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共犯者  作者: 灰歌
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04.会議

大騒ぎになった女子官舎から離れ、何故か血濡れの手を引かれたまま、暗闇を走った。

あの断末魔と、銃声も派手にした。あの死体や血は誤魔化せない。朝には事が公になっているだろう。


ぼんやりそんな事を考え、気づけば物置小屋に辿り着いていた。

ぱっと手を離し、そいつは慣れた手つきで小屋の窓を揺らし、鍵をあけた。

「ほら、お前もこい」

言われるがまま窓から侵入し、マットレスの上に座り込んだ。

途端、体に重りが伸し掛る。

緊張感が消えるどころか、重力を持って体を圧迫しているように感じた。


「おい、上脱げ」


「・・・・」


「おい」


相手の声が遠くに聞こえる。先程見た光景が、現実が、目の前に浮かび上がる。

目を剥いた死体。赤黒く廊下を塗りつぶした血。左肩をかすめた痛みと熱。

訓練していたとはいえ、想定していなかった突然の出来事を、上手く処理できていなかった。


「聞いてんのか!」


左肩を思い切り叩かれ、一気に現実に引き戻された。

「いっっっ・・・!!」

「おー声我慢できたじゃん。偉いじゃん」

「おまえ、ほんといつか・・・・・・・」

「はは。殺すって言えないよな。本当に殺された人間見たあとじゃ」


皮肉を言いながらも、その目は笑っていなかった。


何も言えない俺を無視して、そいつは倉庫内の医療箱を取り出し、治療の準備を進めていく。

テキパキとした動きで、慣れている。よく見れば、血まみれだった手も、綺麗になっていた。

「おまえも手拭けよ。あと包帯巻くから上脱げって」

「・・・俺、ホモじゃねーし」

「は?」

ぴたりと動きが止まった。冗談に、せいぜい反論が返ってくるかと思いきや、理解できないというふうに、不愉快そうな顔をされる。


そこまで嫌な顔をされるとは思わず、気まずい空気が流れた。

「いや、気に触ったんなら謝るけど・・・」

「いや・・・あー・・・うん、まあいいや。なんか色々納得した」

「何が?」

「何でもねーよ。オラッ!」

「うわ!オラッじゃねーよ、脱がそうとすんな!!」

捲りあげられかけたシャツを押さえつけ、壁まで後退する。

「じゃー、さっさと脱げよ。こっちも野郎をひん剥く趣味ねーよ」


うんざりという顔に腹が立ったが、反論するのも面倒で、すごすごと服を脱いだ。


脱いだシャツを見ると、べっとりと血が付着していて、若干青ざめる。

体が重いとは感じていたが、俺貧血だったんだな・・・としみじみ思った。


ふと気がつくと、そいつはまじまじと俺を見ていた。


初めて見るものを観察しているという様な、明らかな視線にさっと体を手で隠す。


「めちゃくちゃ見るなおまえ・・・」

「・・・あっ、いや!違う!血の量にビックリしてたんだよ!」


慌てて否定するが、明らかに挙動不審で何故か赤面している様子に、益々不審感が募る。


「なんで顔赤くしてんだよ。はっ、おまえまさかそのつもりで俺を・・・!?この薄暗い物置小屋に・・・!?」

「んなわけねーだろっ!いいからさっさと包帯巻け!!」

「いだだだだ血ぃ止まる血流止まる悪化する!」


半ば無理やりな形で治療され、互いに付着していた血をすべて拭き取り、改めて向き直った。

月明かりが射し、鳥の声もない。あの騒ぎが嘘のように、夜は静まり返っていた。


「で、改めて聞くけど・・・おまえ何してたんだ?」


聞かれても逃げないところを見ると、どうやら話をするつもりではあるようだ。

マットにあぐらをかいて、そいつは淡々と話した。

「上官殺しを追ってた。ほんで犯人とっ捕まえて恩を売ろうとした。終わり」

「それ、何処で知った?」


「おまえもだろ、“”くらげ“”くん」


仲間内で呼ばれているあだ名を言われ、顔が強ばる。

そいつの目は真っ直ぐにこちらを見ている。警告をするように、刺すような視線を向けていた。


今朝のほっきょくの話を思い出す。顔の広いアイツが、どこにもこいつはいない、見たことがないと言っていた。その後俺も独自で聞いて回ったが、誰一人、藍色の髪の訓練兵など知らないと言っていた。

だがこいつは、目の前に居る。そして何故か俺を知っている。


不気味な存在に、生ぬるい様な気持ち悪さを覚えた。


「おまえ、何班所属だ」

「おまえばっか質問すんなよ。今度は答えろ。この件、何処で知った?」

「・・・ララ軍曹に、教えてもらった」

「えっ!?ララ軍曹!?おまえあの人の部下なの?!」


急に距離を詰められ、思わずたじろく。やはり有名人だな、あの魔王軍曹・・・と脳内で悪口を言いながら、答える。


「いや、部下っていうか・・・色々あって無理やり手伝わされてんだよ」

「あ〜なるほど。扱き使われてんのか」

「うるせえ」

その通りだよクソがとは言わず。とりあえず自分の知ってる情報を話した。


代わりにそいつも、深夜に官舎内を彷徨いていたところ、お偉いさんが警備を厳重にしてくれと、さらに上のお偉いさんに懇願しているところを目撃し、事件を知ったという事だった。その後から独自に抜け出しては事件を追っていたという。


「なるほどな〜・・・色々言いたいんだが、とりあえずひとつ聞いていいか」

「何?」


「なんで、りんご、食ってたんだ?」


普通に聞くはずが、自分でも知らないほど低い声が出た。

あかさらまに怒りを露にした俺に、そいつはしばらくキョトンとしたあと、思案して何でもないように答えた。


「ああ!腹減ってたから」


「殺す」


ズボンからナイフを取り出すと同時に、そいつが手を抑えてつけてきた。

「やってる場合じゃねえっての!あの日も事件のこと調べて嗅ぎ回ってたんだよ!そしたらまあ腹が減ったんだが・・・」

余計に力が増し、ゆっくりとそいつの体を押し返す。互いにナイフを握りあったて、静かな殺し合いになった。

「おまえのせいでこっちはクソゴリラ班長にぶん殴られたんだよ!!もう1回でいいわ、殺させろ・・・」

「ぐっ・・・おまえ力つよ・・・」

確かに、怪我をしている俺に対して、こいつは力で押し負けている。押される力に耐えられず、マットに背中が付いたところで、そいつは観念して声を上げた。

「あ〜わかったわかった!めんどくさいからお詫びに協力するってことでどうよ?どーせ犯人の目星も着いてないんだろ?」

その言葉に、ナイフを向ける手が止まった。

「おまえ、予想ついてんのか?!根拠は?」


「・・・答える前に、退いてくんね?」


言われて気がつけば、そいつをマットに押し倒す形になっていた。互いにナイフを握った状態のまま、静止している。

「いや、おまえ逃げそうだから丁度いいだろ。早く言え、そのあと刺すから・・・」

「脅迫になってねーよ!刺さないっていえよ!」

「冗談だっての。言ったらどくから早く答えろよ」

「わかったっての・・・じゃあ言うけどさ。これ明らかに内部の奴だろ」


軍組織内部での殺人。物騒な発言に、喉が詰まった。


「・・・根拠は?」

「3人殺された。毒殺、撲殺、刺殺・・・今回が銃殺。どう思う?」

そこまで知っているのかと思うと同時に、言葉が出た。


「見せしめ、だな」


藍色の目が、冷たくこちらを見つめる。


月明かりに照らされて、そいつの細い髪の毛が、うっすらとひかっていた。


「今回なんて明らかだろ。でかい音出して殺しやがった。もう隠し切れない。この殺人祭りを公にして、上官4人も殺された馬鹿な軍隊ですよ〜って晒したいんだろうな。それに、ただ殺すなら最初と同じ毒殺で良いはずなのに。わざわざ人目につきそうな撲殺や銃殺なんかもやってる」


鈍器や、毒や、素手で。昼間や真夜中など、場所も時間も問わないまま。

そして実際に訓練生に目撃されている。目につくように、死体を放置して。

「・・・めちゃくちゃに恨んでるな」

そう呟いて、体を起こした。


開放されたが、マットに寝転んだまま、そいつは天井を見つめていた。

「そういうこと。うちをこき下ろしたい外部の人間なら、ここまで大掛かりな殺し方しない。それに、外部の人間が、まっ昼間に訓練舎に近づくなんて、んなアホな事しないだろ。恨みを持った内部の人間の犯行。あとは誰かっつー話だけど・・・よっと」

そこまで言うと起き上がり、振り返って俺に手をひらひらと振った。


「私がわかったのはここまで。あとはよろしく」


「・・・えっ・・・って、おい!」

僅かに間に合わず、そいつはひょいと窓から身を滑らせて、外に逃れた。

「犯人の目星ついてるってのは嘘だからさー!あとはそっちのララ軍曹さんに頼むわ!調べ物とかラクしょーだろ!じゃあな〜!」」

悪びれもなくそう言うと、さっさと暗闇に走っていく。

慌てて追いかけようと窓から身を乗り出すが、くらりと目眩がして、走る力が無いと悟った。

「おまっ・・・まて!」


どんどん離れていく背中に、声を張る。なぜあの場にいたのか、あの返り血はなんだと聞きたいことは山ほどあるのに、どんどん距離が離れていく。せめて何かあと一つ、と思い、咄嗟に声をはりあげた。


「名前教えろ!!りんごドロボー!!」


叫び声にふりかえり、そいつは負けじと声をあげた。


「とろでいーぞ!じゃあなくらげ!」


なんじゃそりゃと言う前に、とろは暗闇に消えた。

ただ1人残され、呆然と、とろという人物を思い返す。


暗闇で死体を前に、静かに佇んでいた。

あの場で何をしていたのか。それを聞くことも出来なかったが、もう考える力も尽き果てた。


「あ〜〜・・・・俺、最近本当に可哀想・・・」


怒涛の夜に疲れきり、夜が明ける前に、ふらふらと官舎へと戻った。

何年ぶり……???

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