第2話:再会と貴族の陰謀
◾️ギルドでの再会
スライムの群れを倒したレイトとエリアスは、洞窟での依頼を終え、街へと戻ってきた。ギルドの受付嬢は、魔法も使えないレイトがDランクの任務を完遂したことに驚きを隠せない。
「信じられない……。たった一人で、この洞窟の任務を?採採集クエストとはいえ、魔法が使えないから戦えず尻尾を巻いて帰ってくると思ってましたが…」
レイトは得意げにエリアスを紹介しようとするが、エリアスはそっぽを向いて、受付へと向かった。
「……べ、別に、あんたと一緒に戦ったわけじゃないわ」
そう言いながら、彼女は懐からスライムの核をいくつか取り出し、受付嬢に渡した。受付嬢が報酬を計算し終えると、エリアスは半分をレイトに差し出した。
「これ、受け取りなさい。べ、別に、あんた一人じゃ無理だったからじゃないわよ。たまたま……私の魔弾が当たらなかっただけなんだから!」
口ではつれない態度を取りながらも、エリアスは正直に共同で戦ったことを認めていた。レイトは、そのエリアスの不器用な優しさに、思わず笑みがこぼれた。
薬草を換金し、少しまとまったお金を手に入れたレイトは、エリアスと共同生活を始めることを提案した。
「俺、まだ全然この世界のこと知らないし、エリアスも家出中なんだろ? しばらくの間、一緒に暮らさないか?」
「ふん、あんたみたいな無能と一緒にいるメリットなんてないわ」
そう言いながらも、エリアスの表情は少しだけ和らいでいるように見えた。結局、彼女はレイトの提案を受け入れ、二人は街の小さな宿屋に部屋を借りることにした。
◾️偽りの能力と、消えた自信
翌朝、レイトはエリアスとともに冒険者ギルドを訪れた。
ギルドの掲示板には、多くの依頼が張り出されている。レイトは**「女の子と手をつなげば最強になれる」**という能力を試すべく、エリアスに手を差し出した。
「エリアス、手をつないでくれないか?」
「はぁ? 何言ってるの、馬鹿じゃないの?」
エリアスは呆れた顔でレイトの手を払いのける。
「いいから! 俺の剣を見てくれ!」
レイトは、強引にエリアスの手を取り、その力を剣に宿そうと試みた。しかし、何も起こらない。剣はただの鉄の棒のままだった。
「……あれ?」
レイトは首をかしげる。昨日、スライムの群れを倒した時は、確かに剣が炎を帯びたはずだ。
その光景を見ていたギルドの冒険者たちは、レイトを嘲笑った。
「ハハハ、なんだあいつ。ただの素人か」
「魔法も使えないくせに変な真似しやがって」
「無能が女の子にすがってやがる!」
レイトはひどく落ち込んだ。能力が使えないだけでなく、エリアスとの関係も気まずくなってしまった。
その日の夜、レイトは宿屋の部屋で一人、剣を握りしめながら考え込んでいた。どうしてだ? どうして、あの時は炎の魔法が使えたんだ?
レイトは、昨日の戦闘を必死に思い出そうとする。**スライムの攻撃、エリアスの焦り、そして恐怖。**そうだ、あの時、俺は死を覚悟したんだ。その恐怖から、とっさにエリアスの手を掴んだ。
「もしかして、あの能力は、俺が心の底から危険な状況に陥った時だけ発動するのか?」
レイトは、自分の能力の真実に気づき始めた。
◾️現れた侯爵、そして隠された目的
翌日、レイトはエリアスにその仮説を打ち明けた。
「昨日、手をつないでも何も起こらなかったのは、俺が心の底から危険を感じていなかったからだ。きっと、本当にヤバい時しか発動しないんだと思う」
エリアスは「ふーん、馬鹿らしい」と興味なさげに答えるが、レイトの言葉に何かを思い出したように、自らの杖を取り出した。
「あんたは、この魔銃の仕組みも知らなかったわよね。杖が触媒として魔法を放つことに使えるのに対し、魔銃は、魔法を付与させた**魔導弾**という弾を装填して撃ち出すのよ。」エリアスは少しふてぶてしく説明した。
「私は…体に魔力があるにも関わらず…杖で魔法が使えない。つまり、この魔銃に頼りきりってこと。あんたが『本当にヤバい時しか使えない』って言った気持ち、…少しわかるわ」
エリアスはそう言い、レイトに微笑みかけた。二人は互いに特別な能力ではないことを知り、初めて心を通わせた。
そんな中、ギルドの受付嬢が慌てた様子でレイトたちに駆け寄ってきた。
「レイトさん!エリアスさん! マードック侯爵家の方から、お二人に至急お会いしたいと連絡が来ています!」
マードック侯爵家。
それは、エリアスの実家だった。
侯爵の屋敷に連れて行かれたレイトとエリアスは、彼女の父親であるバラス・マードックと対面した。
部屋の奥には、中年だが筋肉隆々とした男が椅子に腰かけていた。整えられた貴族のような髭を蓄え、その瞳は威厳に満ちている。
「エリアス! 無事だったか!」
その威厳に満ちた男は、立ち上がるとエリアスを強く抱きしめた。その大きな手は、エリアスにとって何よりも安心できる場所だった。
「お父様……ごめんなさい……!」
エリアスは、父親の胸で涙を流しながら謝った。
侯爵の表情は、一瞬だけ悲しみに満ちたが、すぐに冷徹なものへと戻った。彼はレイトをカッと見つめ、「お前が、うちの娘を誘拐したのか?」と脅しをかけた。
エリアスは必死に弁解する。
「違うの!レイトは私を助けてくれたの!」
しかし、バラスは聞く耳を持たず、「お前のような、魔法も使えない人間が、うちの娘に近づくとは……。何か能力があるかと期待したが、どうやらただの悪い虫だったようだな」と轟く風圧と共にレイトを侮蔑した。
レイトは悔しさと怒りを覚えた。
「違います! 俺には……能力があります!」
レイトは、エリアスとの共同戦線の能力について話した。
バラスは、レイトの話を聞き、にやりと笑った。
「面白い……。その能力…屋敷についてこい」
筋骨隆々のバラスがレイトの前に壁のように立ちはだかる。
まるでレイトは小人のようだ。
レイトは、侯爵の言葉の裏にあるものが何か分からなかった。この世界は、俺が思っていたよりも、上手くいかず危険な場所なのかもしれない。
お義父さんって呼んでもいいですか?
いや、殺されるかもしれない。
つづく。