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医者の兄貴に彼女を寝取られた俺は花屋になる夢を叶えた幼馴染と再会したのだが

作者: リラックス夢土
掲載日:2026/05/17



『ねえ、まーくんは大きくなったら何になりたい?』


『僕は勇者になってみんなを悪から護りたい!』


『私のことも護ってくれるの……?』


『もちろんだよ! ちーちゃんは僕の大好きな子だもん。ちーちゃんをイジメる奴は僕がやっつけてやる!』


『ありがとう! まーくん。それなら私はお花屋さんになってまーくんが悪をやっつけたら綺麗なお花で祝ってあげる』




 ジリリリリリ!




「う~ん……」



 俺は手探りで目覚まし時計を止めた。



「ちーちゃんかぁ……懐かしい夢を見たもんだな」



 ちーちゃんというのは俺の幼稚園の時の幼馴染の女の子だ。

 本名は千鶴ちづる。だから俺は「ちーちゃん」と呼んでいた。


 千鶴は俺の本名が真人まさとだったから「まーくん」と呼んで毎日のように仲良く遊んでいたのを思い出す。

 俺にとって千鶴は幼馴染であり初恋の相手。大人になった今でも俺にとっては特別な相手だ。


 だが千鶴は現在、俺のそばにはいない。

 あの楽しい毎日が続くと思っていた矢先、俺が小学生になるタイミングで俺の両親がマイホームを購入し俺は引っ越しをしてしまった。


 別れの日、千鶴が泣きながら「まーくんと離れたくない」と言ってきたので俺は千鶴に「大人になったらちーちゃんをお嫁さんにするために迎えに来るから」と約束を交わした。


 だが大人になった俺だが千鶴を迎えに行っていない。

 理由は簡単だ。俺が夢の中でちーちゃんに約束した勇者になるどころか世間では「負け組」と呼ばれる人生を送っているから。


 高校受験に失敗した俺に両親は冷たくなった。それもそのはず両親は共に一流の学歴を持ち父親は医者をしていて俺の兄貴も両親に負けないぐらい優秀な人間だったのに俺だけが偏差値の低い高校に行くことになったのだから。



「どうして真人はこんなに出来が悪いのかしら。博人ひろとはとても出来がいいのに」


「俺たちの子供とは思えないよな。俺たちの遺伝子から真人のような子供ができるなんて医学的にもおかしい話だ」


「俺も自分の弟があんな馬鹿だとしれたら恥ずかしいよ。あいつに兄さんと呼ばれるだけで虫唾が走るんだ」



 家族が陰でそう言っていたのを俺は知っている。

 そして進路を決める時に両親はハッキリと「三流大学にしか行けない真人にかける金はない」と言い高卒で就職するように勧めてきた。


 その頃には俺自身が両親や兄貴に嫌気がさしていたから「高校卒業したらひとりで生きていくから」と自分から家族との縁を切った。

 だが世間はそんなに甘くない。高卒で就職した会社もブラック企業で俺はすぐに辞めることになってしまった。


 それからはバイトをして食いつないでいた俺は千鶴との約束のことを忘れることにした。



 こんな「負け組」の俺の姿をちーちゃんには見せたくない。

 


 だが月日が流れるうちに俺にも彼女ができた。

 バイト先で知り合った同じバイトの子だ。


 とても可愛い子でどことなく千鶴に面影が似ていることもありよく面倒を見てやっていたら彼女の方から告白してきたのだ。

 俺は人生で初めて彼女ができたことがとても嬉しかった。


 今日は休みなので彼女にデートの誘いをかけてみようと思い付く。

 さっそく俺は彼女に携帯電話でメッセージを送った。



『今日、デートしない?』


『ごめん。友達が風邪ひいて付き添いで今日はその友達と病院に行くからデートできない』



 病気の友達の付き添いで病院か。

 あ、いけね。俺も健康診断受けないとだった。



 彼女の直美なおみからのメッセージに病院と書いてあって自分も健康診断を申し込んでいたことを思い出す。

 慌てて準備した俺は健康診断を受けるために病院に向かった。


 病院で無事に健康診断を済ませた俺は朝食を食べていなかったので病院内にある食堂で食事をすることにした。

 この食堂は病院関係者も一般人も利用できる。


 そこで俺が飯を食べていると医者と思われる男とワンピースを着た女が食堂に入って来た。

 俺はその二人を見て驚く。男の方は俺の兄貴である博人で女は俺の彼女の直美だったのだ。



 なんで二人が一緒にいるんだ!?

 兄貴はこの病院の医者なのか?



 二人は俺に気付かないようで食券販売機の前で笑顔で話をしている。

 その会話が俺にも聞こえてきた。



「ねえ、博人さん。博人さんはキャンプするのが趣味なんでしょ? 今度、一緒にキャンプ行きましょ?」


「趣味ってほどじゃないよ。キャンプ料理だってカレーぐらいしか作れないし。でも直美が行きたいなら一緒に行こう」


「わあ、嬉しいな」



 直美は満面の笑みを浮かべる。

 どう見てもこの二人はただの友達には見えない。


 俺は席を立ち二人に近付いた。



「おい! 直美! なんで俺の兄貴とキャンプに行く約束なんてしてんだよ! 病気の友達の付き添いっていうのは嘘だったのか!?」」


「え! ま、真人!? なんでここに!?」


「真人? え? なんでお前がここにいるんだ?」


「俺がここにいる理由なんてどうでもいいだろ! 兄貴もなんで直美とキャンプ行くんだよ!」


「だって、直美は俺の彼女だから当たり前だろ?」


「なんだって!? 直美どういうことだ!」



 すると直美の態度が明らかに変わる。

 直美の目は俺を見下すような冷たい目だ。



「なんだ、直美。お前、まだ真人と別れてなかったのか?」


「違うわ、博人さん。真人には別れ話をしたのに未だにしつこくストーカーされてるのよ。真人、これ以上私につきまとったら警察に突き出すわよ!」


「真人は相変わらずクズだな。別れた彼女にストーカー行為とは。やっぱりお前とは兄弟の縁を切って正解だったよ。直美も俺といる方が幸せだろうし」


「そうね。博人さんは優秀だからすぐに開業医になれるだろうし。そんなわけだからもう私の前に現れないでね、真人」



 俺は兄貴に彼女を寝取られていたのか? しかも俺がストーカーだと?

 別れ話も何もしてないくせに勝手に俺だけ悪者かよ! 許せねえぇーっ!!



「そんなの言われなくてもお前らの顔なんか見たくねえから二度とお前たちとは会わねえよ!」



 俺は食堂から飛び出して外に出る。

 兄貴を殴らずに堪えた自分を褒めてやりたいが受けたショックは大きい。


 力なく歩きながら俺は近くに会った公園のベンチに座る。

 ベンチの周辺の花壇には色とりどりの花が咲いていてその花たちに自分がなんだか慰められているような感じがした。


 そこへ女の声が聞こえる。



「あれ? もしかして、まーくん?」


「え?」



 そこには花とスコップを持った作業服の女性がいた。

 その女性の笑顔が俺の遠い記憶を呼び覚ます。



「もしかして……ちーちゃん……?」



 作業服を着て顔に少し泥がついていてもその女性の顔には幼馴染の千鶴の面影がある。



「当たり! まーくんの幼馴染の千鶴よ。久しぶりね」


「あ、ああ、久しぶり……どうしてここに、ちーちゃんが……?」


「私は今、自分で花屋を経営してるの。この公園の持ち主と契約してて花壇の花の植え替え作業をしていたのよ」



 そうだったのか。ちーちゃんは自分の夢だった花屋になったのか。

 それに比べ、俺は……



 幼馴染の千鶴が自分の夢を叶えたというのに俺自身は兄貴に彼女を寝取られた上にその彼女にストーカー扱いされる始末。

 仕事も不安定なバイトで食いつないでる毎日。その現実が俺の顔を俯かせてしまう。



「でも良かったわ! まーくんと再会できて。元気だった?」


「う、うん、い、いや、ちょっと、元気じゃないかも……」


「何かあったの? もし苦しいことがあったら私に話してみて。人に話すとすっきりするものよ」


「う、うん、じゃあ、俺がされた酷い仕打ち……聞いてくれる……?」


「いいわよ」



 千鶴の優しい声に促されて俺は全てを打ち明ける。

 俺の話を最後まで千鶴は聞いてくれた。



「そんな酷いことがあったのね。もうそんな二人のことなんか忘れた方がいいよ、まーくん。それより昔した私のことまーくんのお嫁さんにしてくれる約束覚えてる?」


「…っ! お、覚えてるよ! で、でも、今の俺はバイトで食いつなぐ毎日だし、とても、ちーちゃんにお嫁さんになってなんか言えないよ!」


「あら、生活のことは置いておいて大切なことはひとつよ。まーくんは私のこと好き? 嫌い?」


「す、好きだよ! ちーちゃんは初恋の相手だし……直美と付き合ったのもどことなく直美の顔がちーちゃんに似てたからっていうのが理由で……」


「フフフッ、私に似てたって理由でその彼女と付き合ってたなんてまーくんはいけない人ね」


「ご、ごめん……」


「でも、いいわ。私がまーくんと再会するのが遅かったせいだもんね。これから私のことお嫁さんにして勇者みたいに護ってくれるなら許してあげる」


「ち、ちーちゃんをお嫁さんにしたくても俺には経済力が……」


「大丈夫。私はまだ自分の花屋を開店してからそんなに経っていなくてちょうど人手不足だったのよ。だから、まーくん。私と結婚して一緒に花屋をやらない?」


「え? 俺が、花屋?」


「そうすれば私と一緒にいられるわ。私と結婚して花屋になるのは嫌かな?」


「…っ! そ、そんなことないよ! ちーちゃんと結婚できるなら立派な花屋の店員になれるように頑張るから!」







 それから俺は千鶴と結婚して花屋の店員として毎日奮闘している。

 千鶴の花屋は切り花だけでなく植木類も扱うから花の種類を覚えるだけでも一苦労だがそんな苦労も千鶴と共にいられるならたいしたことじゃない。



「まーくん。それじゃあ、私は開店祝いのお花の配達に行ってくるからよろしくね」


「うん。運転に気を付けてね、ちーちゃん」



 花を配達するために出かける妻の千鶴を見送りながら俺は店の清掃をする。



 よし! 今日も頑張って働こう!







 そんな日々を過ごしていたある花屋の定休日の日に俺はリビングでテレビを見ていた。


 すると俺の携帯電話が鳴る。

 相手は俺の母親だ。俺は自分が結婚したことを家族に伝えていない。


 無視しようかとも思ったがしつこく鳴り続ける電話に俺は仕方なくでた。



「もしもし」


『もしもし、真人! 母さんだけど、大変なのよ! 助けてちょうだい!』


「は? いきなり電話して助けろって、何があったんだよ?」


『博人が婚約者の直美さんとキャンプに行ってカレーを作って食べたら食中毒を起こして直美さんと二人で入院しちゃったの! しかも直美さんの症状は重くて直美さんの両親からカレーを作った博人が訴えられそうだったから示談金を支払うことにしたんだけど、お父さんが心労で倒れて入院しちゃったのよ! 博人も医院を開業する予定だったからそれにお金使っちゃってるしお父さんの入院費がかさんで示談金のお金が支払えないのよ! このままじゃ、博人の将来が潰れちゃうから、真人、お金貸してちょうだい!』


 

 兄貴が作ったカレーで直美と二人で食中毒だって?

 しかも直美の両親に訴えられそうだから示談金払おうとしたら親父が倒れて払えなくて兄貴の将来が潰れるって?


 ざまあねえな!

 兄貴や直美のために貸す金なんかねえよ! 兄貴の将来も直美の将来も潰れちまうがいいさ!



 アハハハハハハハッッ!!



「俺はもうお前たちのことを家族なんて思ってねえし、悪いのは兄貴なんだから兄貴に責任取らせろよ。もう電話してくるなよ」


『ちょっと、ま、待って、まさ……』



 俺が携帯電話を切り着信拒否設定していると千鶴がリビングにやって来る。



「どうかしたの? まーくん」


「いや、兄貴が自分が作った料理で食中毒起こして入院したらしいけど俺にはもう関係ないし。それより今日の夕飯は何?」


「今日はカレーよ。まーくん、カレー好きでしょ?」


「うん」



 カレーか。まあ、ちーちゃんの作ったカレーを食べて食中毒になることはないよな。

 ちーちゃんの作るカレーはおいしいから楽しみだ。







「まだ売り上げの確認してるの? あまり無理しないでね、ちーちゃん」


「ええ。先に寝てていいわよ、まーくん。でもこのお花をまーくんにあげるわ」


「え? うん、ありがとう」



 一輪の花をもらった真人は嬉しそうにそれを持って寝室に向かう。

 真人が寝室に入るのを見届けて千鶴は一枚の納品書を手に取る。

 その納品書はある医院の開業祝いのために届けた時の納品書だ。



「まーくんの兄が開業する医院に花を届けた時にまーくんの兄がキャンプに行くためのカレーの材料を買い出しして帰って来た時にぶつかるなんて私も運が良かったわ。その買い出しの袋の中に玉ねぎがあったから他のお客さん用に準備しておいたスイセンの球根をとっさに交ざておいたのよね。玉ねぎとスイセンの球根は似ているからよく間違えて食中毒を起こすのよ。今度、まーくんにも取り扱い注意の植物の知識を教えてあげないとね。まーくんが勇者なら私はそのパーティーのひとり。勇者を傷つける者は仲間の私が排除してあげる。さっきの花は悪をやっつけたからそのお祝いの花よ。愛してるわ、まーくん、フフフ」



 


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