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異世界転生した双子は今世でも双子で勇者側と悪魔側にわかれました  作者: 陽花紫


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9/9

ゴブリンのグウ

 魔王城の中庭は、夕陽の赤で満ちていた。

 石畳は温かな光を返し、その上では小さな影がひとつ、もうひとつと重なった。


 レイは、いつものようにゴブリンとダークエルフとで追いかけ遊びをしていた。


 魔界の空気によってすくすくと育てられたレイは、見た目こそ人間ではあるものの、その身のこなしは悪魔たちに近くもあったのだ。

「レイ、こっちだぞ……!」

「よーし、負けないよー!」

 そう小さな手から逃げ回るのは、ゴブリンのグウであった。

 背丈はレイより低く、緑の肌に大きな瞳。幼い頃からレイと一緒に遊び、泣き出す時には一番に駆け寄り、レイの笑顔を見れば同じく笑う、そのような存在であった。


 しかし気づけばその笑顔を目にするだけで、グウはどこか胸が締め付けられるような気分に襲われていた。


***


 その夜、魔王城の廊下で、グウはレイの寝室の前をうろついていた。

「今日も……、言えなかった……」

 言いたい言葉が喉につかえたまま、帰れずにいたのである。

 そのような姿を見つけたインキュバスのムウは、思わず背後から声をかける。

「どうしたの、グウ」

「ムウ様!……え、えっと……なんでもありません!」

 そう走り去ろうとするその身を、ムウは笑みを浮かべて軽々と捕まえた。

「まーた、レイのことで何か悩んでるんだな?」

 どきりとグウの胸は鳴り、気付けば耳の先まで赤くなってしまう。

「ち、違いますよ……。いや、その……」

 そのような姿を目にして、ムウは穏やかな笑みを浮かべていた。

「大丈夫。レイは、お前のことを信頼してるよ?焦らなくていい。ゆっくり、お前の気持ちを伝えればいいんだ」

 その言葉に、グウは静かに拳を握った。

「……伝えたい。レイに……」

「そう、その調子!じゃ、さっさと寝るんだぞー?」

 颯爽と手を振るムウに頭を下げながら、グウは勇気を振り絞ることに決めたのであった。


***


 翌日。

 魔王の封印が弱まりつつあるせいか、城内はどこかざわついていた。

 そのような中、レイがグウの肩を叩いた。

「ねえグウ、ちょっと手伝って!」

「な、なに?」

「魔王様の周りの結界、昨日崩れた部分があって。……少し、支えてくれると助かるんだ」

 その頼られたという事実に、思わずグロの胸は熱くなる。

「レイの頼みなら、……なんだってするよ!」


 結界の修復は、思ったよりも重労働であった。

 互いに汗をかき、ついにその息は上がってしまう。

 なおも頑張るレイの姿を横目に、グウも負けじと踏ん張っていた。

「グウ、すごいすごい!力強いし、器用だし、本当に助かるよ」

 褒められるたび、その胸には痛いほどの喜びが広がる。


 しかし同時に、ほの暗い思いも湧き上がる。

「レイが笑うのは……。誰にでも、なんだよな……」

 魔王城の悪魔や魔物たちに、レイは分け隔てなく優しくもあったのだ。

 その笑みを独占したいと思うのは、欲張りなのかもしれない。

 それでも、グウの恋は止められなかった。


***


 その日の夕方。

 赤い光が塔の上に差し込む頃、グウはとうとうレイを呼び出していた。

「レイ。ちょっと、話があるんだ……」

「うん、どうしたの?」

 そのようにいつもと変わらぬ笑顔を眩しく思いながら、グウは静かに息を吐いた。

 しかし、決めたのだ。


「……レイ。……お前のこと、ずっと好きだったんだ」


 そのような言葉に、レイは驚きに目を丸くしていた。

 そして気まずさと、痛むような切なさがその顔には表れていたのだ。

「グウ……」

「ずっと前から……レイのこと、大事で。一緒にいたくて……でも、お前は誰にでも優しいから、どんどん好きになって……」

 グウは息もつかず、なおも言葉を続けていた。

「……返事は、わかってる。わかってても……言いたかったんだ」


 長い、沈黙が降りる。

 風の音が塔の壁に当たり、何度もふたりの間をすり抜けていた。


 レイは、ゆっくりとグウの肩を抱き寄せた。

「……ありがとう。言ってくれて。グウの気持ち、すごく嬉しいよ」

「……うん」

「でも、ごめん。グウのことは、友達として大好きなんだ。だから俺は、そういう好きには応えられない」

 グウは目を伏せ、静かに涙を流していた。

 それは、レイが初めて目にしたグウの涙でもあった。

「わかってたよ。わかってたけど……やっぱり、ちょっと……痛いな」

「本当に、ごめん。でもね」

 レイは静かに、グウのその背を撫でていた。

「俺の一番の友達として、……家族みたいに。これからも側にいてくれたら、嬉しいな」

 その言葉に、グウはしゃくりあげた。

 そして震えはすぐに収まり、レイの胸元で小さく頷いた。

「……うん。友達でもいい。ずっと、……守ってあげるから……」

 レイは、安心したように微笑んだ。


***


 告白は、終わった。

 恋が叶わないことも、わかっていたはずであった。

 レイのその姿を見るだけで、グウの胸はなおも締め付けられてしまう。

「グウ、ご飯の時間だって!」

 レイが、無邪気にその手を引く。

「お、おい……!引っ張るなって!」

 しかしその手の温かさをこれからも感じられると思えるだけで、グウの胸は少しだけ軽くなるような気がしていた。


 叶わない恋でも、レイが大切なことは変わらない。

 そして自らもまた、レイの大切な仲間でいられる。

 それでいい。

 それで、いいのだと。グウは今日もレイと笑みを交わすのであった。


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