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Impact penetrate 千成武人3

 ーー通信兵から送られて来る映像を見やり大塚雅史1等級大尉は首を傾げた。確かに首を傾げたくなる。この乱戦の中敵の兵器が揃って武装をパージしているのだ。

 殴り合いの勝負を希望か ? と、映像を見やる。

 目前の敵兵器も同じ様に武装をパージしている。だが、直ぐに殴り合いの勝負を求めているのではないと知る。

 変わった形のライフル、刀身の無い剣ーー。

 敵兵器は示し合わせた様にそれらを装備し始める。大塚は其れらが直ぐにビーム兵器だと理解した。然れどビーム兵器は其れ程重要視される程の兵器ではない。莫大な燃料を必要とする割りには然程であるからだ。

 漫画や映画の様にビームの玉が兵器を貫通することも、ビームの刃が兵器を真っ二つにすることもない。兵器レベルで言えばレーザーの方が実用的であると言える。

 そんなビーム兵器を持ち出して何をするつもりだ ? と、大塚は敵兵器を見やり、念のため間合いを取る。其れに合わせ敵兵器も間合いを取り光り輝く刃を柄から発生させた。

 矢張りビーム兵器かーー。

 此れは大塚の予想通りと言えた。だが、残念な事に其処から先の予想は大きく外れていた。当然だ。此の大掛かりな作戦に実用的でない武器を態々携帯する馬鹿な奴はいない。

 疑問に思うべきだった。

 然れど混乱した状況でユックリと分析出来る余裕は無かったし、大国と言えど寄せ集めの国であるCUEの軍事力を侮っていた。

 そして力なら自分達の方が勝っていると言う過信が更に判断を曇らせる。

 其れで何をするつもりだ ? 冷えたボディを温めてくれるのか ?

 そう言って大塚は剣を振りかざし敵兵器めがけて切りかかった。

 大塚は余裕だった。何しろ相手は切れぬ刃に、貫通しない玉で戦いを挑んで来ているのだ。大塚に取って此れ程余裕な事はない。ビーム兵器は闇を照らす明かりの代わり。それ以上でもそれ以下でもない。

 そう思っている以上矢張り大塚は余裕だった。

 が、次の瞬間視界は暗闇に覆われ、訳も分からぬまま大塚雅史1等級大尉は消滅した。

 敵兵器は剣を振りかざし切りかかろうとする大塚大尉の兵器を一刀両断、剣ごと真っ二つに切り裂いていた。


 ーーバトルスーツに身を包むと自分が此れから兵器に乗るのだと言う気持ちになる。未だ戦場に行く。と、言う気持ちには程遠いが気が引き締まるのは確かだ。

 薄手のレギンスの様なバトルスーツは首から足のつま先迄が一つになったワンピース構造で。勿論腕部分は手の指先迄シッカリと作り込まれているのでヘルメットを被っていれば宇宙遊泳も出来る。

 と、言って喜んで宇宙遊泳する人間なんて何処にもいないけどさ…。

 バトルスーツの薄さは0・001ミリで体に密着している。だから体のラインがシッカリと出てしまう。男子は良いが女子には抵抗がありそうなスーツだ。

 だが、此れだけではバトルスーツと言われてもピンとこない。そりゃそうだ。此れだけでは全身を覆うパンティストッキングと変わらないからだ。

 だからこのスーツには特別な物が仕込まれている。特殊硬化シリンコンRPZだ。この特殊シリコンは普段は液体状になっているが人肌の温もりで徐々に硬化し始め大凡5秒〜10秒の間で完全に硬化する。

 其のシリコンが体の主要部分を保護する様にバトルスーツ内に挿入されている。だから本来はオーダーメイドみたいにあつらえて貰うのだが、こう言った場所には万人向けのスーツが用意されている。と、言っても電気も何もついていない状態ではどうする事も出来ない。せめて格納庫内の電気でもついていれば其の明かりを元にスーツを手にすることは出来るのだが。

 然れど格納庫を照らしているのは数個の補助灯だけ。此れでは更衣室の中迄は届かない。と、思っていると灯りがついた。悠那は手で明かりを遮る。

「何だ電源は生きているのか。」

 と、スイッチに手を触れたまま日比野が言った。

「うふ。そうみたいね。」

 ニヤリと笑みを浮かべ乍ら那奈が答える。

「と言う事は格納庫内の電気もつきそうですよね。」

 格納庫を見やり乍ら沙也が言う。

「だな。後で探すか。」

「探すより乗る方が早いわよ。」

「それもそうだ。兎に角パパッと用意するぞ。」

「了解。其れじゃぁ後でねぇ。」

 と言って那奈は唇を尖らせキスをねだった。其れを日比野は当たり前の様にチュッとキスをすると優しく頭を撫でてやる。

 ほんのりと油が唇に纏わり付く。ポテトスナックの油だろうか ?。少し塩分もきいている様に思える。日比野は其れを指で拭うとバシッと決めろよ。と言って男子更衣室に向かって行った。

「あ、大尉ーー。」

 と、悠那は日比野を追う様に男子更衣室に向かう。

「悠那。」

 沙也が呼び止める。僕は肩越しに沙也を見やると、軽く上を向き目を閉じている。

 真逆ーー。

 と、悠那はサッと日比野大尉と那奈の姿を探す。

 幸いな事に日比野と那奈の姿は見当たらない。悠那は沙也の所迄駆け寄り柔らかい様で硬く引き締まった体をギュッと抱きしめる。

 優しい温もりが僕を包み込む。

 ドキドキ、ドキドキと鼓動が高鳴って行く。

「沙也ーー。」

「悠那ーー。」

 そう言い乍ら沙也は瞳をパチリと開けて、抱いて。と、続けた。

「え、今 ?」

「したいぃぃ。」

「え、今 ?」

「うん。」

「帰ってからでも良い ?」

「う〜ん。うん。」

 そう言って沙也は又目を閉じた。

 其の表情が愛らしく可愛い。暫し其の表情にウットリと見惚れてしまう。天使と表現するべきか、其れとも妖精と言うべきか。顔も仕草も其の全てが可愛いと思う。もしも兵士に何てなっていなければーー。

 もしもーー。


 否、違う…。


 兵士になったからこそ此処にいるんだ。僕とこうやって此処にいるんだ。

 だから僕は。

 僕は。

 ソット沙也の髪を撫で僕達は口ずけを交わした。

 僕はーー。

 そうだ。

 僕が守らなければいけないんだ。

「さぁ、着替えに行こうか。」

 沙也を見つめ乍ら悠那が言った。

「うん。バシッと決めろよ。」

 沙也は全く似ていない日比野大尉のモノマネで言った。軽く苦笑で返すと悠那は、其れじゃ、又後で…。と、言って男子更衣室までかけて行った。

 悠那が男子更衣室に入ると日比野は既に着衣室の中で着替えている最中だった。悠那はザッと更衣室を見渡し、バトルスーツが収納されているクローゼットを見つけると其処に向かった。

 30着以上は有るだろうバトルスーツの中から自分のサイズに合うスーツの場所を探す。其処から更に好みの色を選ぶのだが、事が事だけに時間をかけて選ぶことは出来ない。悠那はオーソドックスな黒をチョイスすると其れを持って着衣室に入った。

 手際良く軍服を脱ぐと下着もスルリと脱ぐ。悠那はいつも下着を脱ぐ時は恥ずかしいと言う気持ちになる。何故バトルスーツを着るのに下着も脱ぐのか ? 毎回の事だが不思議でたまらない。

 しかし男の部分はシリコンで隠されるので小さい事がバレずにすんでいる。悠那はその小さいナニをちょんと摘む…。

 しかし、本当に小さいな。つくづく情けなくなる。こんなに小さくて女子を喜ばせられるのだろうか。つくづく不安になる。

 否、今はそんな事を考えている場合ではない。

 悠那は手際良くスーツを着ると男子更衣室からヘルメットを持って出て行った。


 ーー光り輝く其の武器は桁違いの威力を見せつけていた。

 押し寄せる津波を力で押し返していた残り6カ国の軍勢は、勢いを増した津波に飲み込まれて行くだけだった。

 其処には戦闘技術も経験も殆ど不必要に感じる程の力の差。

 盾で防いだ所で盾ごと切り裂かれ、盾ごと貫かれるのだ。だから敵は只、振り回せば良いのだ。兎に角敵のいる所に向かって撃てば良いのだ。兎に角当たれば破壊できる。

 簡単な事だ。

 そう、簡単だ。

 誰にでも出来る。

 そう思い乍ら学は一機又一機と破壊して行く。正直此処まで歴然とした差が出て来るとは思ってもいなかった。まるで初心者を相手にしている様な感じだ。

 一昔、

 そう一昔前までならビーム兵器など何の役にも立たなかった。

 どれ程研究を重ねようと放出するプラズマに耐えられる金属を作り上げることが出来なかったからだ。其の為力をセーブした中途半端なビーム兵器しか出来なかったのだ。

 中途半端な其れは戦場でも日常生活においても、結局何の活用も出来ないまま、開発チームに無期限の中止命令が出された。

 だが此れは決して技術が無かったわけではない。プラズマエネルギーに耐えられる金属が無かっただけ。

 しかし、正確に言えば核融合炉があるのだから其れなりの熱に耐えうる金属は存在する。

 只、其れには限界があった。火星で発掘された鉱物は其れ程多く採取出来ないらしいのだ。其の為大量生産される兵器武装に其の金属を使用する訳にはいかなかったのだ。

 だが、今は違う。

 タイタンで発見されたBanGと名付けられた鉱物は大量に存在し兵器運用にまで回せるだけの余裕が有る。そして莫大なエネルギーを放出出来る新型のエンジン。

 まさに無敵。

 其の威力は敵兵器が剣を振りかざしてこよとも、其の剣ごと此のビームで形成された剣は切ってしまうのだ。盾で防いでも盾ごと切ってしまう。

 実に愉快だ。

 面白いぐらいに自分のスコアが上がって行く。

 此方は相手が打った弾だけを警戒していれば済む。近くに来れば此の剣で瞬殺出来る。学はグングンと兵器を前進させ敵陣ののど真ん中まで進んで行く。

 然れど、

 然れど、

 残り6カ国も其のまま全滅させられるわけにもいかない。

 当たれば終わる。ならば近づかなければ良い。敵のビーム兵器の威力を目の当たりにした残り6カ国の軍勢は間合いを取り飛び道具中心の陣形を取る。

 然れど、

 然れど、

 敵はビームを飛ばす兵器も携帯している。此方も当たれば当然甚大な被害を被ることになる。其れに間合いを取ると言っても敵はニューセイルにグングンと攻め寄って来ているのだ。下がれば其の分敵はニューセイルに近づくことになる。

 否、敵は既にニューセイルの重力圏内に侵入している。

 そう、鶸の部隊だ。

「諸君ーー。記念すべき日が目前に迫っている。」

 そう言うと鶸は兵器の足であるランディングギアを展開させた。

「此処から先はニューセイルの重力圏内だ。誤って墜落するなよ。」

「大佐こそ撃ち落とされないで下さいよ。」

「そうだな。気をつけよう。」

 そう言い乍らニューセイル外壁からの攻撃を躱す。

「冗談はやめて下さい。」

「千成武人の称号を持つ大佐がそう簡単に落とされるかよ。」

 コクピットに映る宇宙には無数の弾道軌道が表示されている。ニューセイルの外壁に辿り着いたからと言って部隊が無くなる訳ではない。今だにニューセイルからは兵器が続々と出撃して来ている。鶸は其れをジッと見やると。さぁ、茸の伐採を始めよう。と、鶸は柄からビームの刃を形成させ更にスピードを上げ迫り来る敵部隊に突っ込んで行った。


 格納庫に戻ると眩い明かりが格納庫内を照らしていた。待っている間に日比野大尉が電源を見つけてスイッチを入れたのだろう。

 だが、そんな事はどうでも良い。と、悠那はジッと日比野を見やり、なんすか。何で金色何ですか。と、日比野が着用しているバトルスーツを指差した。

 何とも安物くさい金色のスーツに金色のヘルメットが痛々しい。そして、髪の色まで金色に染めているのだからいっそうの事顔も金色にすれば良いのにと思ってしまった。

「ふん。ゴージャスな男はゴージャスな色を選ぶ物なんだよ。」

「ゴージャスって。ピカピカですよ。ヘルメットかぶったらゴールドマンですよ。」

「なんだよゴールドマンって。」

「ゴールドマン知らないんですか ? 直訳すると金野郎です。」

「ふん。金野郎かなんか知らないけどな。俺程金色が似合う男はいねぇよ。」

 そう言うと日比野は金色のヘルメットをかぶる。

「本気で其れで行く気ですか ?」

「たりめぇだろが。お前はサッサとメットかぶれよ。」

 と、日比野は悠那のメットを取り上げ其のまま悠那にかぶせた。

「うわ。逆ですよ。」

「ふん。知るか。」

 と、そんなやり取りをしている間に沙也達も用意が出来たのか更衣室から出て来た。

「おぉぉまたせぇぇ。」

 そう言ったのは那奈だ。

「電気がついてるぅ。」

 沙也が言った。沙也の声が聞こえると同時に鼓動がドクンと鳴る。そりゃそうだ沙也も此のスーツを着ているのだ。と、言う事は沙也のボディラインが見れる。

 僕は下心を必死に隠し乍らスポッとヘルメットを脱いだ。

 真っ赤なスーツが瞳に映る。

 真っ赤なスーツが印象的な其のラインはふくよかな中にも確りと赤身があり、然れど見る者を圧倒する程の余分な肉と重圧。

 一言で言えば達磨。

 そう、彼女は達磨だーー。

「だ、だ、だ、」

 達磨と言いそうになる僕を止めるように、悠那其れ以上は言っちゃ駄目。と沙也が止めに入って来た。

 沙也の声で僕はハッと自分を取り戻し改めて沙也を見やった。

 しかし驚いた。ヘルメットを脱いだらあれが目前にいた。しかも赤のスーツ。反則だよと改めてそう思った。

 だけど今度は大丈夫。と、悠那は沙也をジッと見やる。

 プロテクターの所為で良くは分からないが胸は余りある様には思えない。軍服を着ている時は結構ある様に思えたのだが、意外と小さい様に感じる。恐らくパットで騙していたのだろう。だが、腹筋は確りと鍛え上げられておりスーツの上からでも割れているのが分かる。

 そして鍛え上げぬかれた上腕二頭筋と三頭金。脹脛も太ももも見事に鍛え上げられている。よく見れば沙也の腕は自分の腕の太さと余り変わらない様にも思える。

 一言で言えば色気が全くない。

 此れが女子の体 ?ーー。

 はぁ、と悠那は頭を垂れた。

「こら。女子の体をチェックして溜息つくんじゃねぇ。」

 日比野が耳元でボソリと言った。

「だ、だってーー。」

 と、情けない表情で答える悠那に、ま、気持ちは分かる。だけどよ。男ってのは時に言わない勇気ってのが必要な時があるんだよ。と日比野が言って聞かせた。

 言わない勇気。と悠那は那奈を見やる。


 否、あれには言った方が良いんじゃないか ?


 悠那は素直にそう思った。


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