序章
この物語は本編であるCandy floss The first.のサイドストーリーです。内容はEpisode 0からの続きとなっています。
ですが0を読まなくても楽しんで頂ける様に執筆していますので深く考えず読んで頂ければと思います。
基本構成はSFですが殆ど如月少尉と冴木伍長のラブストーリーを中心に描いていますのでどなたでも気軽に読めるのではないかとー。
尚、この先の更新は月1の予定です。皆様、末永いおつきあいを宜しく御願い致します。
1975年夏ー。
齢60才になろうとする男がアフリカの大地で土にまみれていた。男は必至に土を掘り木々の苗を植えては又土を掘った。
顔に深い皺を彫り込んだ此の男はどうやら有名な作家らしい。しかし此のアフリカの大地で彼を知る物はいない。現地住民は彼の行動をジッと見やっていた。太陽の光が降り注ぐ此の大地で必至に土を掘り苗を植える此の男の行動が奇妙に思えたのか?其れとも何処かの企業が又此の土地を荒らしに来たのか?
要するに友好的な眼差しではなかったと言う事だ。
それでも男は毎日妻と二人で苗を植え続けた。こんな荒れ果てた大地に今更苗を植えてどうなるのかー。住民達はきっとそんな事を考えていただろう。
それでも男は毎日必至に苗を植え続けた。然れど体が衰える年齢に差し掛かった此の夫婦には苗を植えられる数に限りが有った。良くて1日に20本、少ない日等は12本程度だった。時にはゆっくりと空を眺め1日を終える日もある。
其れは急ぐでも無く慌てるでも無く余生を楽しんでいる様にも伺えた。
この老夫婦が此の地に来て何ヶ月かが経った頃、此の老夫婦の元に1人の少年がやって来た。丁度老夫婦が昼食を取る為にテントに戻って来た時の事だ。
少年の名前はアベルと言った。
アベルの体はやせ細り今にも息絶えそうな感じだった。男は一切れのパンを彼に与えるとニコリと笑みを浮かべ腰を下ろした。アベルはそんな彼を見やり言った。
「貴方は苗を植えて何をするのですか?そして何を得る事が出来るのですか?」
アベルの問いかけに男は怪訝な表情を浮かべてみせた。其れは少年の第一声が一切れのパンを貰ったお礼でもなく、笑顔でもなかったからかもしれない。否、よしんばお礼であれ、笑顔であれ其れ等は自分に対しての自己満足にすぎない事を男は良く理解していた。
だから男はパンを取り上げる事無く煙草に火を点け軽く一服噴かし答えた。
「私は苗を植えるだけさ。そして恩恵を受け取るのは遥か先の人達だ。」
「貴方は何も受け取る事が出来ない?なのにどうしてこんな事をするの?」
アベルの表情はとても不可解な物を見る様な表情だった。男は其れも当然なのかと思った。
「どうして?そうだな、罪滅ぼしと言った所かな。私は環境問題を危惧し乍らも、裏では最先端の技術開発等に尽力を尽くして来た。其の結果地球の環境はボロボロになってしまったからね。」
そう言うと男はコーヒーを一口飲み煙草を噴かす。紫煙がユラユラと揺れる。其の紫煙を振り払い乍らアベルが、育たないー。と、ボソリと言った。
「かも知れないな。それでも決めたんだよ。世界に100万本の木々を植えるってね。」
「植えても又切り取られる。」
「なら、又植えれば良い。」
「そしたら又切り取られる。何も残らない。何も育たない。」
訴える様なアベルの言葉が耳に残った。男はグイッとコーヒーを飲み干し煙草を揉み消した。
「それでも、残さなければいけないんだよ。」
そう答えると男はゆっくりと腰を上げ、広大なアフリカの大地を見やった。
「残るのは貴方の名前だけだ。」
まだ子供のくせにそう言った事は良く知っていると感心した。男は又ニコリと笑みを浮かべ軽く首を横に振った。
「名前かー。確かにそんな時期も有ったな。私も又自分の名前を残したいと考えていたよ。だけどねアベルー。後世に残す物は偉人の言葉や偉業でも、ましてや名前なんかでもない。勿論それは素晴らしい技術なんかでもない。私達が後世に残す物はただ一つ自然だけだ。だから私は例其れが無駄だったとしてもやり続けるんだ。」
「そうだ無駄だ。無駄だ。何も変わらない。」
アベルは声を張り上げ言った。男は其れをジッと見やりアベルの頭を優しく撫でた。
「そうかもなー。何も変わらないかもしれないな。だけどね。何もしなければ悪くなるだけだ。だから僕はやるんだよ。だけど君は、僕一人が何かをした所で意味が無いと思っている。だから無駄だと思うんだろ。だけどね、僕は断言出来る。僕が何かをすればきっと世界は変わる。」
そう言い残し男は又作業場に戻って行った。
その日を境に多くの原住民達が彼の作業を手伝い始めた。
1975年夏の事である。