第10話:仲間
◼️甘いソルベ
リボルバーの改造を終え、一行は賑わう水の都シュイレーンの大通りに出ていた。錬金術師の店を出てから、エリアスはどこか不機嫌そうにレイトの半歩後ろを歩いている。
「ねえ、なんで私までこんなところに付き合わなきゃいけないのよ!変態爺さんの話なんて聞きたくなかったのに」
エリアスが頬を膨らませて愚痴をこぼす。
「まあまあ、エリアス様。せっかく水の都に来たのですから、名物の『虹色ソルベ』でも召し上がりませんか?綺麗な水でしか作れないものらしいですよ
」
アーレイは周囲の喧騒に動じず、冷静に提案する。その言葉に、ミナリーンが目を輝かせた。
「虹色ソルベ!私、ずっと食べてみたかったんです!」
結局、一行は町の中心にある大きな噴水が見えるカフェテラスに腰を下ろした。
変わる視線
レイトの目の前には虹色ソルベが三つ。エリアスは一口食べると、途端に不機嫌な顔が溶け、口元をソルベで汚しながら夢中になっている。
ミナリーンは、感激したようにゆっくりと味わっている。
そんな中、レイトだけが、何も注文せず、ぼんやりと噴水を眺めていた。
(…吸魔体質。魔物になる可能性…)
老人の言葉が頭から離れない。前世で妄想していた愛される英雄を少し夢見ていたのに、持っている力は、誰かから**「奪う」力。しかも、女の子を傷つけ、自らも「魔物」**に成り果てるかもしれない呪い。
その時、エリアスがスプーンをカシャンと皿を置き、レイトを睨みつけた。
「あんた、さっきからなによ。せっかくの美味しいソルベの前で、暗い顔して!」
「ごめん、ちょっと考え事をしてたんだ」
「どうせ、あの爺さんの話でしょ!魔物になるかならないかとか、どーでもいいじゃない。…あんたなんか、魔物になったって私が倒してあげるわよ!」
ミナリーンがテーブルから落ちそうなスプーンを慌ててキャッチ。しかし体制を崩してひっくり返る。
「エリアスの言う通りだ。俺の力は呪いで、みんなを危険に晒すかも知れない。俺が…魔物になったら迷わず殺してくれ、ハハ」
「馬鹿ね!」
エリアスが突然、カフェ中に響くほどの大声を出した。周囲の視線が一斉に集まる。
「ど、どうしたの、エリアス?」
レイトが目を丸くする。
エリアスは顔を真っ赤にして、テーブルの下でギュッと拳を握りしめた。
「呪いだとか、危険だとか、勝手に決めつけないでよ!私にだって、あの時、あんたの力を借りて倒したことを、今でも悔しく思ってるのよ!」
エリアスは俯き、ソルベの皿を見つめて言葉を続けた。
「私が弱かったから、あんたの**『変態能力』**が必要になったんでしょう?私の魔力はあんたなんかに吸い尽くされないくらい強い。だから…あんたが変態だろうが、魔物になろうが、次に戦いが起こっても、私一人で立っていられるくらい、もっともっと強くなってやる!」
エリアスの言葉の裏には、「レイトの危険な力を、私に使わせないようにする」という強い決意と、「勝手に諦めて私から離れていくのが嫌だ」という不器用な愛情が込められていた。
(…否定されたかった『役立たず』を、エリアスは否定しなかった。彼女は、呪いを持った俺ごと、必要としてくれている…?)
そんなこと…俺にあっていいものなのか?
その横で、アーレイはいつもの無表情を保ったまま、ソルベを静かに口に運んでいた。
(…エリアス様は、レイト殿という光を得て、ご自分の内にある素直な感情を言葉にできるように…そして、自ら強くなろうとされている。それは、バラス様にとって、最良の結果…)
アーレイの冷たいはずのソルベの味は、なぜか少しだけ苦く感じられた。
(私は、恩を返すためにエリアス様を支える。それが私のすべてだ。老人の言った通り、レイト殿の力を吸う出口がない…私のこの規則正しい魔力は、私とレイト殿を結びつける接点を、持たないということ…)
アーレイは立て掛けてあった大鎌を見つめた。
◼️古都ザフィアに向けて
カフェを出た後も、エリアスはレイトの顔をまともに見ようとしない。レイトは嬉しさと戸惑いで、しきりにエリアスに話しかけた。
「エリアス、今の言葉…」
「もういい!忘れて!ソルベが美味しかったって話よ!」
そんな二人を微笑ましく見つめるミナリーン。彼女はレイトに、改造されたリボルバーを見せながら言う。
「レイトさん、私、リボルバーが6発も撃てるようになったんです。これで、次の旅も安心です!」
「次の旅?」レイトが尋ねる。
ミナリーンは頷き、続けた。
「はい。もともと私は、古都ザフィアの大きな神殿で、自分の不安定な魔力について相談に乗ってもらおうと旅をしていたんです。錬金術師のお店を見つけるのが先になっちゃいましたけど…。レイトさんたちはどこへ向かうんですか?」
レイトとエリアスは顔を見合わせた。レイトは頷き、ミナリーンに答えた。
「俺たちの旅も、次の目的地は古都ザフィアだ。ちょっと集めてものがあって。もちろん、ミナリーン、君も一緒に行くんだろう?」
ミナリーンは顔を赤らめ、嬉しそうに頷いた。
「わ、私は...レイトさんたちのお邪魔にならなければ...」
「お邪魔なわけないだろう」
レイトはエリアスの恐ろしい目つきに
気付かないフリをしながらソルベを口に運んだ。
レイトは、異世界で初めて、必要とされている感覚を噛み締めていた。呪いかもしれない力があっても、彼は一人ではなかった。
彼らの旅は、偶然にも一致した古都ザフィアを次の目的地とし、呪いの真実と、黒幕の影に向かって、再び動き出す。
つづく。




