9
あの惨事の後、綾と呼ばれる少女は客室をわたしの為にと色々な準備をしてくれて、こっちは昼間にも関わらず、用意されたベッドに横たわった。これが全て夢でありますようにと願いながら、深い眠りについた。
翌日、午後3時。
わたしは目覚めて寝る前と同じ、見慣れない天井に肩を落とした。そして12時間も眠っていた様だった。
昨日の出来事総て、夢ではなかったんだ。
ベッドからのそのそと降り、自分の家から持ち出した制服に袖を通す。これからわたしはどうしたらいいのだろう。
何も無い。家族も友達も見慣れた風景も。
何も無い場所で。
無性に泣きたくなった。
帰りたい。
取り敢えず誰かと、きちんと話をしたいと思い部屋を出た。大変申し訳無いが、家に帰りたいという事を話そうと思ったからだ。
うろ覚えで歩いている内に昨日の殴り合いが起きた部屋に出た。
昨日の二人を見付け、わたしは遠慮がちに挨拶をした。
綾は、わたしを見て
おはよー!めっちゃ寝てたねー!
と、笑っていた。リョウと呼ばれる彼は何も言わずわたしを見ていた。
話さなくては。帰るという事。
そして、何がどうなったのか。
わたしは昨日の話がちんぷんかんぷんだったので、リョウと呼ばれるここの責任者を質問する事にした。彼に対して、不安や怖さは拭いきれなかったけれど、そこまで悪い人ではなさそうだった。
綾と呼ばれる少女。
リョウと呼ばれる青年。
そして、わたし。
という、なんとも不思議な面子でテーブルを挟んでお茶をすることになった。
まず、わたしを攫ったのはジョージという名前で、わたしと同い年の彼だった。
リョウが言うには、ジョージには舞という彼女がいて尚且つバイト仲間だったそう。
その舞という彼女はバイト中に意識が失くなり、そのまま年齢の止まった儘、植物人間状態になってしまったらしい。
その難病を治す事は現代では不可能とされており、嘘の治療方法がネット上に沢山散らばっていて、彼等は手探り状態で小さな情報でも、一から全て試す気でいたようだ。
彼女が植物人間になってから半年、ジョージはやっと有望な情報を掴んだが、それはこの世界では禁忌と言われている異世界移動をしなければいけない。更に重罪に問われる要因になったのが、人や物を、自分の世界に連れて来てはいけないという最大のルールを彼は冒してしまった。わたしがこちらの世界に来た事でジョージは政府や軍に悪事を知られてしまうと死刑、または人体実験に使われてしまうかもしれない。という事だった。それはジョージだけではなく、わたしも対象に入っているという事で、それを知っていたリョウはジョージを殴り飛ばし気絶させたのだった。そして、わたしは二発殴ったように見えていたけれど本当は15発は軽く殴られていたと綾は言う。
それは気絶するどころか普通なら死んでても可笑しくはないなと思った。
と、色々簡単にだけれど話してくれた。
真実を知ったところでわたしにはどうしようもできなくて、元の世界に帰れない(帰るとバレるらしい)と知り、思わずわたしは泣き崩れてしまった。
二人は、頭を床に付け謝罪した。
わたしは許す、許さない以前に泣く事しかできなかった。