第30話:新たなる白き魔物と氷魔法
◾️仲間の仇
奥の通路からダンケスの叫び声がこだまする。壁は結露で湿っており、一部崩れた天井から陽が差して奇妙に照らされている。
「どうした!ダンケス!」
バクロは叫んだが、反応はない。天井から染み出した水がピチャピチャと落下する音が響き渡る。
バクロはハチミツの瓶をミナリーンに押し付け、炭になった魔物がいた広間に走っていく。
レイトとミナリーンは顔を合わせて、すぐさまバクロの後を追った。
3人は松明の明かりで薄暗く照らされる広間に出ると、人影が宙に浮いたまま背を向け、奇妙に蠢いていた。
バクロが額に冷や汗をかきながら見上げる。
レイトとミナリーンも恐怖で顔を歪めた。
「…ダ、ダンケス…?!」
その人影は不規則に動き始め、ゴキゴキと音を鳴らして反転する。バクロが恐る恐る松明を掲げて周囲を照らすと、ダンケスの苦しそうな表情が映る。
ダンケスの体は、ピンク色のゴム状の平べったい紐のようなものに何重にもキツく巻きつかれ、宙に持ち上げられていたのだった。
口から血を流しぐったりしたダンケスの背後から顔を覗かせたのは、白い皮膚に緑の眼を持った巨大なカメレオンの魔物だった。
3人は驚いて後退りした。
「え…?さっき倒した魔物の仲間!?」
「クソ!よくも…!ダンケスを…許さねぇ!!!!」
バクロが腰から銀色の曲短剣を引き抜き、カメレオンに向かって突進する。
「レイトさん!私たちも!」
「ああ!」
ミナリーンがリボルバーを引き抜き、カメレオンに向けた。レイトも短剣を引き抜いて構える。
(クソ!この地下遺跡は魔物の巣窟なのか!?)
ダンケスを壁に投げ捨てられ、衝撃で土煙が立ち込める。カメレオンは口から3本のベロを、長槍のようにバクロに繰り出した。
バクロはサッと避け鋭く曲短剣を振り、ベロの1本を切り裂く。
切り裂かれたベロは主人を求めて、バタバタとのたうち回った。カメレオンはよろけて柱に頭を打ち、その巨体に支えきれなかった柱は砕け散り砂埃が舞う。
「ハハ、大したことねぇな!」
バクロが短剣に付いた血を振り払い、そう言いかけた途端、舞っていた砂埃が吹き飛ばされ、ベロがバクロへ直進する。
「っ!?」
ベロは刃物のように鋭く、バクロの頬を掠めた。カメレオンのベロは間髪入れずに反転し、生きた蛇のように追撃を繰り出す。
「バクロさん!!」
ミナリーンがリボルバーの引き金を引く。パンパンという射撃音が鳴り響き、青白い閃光がベロを貫き粉砕させた。
「…ふぅ、助かったぜ!」
「バクロさん!ほんとに死んじゃうとこでしたよーって」
レイトは2人の動きを目で追いながら、額に汗をかいて焦っていた。
(クソ、俺は…全然役に立たない!ミナリーンに頼るのはもう…ダメだ!自力でなんとかして見せなきゃ)
「うぉぉぉぉ!!」
レイトは叫びながらカメレオンに突撃する。左右の緑色の目がグリグリとレイトを追従した。
レイトが飛び上がってカメレオンに斬りかかろうとした時、急にレイトの視界からカメレオンが消える。
「!?」
静寂に包まれた広間で、ガサゴソという音が僅かに響き渡る。
バクロが辺りを必死に探す。
「アイツ!急に消えたぞ!どこいった!?」
「急に見えなくなっちゃいました…あ!」
その時、ミナリーンが松明の影が不自然に天井を動くのに気付き、指を刺して叫んだ。
「っ!上に!!!」
天井の色に擬態したカメレオンは大口を開け、レイトに向けてベロを槍の如く繰り出した。
「うわ!?」
レイトは眼を瞑って咄嗟に両腕で身を護ったが
突然ドンっと衝撃と共に突き飛ばされた。
一瞬の静寂が訪れる。
「おりゃぁぁぁぁ!!!アイツらの仇!!!」
レイトが眼を開けると、そこには血だらけのダンケスがカメレオンのベロを両手で握りしめていた。
バクロが希望に満ち溢れた声で叫ぶ。
「おおダンケス…!お前生きてたか!」
「お頭!このバケモノらは!大事な仲間を殺したんだ!無惨に!ここでぶち殺してやらないと…気が済まなねぇです!」
ダンケスの肩から胸にかけて深々と刺さるベロの隙間から、血が大量に溢れ出す。
「ぐはぁ…」
ダンケスが吐血する。
「ダンケスやめろ!それ以上動くと死ぬ!!」
「必ず殺してやる!!!!ああああああ!!!」
ダンケスは大声で叫び、全身でベロを引っ張った。限界値まで伸び切ったベロにカメレオンは、悶絶し奇怪な断末魔をあげる。
(なんて馬鹿力と生命力だ…おそらく全身の骨も折られて吹き飛ばされたのに)
「これで最後の一本だ!」
レイトは立ち上がり、カメレオンの伸び切ったベロを斬りつけ切断した。
バチンという音と共に、カメレオンの顔にベロが直撃、ふらついて地面に落ち土煙が上がる。
「もしかして、今なら…!もう一度くらい…!」
ミナリーンはリボルバーをホルスターに戻し、片手を颯爽と上げた。
「天から降臨せ…」
「待て!俺がやる!」
「えっ?!」
バクロがミナリーンに叫び、片手をサッと上げた。白い魔法陣が足元に展開され、キラキラと氷が舞い落ちる。
「天から降臨せし氷の隕石よ、我が手に力を宿し、闇に彷徨う白き魔物に懺悔の機会をくれてやる!」
ー氷隕石の力を見よ、『アイシクレイド』ー
つづく。




