞ!いいな、どんな感じなんだろー……」
「キスねぇ、興味あるんだ?」
「あるよ、あるある!めっちゃあ…………」
問いかけられて、素直に頷く俺の顎を掬い取ると、九条は自然な仕草で俺に顔を寄せてきた。
あれ?って思った。
これって、これは…キス?
チュッと軽くリップ音がした。
唇を合わせるだけのキスだったけど、俺にとってはファーストキスで、思い出したくもない、今までにあった悲しい出来事のNo. 1になった。
高校生になった現在。俺にも初めて彼女が出来た。なのに1週間もしないうちに振られてしまった。
「私本当に好きな人が出来たの。だから別れて?さようなら」
なんじゃそら!って心から思った。
まぁ、隠れて二股かけられるよりはマシか。
俺は滲んでくる涙を目を固く閉じてやり過ごして、夕焼けに染まるオレンジの空を見上げた。
上を向いて歩こう、涙がこぼれない様に。
ああ、いい歌があったもんだ。
「おい!」
歌詞の通りに上を向いたまま歩いてたら、背後から声をかけられた。
え?って思った時にはなぜか視界が反転していて。
「足元に気をつけろって、言いたかったんだが、遅かったみたいだな」
やれやれと声をかけてきた人物が近づいてきて倒れて呆然としたままの俺を覗きこんでくる。逆光で顔は良く見えなかった。
「怪我はないか?どっか痛いところとか」
「えーと…っあ…どうやら足を挫いたみたいで起き上がれません」
「……そうか。じゃあ仕方ないな」
どっこいしょ、と顔に全く似合わない掛け声と共に俺のヒョロこい体が浮き上がった。
「ぅひょあ!?」
「暴れるなよ、落とすかもしれん」
俺を抱き上げたのは、学校でも有名なイケメン池野先輩だった。
ヤバイ、こんなところ女子達に見られたら俺の明日はない。
「おおおおろおろおろしてー!!」
俺まだ死にたくないよぅ!!助けてとーちゃんかーちゃんねーちゃ…あ、ねーちゃんは今の俺を見たらめっちゃくちゃいい笑顔でサムズアップしそうだから除外しよう。
「なあ、このまま保健室行くのとおまえの家に帰るのと、どっちがいい?」
池野先輩はお姫様だっこされて現在硬直中の俺に「選ばせてやるよ」と言った。
今は放課後とはいえ、生徒はまだ結構な人数が残ってる。
かと言って、このまま抱きかかえられて俺ん家に帰るのは生徒どころかご近所さんにまで恥を晒す事になる。
どっちがいいかなんて!答えはひとつしかないだろ!
「もちろん保健室で!」
「…わかった」
……どうでも良い事だが(いや、やっぱり良く無いが)俺の一番の不幸はこのどうしようもないスッカスカの頭だと思う。
起き上がることが出来たんだから、お姫様だっこでは無く肩を貸してもらって、家に帰りゃー良かったんだ。
そうすればこんな、こんな事には、ならなかったのに…っっっ!!!
「も、もう、お婿に行けない…っっっ」
「心配すんな、俺が貰ってやるよ」
イケメン池野先輩は、保健室のベッドの上でぐったりする俺を微笑みを浮かべて眺めながら、ゆっくり頭を撫でてくれた。
俺は不幸だ。本当に不幸だ。
童貞捨てるより先に処女を無くしてしまったのだから。
だけど、ちょっとだけ。
嬉しそうに幸せそうに笑ってる先輩見てたら、そこまで不幸でも無いのかな…何て思っちゃう俺がいた。
思いつきで出来上がったものなのでグダグダです。暇つぶしにでもなれば幸いです。