第27話:揺らぐ風前の灯火
◾️ペンデンテスの秘密
天井から青い塗装が施された煉瓦がガラガラと土煙をあげて崩れ、青天が広がる。
「わしの教会がめちゃくちゃだ…、モルモン、お前どう責任を取るのじゃ!しかも異端者共も逃げおったではないか!ええい!」
シビゲールがモルモンにピシャリとビンタをする。
モルモンは頬を赤くしてフラつき、膝をついた。
「申し訳ございません、シビゲール様。あの呪われた少年に放出魔法が使えるとは、思いもよりませんでしたので…」
シビゲールはモルモンを睨みつけて畳み掛けた。
「言い訳は無用だ!お前が仕留め損ねるとは情けない。まぁいい、あやつらのことはどうでもよいが、計画を忘れてはいないだろうな?」
モルモンは歯を食いしばってから、フッと笑ってこういった。
「シビゲール様、ご安心ください。当初の計画通り、メルスマ聖鉄騎団を派遣いたしました。彼らの機動力ならば数日以内にペンデンテスは火の海になることでしょう」
シビゲールとモルモンは被害の無い部屋へ移動し、長椅子に深く腰掛け、髭を撫でて大きくため息をついた。
「バラス子爵には残念だが、これが一番手っ取り早いのだ。普通ならば娘を人質に手駒のように使うか、呼び出して殺し、子爵をすげ替えることは容易い。」
シビゲールは葉巻を取り出して口に咥えると
モルモンは颯爽と火をつける。
「しかし、バラス卿は優秀で人望も厚く、土地を豊かにして領民にも慕われている。だからそのような印象の悪い手段は我々のメンツが丸潰れだ。」
「そして、秘密裏に古代遺跡の遺物を要求するのも、あらぬ噂が立つ…つまり異端の罪を問うて領ごと取り上げる方が早いのだ。大隕石の暴走は刻一刻と進んでおるのだからな」
タバコの煙が天井にへばりつき、広がり始める。
「世間に知られず対処しなければならない、秩序のために」
モルモンが顎に手を当てて頷く。
「仰るとおりでございます。ペンデンテスには、そこらにある価値のない古代遺跡とは違い、『反魔力装置』が保管されておりましたので、そのような代物を秘密裏に移動させても、必ず目をつけるものがいるでしょう」
シビゲールは急に笑い出す。
「ハハハ!お主のおかげだな、前世は悪魔か何かだったろう」
モルモンは窓の外に視線を逸らし、憂いた目でつぶやいた。
「悪魔…ですか。私が、そう見えますか?」
モルモンはシビゲールの方を向き直し、氷のように冷たい目を向けた。シビゲールはその目を見て誤魔化すように咳払いをした。
「と、ところでだ、あの氷魔法を使っていた小娘はどうなった?遺体は綺麗に片付けたのか?」
モルモンは静かに首を振った。
「あの娘はグリニードの孤児の生き残りでしてね…そうそう死にませんよ。というか、私が死なせておりませんので」
シビゲールは怪訝な顔をした。
長くなった葉巻の灰がポロリと床に落ちる。
「お前…まさかアレを使ったのか…?」
「シュイレーンの洞窟のこと覚えておいでのようですね。リヴァイアサンに実験として使用した再生能力の高い…」
モルモンがニヤリと笑う。
「そして、使役魔法を付与している隕石の欠片です」
◾️地下牢の残火
「ここを出しなさい!!そこの男!ねぇ!聞いてるの!アーレイはどこ!ねぇってば!!!」
ジメジメと湿りネズミが這いまわる牢、そして赤く錆びた鉄柵が、無慈悲にエリアスを閉じ込めている。
ガタガタと鉄柵を揺らす音が牢獄中に響く。廊下の奥から無精髭を生やした男が鉄柵に近づきエリアスの顔を覗く。
「お嬢さんよ、もう勘弁してくれないか?うるさくて昼寝もできやしない。前に放り込んだ銀髪の女の子の方がよっぽど静かだった」
「あんた達、アーレイをどうしたのよ!」
「ん?アーレイ?あの銀髪の子はアーレイというんだな。綺麗な子だったけど、貴族では無さそうだったから、異端となれば破門どころか即処刑だろうなぁ、もう少し待てばいい女になったはずなのに」
エリアスが動揺し目が泳ぐ。
「処刑…?!」
「お嬢さんは貴族らしいから、すぐには殺されないだろうけど破門は待った無しだろう。これから先大変な人生が待ってるはずさ、あーあ世知辛いねぇ」
エリアスは鉄柵をバンバンと叩いて男を睨みつける。
「ふざけないでよ!処刑なんて…そんなことお父様が許さない!クソ男が!」
男は呆れたように首を横に振り、肩をすくめてみせた。
「強気でいられるのもこれで最後だろうから、何も言わないよ。そして、君のお父さんも、同じ運命を辿るだろうからね」
エリアスは膝から崩れ落ちる。無精髭の男が廊下の奥へと消えていった。
「レイト…助けて…」
つづく。




