アヤカシと紅い妖
雫月「アヤカシを継いだ私を…母様が知ったらどんな表情をするかしら…」
母はアヤカシではないけれど、巫女だった。巫女であり母親である母様を私は大好きだった。けれど…ある日突然母はアヤカシたちが住む世界-妖幻郷-へ引き摺り込まれ、消えてしまった。私の目の前で。
あのとき、私に力があったら母様を助けられたかもしれない。
父様も、苦しまずに済んだかもしれない。
今でもあの日を思い出すとそう思うのだ。
真潤「雫月様…」
雫月「真潤、気にしないで。もう昔のことなの」
雫月はそう言って、長刀をもった。
雫月「さあ、行きましょうか真潤」
真潤「はい、主人の命のままに」
真潤も本来の龍の姿に戻り、雫月を乗せて飛び立った。
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雫月「!…あれは…」
真潤「この辺りで降りましょうか」
真潤に降ろしてもらうと、長い尻尾を靡かせた少女がにやりと笑った。
雫月「梗狐…」
梗狐「久しぶり、紅いアヤカシ殿。」
雫月「…っ」
梗狐「変わらず九鬼兄妹に助けてもらっているそうね」
雫月「協力してもらってるのよ、彼等には。今も妖幻郷から流れてきたアヤカシたちを押さえ込んでもらってる」
雫月は一睨みすると梗狐はふふふと笑った。
梗狐「お喋りはこれくらいにして殺りましょうか…はぁっ!」
梗狐は持っていた棍棒を振り回した。振り回すと同時に雫月の髪がぱらりと数本斬れた。
雫月「!?」
梗狐「驚いた?この棍棒、特別な刃を仕込んであるの」
ふふふと梗狐はまた笑う。
雫月「真潤、梗狐の背後をとりなさい。私が前をとる」
真潤「わかりました」
雫月「はああああっ」
梗狐「はああああっ」
二人が斬り合う寸前で何者かが止めた。
雫月・梗狐「!?」
?「君たちが決着をつけるのはまだ早い。故に、今はその時ではない」
雫月「南雲…」
梗狐「ちっ…邪魔が入ったわね…」
南雲「雫月、今はまだ決着をつけないでほしいんだ」
神夜「こいつの言う通りだ。貴様らが決着をつけるなどと争っている場合ではない。あれを見ろ」
神夜の指差す先には空がゆっくり剥がれ落ち、アヤカシたちが隙間から蠢く光景が広がっていた。
雫月「…どういうこと?神夜達が止めたんじゃ…!」
神夜「どうやら止めていたのは偽物のほうだったらしいな、闇華梗狐」
雫月「これもあなたの…!」
梗狐「ふふ…っはははは!違うわ、これはアタシの作戦じゃない。偉大なるあの方の力」
雫月「あの方?」
真潤「雫月様!お気をつけを!なにか隠しています!」
梗狐「気づくなんて鋭いわね、宝龍」
梗狐がナイフを振りかざすと彩葉がすかさず取り押さえた。
彩葉「あなたの、好きにはさせない。」
神夜「観念しろ妖狐」
梗狐「くっ…!」