双子は再会を果たす
魔王の封印が解かれたその瞬間、世界の時は揺れ、空気は一瞬静止した。
その気配を、勇者一行はいち早く察知していた。
急ぎ敵を薙ぎ払い、城門へと辿りつく。
しかしその間、不思議な言葉が交わされていたのであった。
敵は皆、ライのその顔を目にした瞬間攻撃の力を緩めてしまっていたのだから。
「あなたさまが、なぜここに?」
「見間違いか?いや、そんなはずは!」
「至急、魔王様に報告を……」
しかしそのような言葉は、すぐに消え去ってしまう。
勇者一行はそのような言葉を耳にする中で、ある一つの確信を抱いていた。
「もしかしたら、“魔王の子”はライによく似た姿をしているのかもしれないな」
「そうだな。皆、ライを見た瞬間に攻撃する手を止めちまう」
「戦いの場においてあのような狼狽えぶりは、致命傷にもなりえますからね」
「だが、あくまでも似ているだけだろ?ライは一切、魔王とは何の関わりもないんだ」
そのような言葉が交わされる中、ライはただ静かにうつむいていた。
しかし、あることに思い至る。
「……もし関わりがあるのであれば、俺は……そのせいで捨てられていたとか……」
そのような気弱な口調に、クリスは思わずその身を抱きしめた。
「そんなことは、ないはずだ!それなら、なぜ聖なる力を持つ教会に託された」
「クリス、ライ。今は力を合わせて真実を見つけよう。この先で、魔王が待っている」
勇者マクシムの言葉によって、一同は気を引き締めた。
静かに門を開けると、その先には外界とは比べ物にならないほどの闇が広がっていた。
***
「魔王様!大変です、大変です……!勇者一行が、攻め入ってきました!」
そのようなグウの言葉に、誰しもが息を止めた。
勇者、それは魔王を封印した悪しき存在であったのだ。
「やはり我の復活に、いち早く気付いたというのか。皆の者、支度しろ」
「はっ!」
レイは慌ただしく散らばる魔物たちの姿を見つめて、眉を寄せてムウの顔を見上げていた。
「ムウ……。俺も、戦うの?」
しかしムウは、いつものように笑ってみせた。
「いいや?俺とレイは、魔王様のそばにいればいいんだ!魔王様はレイの力でさらに強くなったからな、勇者なんてすぐに消えるさ」
そう安心させるかのように、その身を強く抱きしめた。
「そっか、それなら……。大丈夫だね」
レイは静かに笑みを浮かべ、ムウに手を引かれるがまま魔王のそばへと身を寄せた。
やがてわずかな騒ぎ声が、魔王の間に向けて近づいてくる。
扉の前に控えていたシェリルも、勇者一行の圧倒的な強さの前に敗れてしまう。
「魔王様、申し訳ございません……」
そして静かに、大きな扉は開かれた。
勇者一行が足を踏み入れたその瞬間、世界の時は止まってしまう。
ある、二人を除いて。
ライとレイは、互いの姿を目にして驚いていた。
ライと多少その容姿は異なるものの、悪魔的な要素を除けばその青年は自らに瓜二つなのであった。
レイもまた、かつての人間であった自らの姿をその青年に重ねていた。
そしてふたりの心に、衝撃がはしる。
双子が、ついに再会を果たしたのであった。
思わずライとレイは、互いに駆け寄り見つめあう。
その瞳が交わると同時に、脳内には数多の記憶が流れ込む。
前世で双子の兄弟であったということ、そして今世でも双子の兄弟として生を受けたことを。
「ライ……、ライ兄さんなの?」
「レイ……?レイなのか……!」
兄弟は瞬時にわかり合い、そして熱い抱擁を交わしていた。
しばらくそうした後に、ライはわずかに離れてまじまじとレイの姿を見つめていた。
「それにしても……、なんだよその恰好。コスプレか?」
「違うよ。俺……信じられないかもしれないけど、悪魔になったんだ!」
その言葉に、ライはあることを思い出す。
兄弟で一時期夢中になっていた、とあるゲームの内容を。
運命の双子、それぞれの仲間たち、再び巡り会う時、そして愛の終焉を。
「レイ、この世界ってまさか……」
そしてレイもまた、同じような考えに至るのであった。
「これって、兄さんとよくやってたゲームの世界の中ってこと?」
ライはさらに、顔を蒼くさせていた。
「しかもこれ、BLゲームじゃなかったか?」
「全年齢だったよね?……えっ……!兄さん、誰かとくっついた?」
「回復薬の、クリスと……付き合った。……そっちは?」
「インキュバスのムウとだよ……。どうしよう!」
「ムウって、確かこのままだとお前は次期魔王になるんじゃなかったか?」
「えー!そんなの無理だよ、無理無理!魔王とか絶対に無理!」
ライの記憶によれば、この後の戦況は混沌を極めついにレイ自らが魔王の身を打ち倒し新たな魔王の座につき、この世界を支配するというものでもあったのだ。
「そうなったら、俺とお前とで戦わなきゃいけなくなる。それだけは、避けたいな」
双子は途端に、慌てふためく。
するとどうしたものか、怪しげな光がふたりの前に生み出され、とある画面のようなものが浮かび上がったではないか。
「レイ、これ……」
「“選択肢”だ……!」
それは、ゲームの世界で何度も目にした画面であった。
ライは思わず手を止め、浮かび上がる文字を指差した。
『和解』
『破壊』
『反逆』
三つの選択肢は静かに、しかし確実に二人に向けて迫っていた。
「どうする?」
と、レイは問いかける。
「反逆って、なんだったか……?」
「……兄さん、ここはやっぱり和解じゃないの?」
迷う二人の前に、残り時間を示すタイマーまでもが浮かび上がる。
刻一刻と迫る秒針に、ふたりは覚悟を決めていた。
「よし、和解にしよう」
そうライが決断を下すと、選択肢は一瞬で消え去り、周囲の異様な空間もすべて消失した。




