第34話:トンネルの先に
◾️ペンデンテス遠征
「ルース隊長!あれがシュイレーンです」
頭に金色の羽飾りをつけた兵士が馬上から指を指して振り向いた。
「相変わらず見事な街だ。水が清らかで作物がよく実り、民もよく働いておる。ただ…以前に寄った時よりかは閑散としているがな」
ルースは馬首を翻して、金色の麦畑のような兵士たちに叫んだ。
「隊に告げる!シュレーンを抜けてペンデンテスまではまだ山が険しく道のりがある、馬を休ませろ!ここで野営だ」
ルースは兜を脱いで馬から降り、見晴らしの良い崖の上で一服をし始めた。モクモクと上がる煙が、冷たい山風によって幽霊のように靡く。
(シビゲール様も何故急にペンデンテスを制圧しろなどと言い出したのか…。我々にはいつも作戦の真意を教えてくれないがーまぁ…所詮は駒ってわけだ。それにあのモルモンってやつ…目が気に食わんな)
兵士たちはゾロゾロと馬から降り、それぞれ天幕を設営し、火を起こし始めた。
見晴らしの良い丘の上には数十の煙が登り、煮込んだパン粥の濃い香りが辺りを満たした。
「隊長!俺が作ったお粥1番で食べてくださいね!隠し味を変えてみましたので、へへへ」
兵士の一人が叫ぶと、広大な景色を眺めているルースのその背中から、やる気なく片手が伸び出た。
◾️バラスの覚悟
兜に赤い羽飾りをつけた兵士が、長い廊下を走り、
バラスの部屋の扉の前で膝をついて叫んだ。
「バラス殿!バラス殿!斥候から緊急の知らせがあります!」
「何事か、入れ」
バラスは静かに自慢の髭を強く扱きながら、慌てる伝令の言葉に耳を傾けた。
「メルスマ聖鉄騎団が動いたのだな。ハハハ、これは覚悟しなければならないかもしれん。」
バラスはあんぐりと口を開け大笑いし、伝令の肩をガシリと掴んで叩いた。伝令兵は顔を上げて、不安そうにバラスを見つめる。
「各隊に告げてくれ、ベネロ街道に防衛線を張る。私もいくぞ!」
(…エリアス、アーレイよ…無事でいてくれ)
バラスは口元を引き締め、髭を揺らした。
窓の外からは、活気ある人々の掛け声がこだまする。そして黄金色の小麦畑に反射した光がバラスの顔を照らした。
◾️ザフィア西平原
バクロはレイトに松明を渡し、ぐったりしたダンケスを先にトロッコに乗せた。その時、鈍く軋む音がトンネル内を響かせた。
「くそ、車輪が緩んでる…調整が必要っぽいな、おい死に損…。」
バクロが俯いてるレイトに言いかけてやめ、大きなため息をついた。
「ミナリーン…トロッコに工具がないか見てくれ」
バクロの声が湿った壁に反響し、水滴の落ちる音だけになる。
「…レイトさんはもう大丈夫ですよーって」
ミナリーンがしょぼくれて俯くレイトの顔を、ヒョイと覗き込んだ。
「レイトさん、お呼びですよーって。ほらしっかり立ってください!」
「うん……わかった」
(俺は役に立たないどころか、しょぼくれてるだけなんて…。そこまで堕ちるのは嫌だ)
「…トロッコの中に工具があるはずだ、よく探してみてくれ」
レイトはトロッコによじ登り、松明を掲げて目を凝らした。床は汚れた布切れやロープが散乱している。
(これか…?)
備え付けの長いレバー隅に小さな赤い金属の箱が転がっているのが見えた。
レイトはトロッコから降りて、バクロに工具箱と松明の灯りを渡した。
「ありがとな、レイト」
「うん」
ミナリーンがニヤニヤと二人のやり取りを見ながら左右に揺れる。
ほどなくして一行はトロッコに乗った。
レイトが辺りを見回す。
「これどうやって動くの?電車…みたいに動くのかな」
「え?デンシャ…ってなんですか?」
「はぁ…知らねーよそんなもん、俺らで動かすんだよ、呑気に座ってないでこっちに来いバカ」
「…バ、バカって言うな!」
レイトが慌ててレバーにしがみついた。
バクロが長いレバーに手をかけて、体重をかけて手前に大きくひいた。トロッコが少し動き出す。
バクロとレイトは長いレバーを前後に押し合うと
トロッコは加速を帯びて勢いよく進み出した。
ガラガラゴトンゴトンと響き、靡く松明とともにトロッコは左右にうねりながら快速で進んでいく。
「もうそろそろだな」
レイトは目を瞑り、歯を食いしばってバクロに負けまいとレバーをひいている。
光の点が一行へ近づいてくるとミナリーンがおでこに手をかざし指をさした。
「あ!ほら…すごい!」
レイトが顔を上げると、眩い光と共に反響音が一瞬で消え去り、冷たい新鮮な風がトロッコを大きく揺らした。
「これは…」
歪に乱立したグレー色の建物、そして大地を大きく抉った大穴がいくつも点在した広大な景色が、レイトの瞳に反射して写っていた。
つづく。
2章を完結させました。
3章も予定しております。
また、タイトル名を「現実転生〜俺は女の子で最強になるらしい〜」から「凹の水平線〜ララバイゼロ〜」へ変更いたしました。
今後ともよろしくお願いいたします。




