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第24話:巫女の運命

◼️ミナリーンの目的


ミナリーンは鉛のように重いレイトをなんとか横に寝かせて、震える手で患部を止血しようと服を破いた。


胸から顔まで伸びた黒い紋様の本体があらわになる。


(こんなに広がってる…!?レイトさん今まで辛かったよね…)


ミナリーンはカバンからタオルを取り出して、血で覆われた患部の周りを拭いてから押し当てようとした。


「え…もう血が止まってる!?」


傷口は鉄筋の周りを囲むように綺麗に包まれていた。すでに出血は無く、レイトの呼吸も正常そうに見えた。


「胸を貫通してるのに…呼吸が安定してる…これも呪いのせい…?」


ミナリーンは額に大量の冷や汗をかきながらも、タオルを押し当て、恐る恐る鉄筋に手を当てた。


「痛くないように…ゆっくり…ゆっくり…」


ミナリーンが鉄筋を引き抜くと、レイトの胸から伸びた黒い紋様が、まるでタコが穴に隠れるようにグニャグニャと包み込み、傷口は完全に塞がれた。


ミナリーンはレイトを安静な場所で寝かせようと部屋中を回った。どの部屋も蜘蛛の巣と埃まみれの棚、割れて放置された食器などが散乱している。


廊下の奥を見ると手すりが腐食し、崩れかけた階段を見つける。暗闇の中手探りで2階に上がり部屋のドアを開けた。


「ここは…寝室のようね」


ミナリーンは埃まみれのベッドにカバンから出したもう一枚のタオルを丁寧に敷き、部屋を戻ろうとした時、大きな鎌が壁に刺さっていることに気づいた。


「これは…アーレイさんの…、あの後どうなっただろう、私は気絶しちゃって何も分からないけど…たぶん助けられなかったってことだよね…」


ミナリーンは曇った表情のまま、大鎌を引き抜き壁に立てかけた。同時に壁にかけてあった絵画が落ちる。


ミナリーンはそれを拾い上げてで埃を払った。


(これ…氷隕石の大地『グリニード』に似てる、昔絵本で読んだことがあるけど、大戦争があってたくさん人が亡くなったって聞いた。アーレイさんもグリニード出身だとしたら…)


ミナリーンは2階までレイトを引き摺りあげ、ベッドに寝かせた。全身から汗が吹き出す。


「ふぅー、これでゆっくり眠れますよーってレイトさん。ちょっと壁が壊れてるけど、見晴らしがよくて、月明かりが綺麗じゃないですよ…見てくださいよ」


ミナリーンはベッドの横で体操座りをして、起きる気配の全くない彼を不安そうに見ていた。


(…このままじゃいずれ見つかっちゃうかもしれないし、エルアスさんたちの窮地も変わらない、そして私の目的も…)


ミナリーンはうとうとしながら、神殿で魔力を診てもらった時の事を思い出した。



            ー回想ー



「雷魔法なんぞ別に使えなくともいいじゃろう。魔物退治だけが全てではないのじゃから、冒険者を辞めて、大人しく親の手伝いでもするがよい」


白いローブを着た神官は、ミナリーンの首に下げてある冒険者カードを見ると険しい顔で、そう言った。


「ち、違うんです…わ、私、冒険者をしたくてしてるわけではないんです…ここに来るまでの旅費稼ぎとして、一番仕事の多い魔物退治をしてるだけなんです。」


そして、ミナリーンは俯いて自分の本当の目的を話した。


「私の母は…大雷国メルタデンテの巫女なんです。だから毎年、国内に祀られてる大隕石に祈祷を行っていて…」


「ほほう、それでそちは娘だから後継のために魔力を安定化させたいという事じゃな?確かに大隕石の祈祷が滞る、あるいは暴走した魔力を注げば魔物が急増する現象のことは知っておるが…」


「そうです!なんとかできませんか?私、冒険者の仕事で雷魔法を使ってきたんですけど、全然安定する兆しがなくて…ちゃんと診てもらいたいんです」


ミナリーンは本気の眼差しを神官に向けて懇願した。


「うーむ、仕方ないのう…」


神官はミナリーンに両手をかざし、静かに目を閉じた。しかし、すぐに目を開けて哀れな顔でミナリーンを見た。


「確かに、魔力は異常なほど大したものだ。代々隕石の加護を強く受ける巫女の血筋…というのも嘘ではなさそうだ、しかし…」


ミナリーンの顔は曇り始める。


「無理じゃ。そちの体を巡っている雷の魔力は安定させるというよりも、暴走している状態が常のようじゃ。特性、個性と言えるじゃろう」


「と、特性とか個性だとかじゃ困るんです!大事な使命があるのに何もできないなんて!」


神官は背を向けてこう言った。


「もう安定させようとするのはやめなされ、大隕石の思し召しかもしれん。」


「例えば、我らが炎の大隕石の祈祷を行なっている巫女も、使い物にならなくなれば代わりの者を立てている。祈祷を継続維持するため、現に役に立つものだけがいればよいのだ」


「そちは、自らのみが大きなものを背負っていると焦燥感に駆られているが、巫女なんぞ代わりはいくらでも用意できるのじゃ、小娘よ」


ミナリーンは俯いたまま口を固く閉じ、裾を強く握りしめて顔をあげて言った。


「それでも、私は使命をまっ」


神官は振り向いて、言葉を遮るように言い放った。


「グリニードの巫女は自らの魔力を過信し、亡国を招いたのだ。その結果がここザフィアの西地区(特別区)の有様だ。」


「かつては上手く…共存していたのだ。今は落ちぶれ者やならず者の巣窟と変わり果て、かつて両国の親交の証として、西地区の教会から城外の氷聖堂まで繋がっていた神聖道(ホーリーロード)も封鎖され廃坑と化している。」


「自らの力を見極められず、同じ轍を踏みたくなければ、巫女を辞めて普通に生きるしかないのう」


神官が大口を開けて笑いながら、疎ましさを滲ませた目を向け、その顔がどんどんミナリーンへ迫ってくる。


「!?」


ミナリーンは強い恐怖を感じ、手で振り払おうとした。





◾️神聖道(ホーリーロード)


突然の動きに驚いた体によって、ミナリーンは飛び起きた。いつの間にか眠ってしまっていたようだ。


すでに朝日が昇っており、眩しい日差しが壊れた壁から、埃臭い部屋とレイトを照りつけている。


「朝…、あの人達がここを探しにくるかもしれない。早く逃げなきゃ」


ミナリーンは神官の言っていたことを改めて思い出した。


(そうだ、西地区から城外に繋がってる道があるって神官が言ってた!そこから外に出られるのかな…?)


ミナリーンは人形のように動かないレイトを揺り起こそうとした。


「レイトさん!レイトさん!起きてください!」


(ダメだ!起きる気配がない…背負っていくにはレイトさんは重すぎる…!)


ミナリーンは1階に降りて行き、廃宿の外に出た。

あたりを見回すと草むらに放置された苔だらけの小さな荷台を見つけた。


(やった!ちょっと汚くて壊れそうだけど、車輪がまだ生きてる!)


ミナリーンは2階に戻り、またしても必死の思いでレイトを引きずって荷車に横にさせた。


「ふぅーー、でも、どこにその神聖道(ホーリーロード)があるんだろう…?」


ミナリーンがあたりを見回しても、まばらな廃屋と生い茂る草むらしかない。


(そうだ…教会から繋がってるって言ってた!でも大ピニアス党以外の教会を見たことがない…どこだろう)


突然、草むらから複数の人間がワラワラと踊り出て来た。ミナリーンは驚いて、レイトを庇うようにリボルバーを抜いて構えた。


リーダー格の者が前に出て舐めるようにミナリーを見て言った。


「おいおい、そんな物騒なものをこっちに向けんなよ。おっと…よく見たら超可愛いじゃん、一緒に遊ぼうよ」



つづく。

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