第19話:成長
◾️目覚め
全身を包む温かい感覚と、草木の生える土の匂いで
レイトはゆっくりと意識を取り戻した。
「……ん?」
レイトが瞼を開くと、綺麗な顔が目の前にぼんやりと映る。膝枕をされていた。
「…」
レイトはまだ呆然としていた。
(ああ…何も考えられない。夢を見るようなふわふわした感覚だ。そして身体はちっとも動かないや。)
(目の前に見えているのは…また、あの人形だろうか…?)
(しかし…綺麗な人形だ、女神のように美しい。目がぼやけてても輪郭だけでわかる。また…見ることになるとは…)
「…さん!……イトさん!」
今度は、人形から話しかけられているようだ
(…?、人形が喋り出すなんて…頭がおかしくなったのか?)
「レイ…さん!聞こ…ますか!?、わ、…、…ナ…
ですよ!」
レイトはまた目を閉じ、深い眠気に引き摺り込まれ意識がはっきりしない。前世の記憶と交差し朦朧としている。
レイトの記憶は突然、色々な場面に切り替わる。
(そこにいるのは…お父さん?怖くて身体が動かない…行かないで…置いていかないで…)
レイトはうなされ始める。
(ここは…学校?あれは同級生か?みんな俺の周りにいる…笑顔を向けてる…?でもすり抜けて掴めない…寂しい…)
レイトは一生懸命に身体を動かそうと試みるが
指先が少し動く程度だった。
(最初に見たあの人形がこちらを覗いて微笑んでる…何か…棒を持って部屋の隅を掃除している…なんだあのポッドみたいな機械…)
レイトの額に冷や汗が溢れる。
(落とした小説…眩い光…やばい、死ぬ!)
「うわ!!」
レイトは身体をビクっとさせ、驚いてバッと上半身を起こした。
レイトに頭突きを喰らった綺麗な顔は、ガラガラガッシャンと音を立てて、積み上げられた埃まみれの箱の後ろにひっくり返った。
「俺、気絶してたのか…というかここは…」
レイトはキョロキョロとあたりを見回すとそこは、街道傍に打ち捨てられた狭い小屋であることに気づく。晴れた窓の隙間からは荘厳なザフィアの城門が見える。
レイトは頭痛により体制を崩して壁にもたれ掛け、後頭部をさすった。
箱の下からガサゴソと何かが出てくる。
ゾンビのように匍匐前進をしながら出てきたそれは、なんとミナリーンだった。
「うぐぐ……あ、レイトさん!意識が戻って良かったです!」
ミナリーンは赤くなった顎をさする。
レイトはミナリーンの顔を見て驚く。
「どうして…ミナリーンが…?!」
ミナリーンは恥ずかしそうにモジモジしながら目を逸らしてレイトに答えた。
「私…あの後、神殿で魔力を診てもらったんですけど、不安定なのは体質だから治せないーって…当日で追い返されちゃいました」
ミナリーンは俯いて大きなため息をついた。
「もういいやーって、故郷に帰ろうと思って、馬車に乗ってたら、城門出たところで寝てるレイトさんを、馬車の窓から見つけたんです。」
ミナリーンが身振り手振りで説明し始める。
「レイトさん、酔っ払って寝てるのかなーって思ったら…全然意識が無くて私、ビックリしたんですよ!」
そして、ミナリーンが思い出したかのように
レイトを見て首を傾げた。
「そういえば、エリアスさん達はどうしてるんですか?」
レイトはハッと我に返り
血相を変えて立ち上がった。
「そうだエリアス!?エリアスとアーレイを助けにいかなきゃ!殺されるかもしれない!」
すぐさまミナリーンが、レイトの腕を強く掴んで引っ張った。
「レイトさんダメですよ!城門まで来たら門兵さんに『コイツは出禁だ』って…」
「馬車から降ろされた挙句に、私も入れなくなっちゃったんですから。これ以上近づいたら私たちが殺されちゃいます…レイトさん何やらかしたんですか!?」
レイトは昨夜のことを思い出し始め、膝をついて項垂れた。
「あの後、確か…アーレイが外出したまま帰ってこなくて、エリアスを置いて探しにいって戻ったら、メルスマ教会の兵士に連れて行かれてて…」
レイトは頭を抱えた。
「そう…助けに行ったんだ…」
ミナリーンの顔が曇る。
「でも…どうしてエリアスさんもアーレイさんも…その…捕まっちゃったんですか?」
レイトは大声をあげて地面に突っ伏した。
「くそ!隕石の欠片が…集めたらそこまでダメなものだったなんて…!エリアスとアーレイが危ないんだ…」
(最強の斬撃が放ててからずっと、この世界が自分に都合の良い方に回ってると思い込んでた。)
(俺がこの世界に来なかったら…そもそもエリアスに会わなければ…隕石の欠片の旅なんて無かったはずなんだ!あれだけ警戒していたアーレイが帰ってこなかった時、なぜもっとエリアスの事を考えて一緒に逃げなかった…?)
レイトは激しい自問自答を繰り返す。
(そうやって前世でも、他人に良い顔したくて、実は他者の行動なんて自分のための背景…どうでもいいと思ってたんだ…何が英雄の旅だよ、ふざけるな。ああ!とんだクソ野郎だ)
レイトは思いっきり頭を壁に打ちつけた。
額からはぬるい血が流れていた。
「何やってるんですかレイトさん!やめてください!」
ミナリーンが背中の革製品のリュックからハンカチを取り出してレイトの額に当てた。
「隕石の…?、隕石の欠片を集めてたんですか?全然知りませんでした…」
レイトは暖かい温もりがハンカチ越しに伝ってきたのを感じ、少し落ち着きを取り戻した。
「ご、ごめん…ミナリーンには迷惑かけたくなかったから言ってなかったんだ。」
「で、でもきっとエリアスさん達は大丈夫ですよ…。メルスマ教会も貴族であるエリアスさんを、すぐに何かしたりしないはずです」
レイトはミナリーンの方をゆっくり向いた。
「ハハ…ありがとう、ミナリーン。でも俺全然ダメダメだ。仲間1人すら守れなかった…。そして、何もできないことも忘れてたみたいだ」
レイトが自分を嘲笑し始める。
「俺は英雄ごっこして遊んでただだけ、仲間に縋り付いてこの世界で…いや前世と同じかもな」
レイトは肩を震わせて笑い始める。
ミナリーンはレイトの頭を優しく撫でてこう言った。
「私のお母さんは、いつも魔法の練習に失敗して泣いていた私に、こう言って私を慰めてくれたんです。」
『今の自分が既に凄いから”さようなら”って名残惜しくて泣いてるの』
ミナリーンは静かに微笑んだ。
つづく。




