第23話:魔力融解
◾️アーレイとの覚醒
うつ伏せで包帯の間から血を滲ませているアーレイは、強くレイト腕を掴んだ。
「レイト…殿…お逃げ…ください…」
レイトの腕に冷たい感触が伝い、氷の魔力が纏い始め、空気中の水分が凍って雪のようにキラキラと散った。
「嘘…だろ?これって…」
アーレイが静かに吐血、両目から血を流してぐったりする。呼吸が弱くなっていく。
「アーレイ…なんで…そんな…」
胸の黒い紋様がレイトを蝕み、顔まで伸びていく。
「あああああああああ!痛い!痛い!痛い!」
モルモンが不敵な笑みでレイトとアーレイを見る。
「雷の次は、私と同じ氷ですか…、ハハハ、面白い!しかも見える、見えるぞ!彼女の規則正しい魔力は…流れ出ていく、まるで氷が溶けるようだ!素晴らしい!」
「ああ、健気なことだ…心が痛むよ、さようなら醜い少年よ」
モルモンが右手を前にサッと振りかぶる。複数の円盤状の氷が、空気を切り裂き同時にレイトへ突き進む。
「あああああああ、もう、やめてくれ!!!!」
レイトは目を瞑って横たわるアーレイに覆い被さった。
衝撃波がドンと教会中に広がり、屋根で毛繕いしていた鳩が一斉に飛び立つ。
レイトは全く痛みを感じなかった。
パラパラと氷のカケラが降り注ぐ。
「何が起こった…?」
レイトが目を開けてモルモンの方を向くと、目の前いっぱいに黒い模様が描かれた氷の壁が広がる。モルモンの姿は見えない。
「これは…?!」
次の瞬間、轟音と共にレイトの居た床が崩れ落ちマンホールの下まで崩れ落ちる。ミナリーンも意識を失ったまま引き摺り込まれる。
「わっーーーー!!」
レイトは床下に転がり落ち、下水道の壁に強く肩を打ちつけた。崩れてむき出しの鉄筋がレイトの左胸を貫通する。
「ぐぁ…!」
(え…体が…おかしい、全然痛くない…!?)
吐血したレイトは状況が掴めないまま、なんとか起き上がり、土煙が上がる方を見上げた。
広間全てを氷で埋め尽くした背景に、力無く横たわるアーレイが見えた。
「アーレイ!今…助けに行く…」
レイトは胸からドロドロと血が漏れる。一歩踏み出すと横たわっていたミナリーンに躓き倒れた。
モルモンの声が遠くから聞こえてくる。
「まーた教会が壊れてしまいましたよ…どこまであなたは私をシビゲール様に叱らせたいのですか?ハハハ、まぁいいでしょう」
双剣を引き抜く音が鋭く響き、氷の壁がバキバキと破壊される音が聞こえ始める。
(やばい…このままじゃ…)
レイトはミナリーンの顔を真剣な眼差しで見た。
彼女は土埃を被ってもなお気絶している。
(ミナリーンを助けなきゃ…ごめんアーレイ…そしてエリアス!!)
レイトはミナリーンを精一杯の力で背負い、薄暗い下水道の道を駆けた。
(追ってくる!急げ!急げ!急げ!!)
レイトは血を流しながらもミナリーンを背負ったまま、颯爽と下水道の道を進んだ。
歪に曲がった鉄柵の排水溝の出口から出て、レイトは路地裏を通り城門の方に向かった。大ピニアス塔の方から大きな鐘の音がゴーンゴーンと忙しなく響く。
レイトが影から城門を覗くと兵士が騒がしく動き回っていた。
「緊急事態だ!城門を固く閉じ、持ち場につけ!」
城門の兵士は厳戒態勢に入っていた。街を巡回中の隊列を成した兵士達が抜刀し大ピニアス塔の方角へ駆けていく。
「クソ!こっちはダメか……ぐぁ!」
レイトは膝をつき、吐血した。
(痛くないのに、もう体が言うことを聞かなくなってきた。でも倒れるわけにはいかない、ミナリーンを守らなきゃ!!)
レイトは頬に涙を流しながら、必死に立ち上がり西の方角へ進んだ。
(なんで俺、泣いてるんだ…泣くな!泣くな!)
路地裏を隠れるように進むと、廃民家がまばらに存在する木や草むらが生い茂った場所に出た。
「西の地区はやっぱり”異端者”にうってつけの場所だな、ハハ…」
レイトは壁の一部が壊れたボロボロの廃宿の中に入り、床にミナリーンを寝かせた。
レイトは壁に寄りかかりしゃがんだが、一瞬の安堵が強烈な眠気に変わる。
(なんとか…ここまで来た…俺、結局何もできなかった…エリアスも救えず、無理に助けに行かなかったらアーレイは…少なくとも…」
レイトはガクンとそのまま気絶した。血は相変わらず鉄筋の先から流れ出て、血溜まりができていく。
屋根のカラスが鳴き出し、強烈な夕日がミナリーンの顔を照らす。
ミナリーンはバッと起き上がった。
「…ん?ここは?…レイトさん?こんなに血が…レイトさん起きて!起きて!死んじゃダメだよ起きて!」
ミナリーンが子供に泣きじゃくりながら
赤い人形のようなレイトを揺さぶり続けた。
つづく。




