第28話:電撃覚醒
◾️孵る黄金の女神
部屋の奥からガサっ、ガサっと音が聞こえる。
「父さん…何…やってるの…?」
レイトが襖を開けると、白衣を着たレイトの父親は、母の遺影を仏壇から持ち上げて無造作にゴミ箱に入れていた。
ゴミ箱にはすでに、レイトの母の生前の写真で一杯だった。
レイトの父は目に濃い隈をつけ、虚な目でレイトに振り返った。胸のネームプレートには『日本支部 宇宙生物研究チーム主任 上条正樹』と書かれている。
「零人、母さん…玲子はね…ここになんか居ないんだ。こんなものは慰めにもなら無い…滑稽なことなんだよ」
(……何を言ってるんだ今更、父さん…)
零人は呆れて天を仰ぐ。
(俺は母を知らない。生まれて間も無く死んでしまったと聞いただけだ。父さんとは殆ど会話をしないから、どんな人だったかってよく分からない。この男の妻だったという感覚しか無いけど、自分の母親を恋しいと思わなかったわけじゃない…だから)
「捨てるなんておかしいだろ!俺の母さんの写真でもあるんだよ、勝手に捨てるなんてふざけてる」
「玲子は…玲子はもっと素晴らしい世界で幸せに生きてるんだ!こんなとこで手を合わせるなんてこと…意味ないんだよ」
正樹は、哀れな笑顔を零人に向けた。
零人そんな父を冷ややかな目で見る。
(父さんは数ヶ月前から、仕事から帰ってくることが少なくなった。帰宅しても自室から出てこないし、いなくても変わらないんだ。でも…それでも、話したいことだって…いっぱいあるのに…)
零人は手に持っていた画用紙を握りしめる。
画用紙には、黄金の翼を生やした女神が卵から孵る絵が描かれており、第28回絵画コンクール入賞のシールが貼られていた。
「お前、それって…!?舐めた真似しやがって!!」
正樹が画用紙に気づくと、血相を変えて殴りかかってきた。
「わっ!!!!」
零人は避けようとしたが、恐ろしく体が鉛の様に重い。足がもつれて、転倒し頭を地面に強打する。痛みは広がり全身に鈍い痺れを感じた。
正樹は真顔で零人に馬乗りになり、拳を大きく挙げた。
「やめて!父さん!」
零人は必死に両手で顔を覆うが、あろうことか透明のようにその手をすり抜けて、顔面に一撃を喰らう。
重い衝撃は鋭く全身に響いた。
◾️電撃デルタ
レイトの体に青白い電撃が包み込み、ビリビリと音を立てる。
「わがががががあああああああ!!!」
レイトは叫んで起き上がった。その衝撃で荷車の車輪がメキメキと音を立てて壊れ、レイトは投げ出され地面に叩きつけられた。
「ぐあっ!」
(いてて、腰が…いったい何が起こった!?)
レイトは寝ぼけた様子で尻餅をついたまま周りを見渡した。東の方に大ピニアス塔の屋根に金色に輝く風見鶏が薄らと見える。
(今のは…夢か…?前世の記憶…なのだろうか…面白いことに気分は悪く無い……ん?)
レイトは鼻血が出ていることに気が付き、裾でゴシゴシと拭いた。カラスが鳴き始め、冷たい風が吹きレイトの頬を撫でる。レイトは徐々に意識がはっきりしてくる。
(そうだ!ミナリーンを背負って…確か廃宿に…。ここはどこだ??)
レイトが振り向くと、灰色の屋根がついた地下への入り口が目に入った。所々ひび割れて、剥き出しの鉄筋は赤く錆びてひしゃげている。
(前世で何度も見た地下鉄とかの入り口に似てる…。ザフィアの下水道といい、何でこんなに現実の建物っぽいものがあるんだ?)
レイトは立ち上がり、恐る恐る入り口の下を覗いた。長い階段の踊り場の上に、崩れかけた看板が下がっているのが見える。
レイトは書かれている文字を読んで驚いた。
「…東…線…?」
(えっ…殆ど掠れて読めないけど…日本語…に見えなくも無い…ここは駅!?)
レイトはもう一度振り返って、ザフィアの荘厳な石造りの街並みを見渡した。
(いやいや異世界だよな…?魔法があるんだぞ?建物も…ビルも無いし古風な木造建築もない、全然日本ぽくない。変な能力使いすぎて頭がおかしくなったのかもな、ハハ。そんなことよりミナリーンはどこに行ったんだろう)
レイトはその場でミナリーンを呼んでみたが、木の葉のざわめきしか応答がない。
(俺を置いて地下に…降りて行ったのか?)
レイトは今度は地下に向かってミナリーンを呼んだ。返事がないが、突き当たりL字通路の奥に青白い微かな電気がピリピリと這うのが見えた。
(電気…下かもしれない…)
レイトはミナリーンに借りた短剣を構えながら、階段を降りてゆっくりと降りていく。
(薄暗くて見えにくいな。ああ…クロスボウのライトがあれば…)
レイトは階段を降り切る手前で、あたりが松明の灯りで照らされていることに気づいた。
(誰かが住んでるのか?)
一歩踏み出そうとすると、人の声が微かに耳に入った。レイトはサッと壁沿いに隠れて聞き耳を立てた。
(女の声?ミナリーン!……あと……男の声!?まずい、メルスマ教会の奴らか!?)
レイトは急いで声のする方へ駆けた。
土埃が松明の光に照らされて、雲のようにのたうち回っている。
(わ…!)
レイトが急に立ち止まりゆっくりと見上げる。
目の前に大きな黒いシルエットが浮かび上がる。
「これは…黒い魔物…!?」
すると黒い魔物の背後からミナリーンの声がはっきりと聞こえた。
「誰?!」
「その声は、ミナリーン!?大丈夫か!!クソこの魔物が!」
ミナリーンがひょこっと黒い魔物の影から顔を覗かせた。レイトはキョトン顔のまま短剣を下す。
「え?」
「起きたんですね!この魔物、私がやっつけましたよーって、へへ」
ミナリーンは鼻の下を擦ってみせた。
すると、もう一つの影が、黒い魔物の影から出てくる。
「おう、やっと起きたのか死に損ない。もう応援は必要ないぜ?」
つづく。




