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第1話:異世界転生したら、手数は多い方がいい

気がついたら、死んだはずの僕は、剣と魔法の世界にいた。

誰もが羨む夢のような転生。


のはずだったが…魔法が使えない無能だった。


絶望と劣等感を抱える中、俺は気づいたんだ。

女の子と手をつなげば、その子の魔力を剣に宿し

最強の力を振るえることを。


だけど、僕はまだ知らない。

この世界が、異世界なんかじゃないってことを。

そして、最初に手放したのが「女神」だということを。


この物語が、あなたの心に少しでも残りますように。

◾️目覚めと女神


全身を包む温かい感覚と、草木の生える土の匂いで

彼はゆっくりと意識を取り戻した。


「……ん?」


瞼を開くと、見慣れない青い空の下

横向きの美しい女性の顔が目の前にぼんやりと映る。

彼は膝枕をされていた。


僕はまだ呆然としていた。直前まで、僕は交通事故に遭い、身体中がバラバラになるような、激しい衝撃を感じていたはずだ。


「……女神、なのか?」


そう問いかけると、美しい顔は微笑んだように見えた。

その微かな微笑みに、なんだか安堵を覚えた。


彼はゆっくりと上半身を起こした。すると、彼の頭を支えていた彼女の膝が、ガラガラと音を立てて砕け散り、ガラクタへと変わった。


なんと彼女は人形だったのだ。


僕は、その光景を前に、何が起こったのか理解できなかった。ただ、その崩れ落ちた残骸が、この世界の「女神」だったのかもしれないと不思議な感覚を覚えた。


「えーっと、女神にこんな登場の仕方があったっけ…?」


一瞬の静寂の後、最早どうでもいいという感情が全身を駆け巡り得体の知れない解放感と高揚感に彼は震えた。


「僕にもついに巡って来たんだ、異世界転生キターーー!」


そう、僕は転生したのだ。

長年夢見た、きっと剣と魔法が飛び交うファンタジー世界なはずだ。さっきの膝枕は恐らく初期スポーン地点か何かだろう。


私は帰り道に交通事故に遭ったことは覚えているが、全体の記憶が曖昧だ。ぼんやりしていて思い出せない。


しかし、教室の隅で異世界転生モノの可愛い女の子から

モテモテになる妄想をしていたことだけは鮮明に覚えている。


そう、新しい世界で、僕は実現させるのだ。


◾️ギルドと武具屋の頑固親父

彼は新鮮な風が靡く平原と深い森林地帯の間に

位置する小さな丘に立っていた。


その斜め45度をキープする太陽の圧が強い。

遠くには無限にも存在を誇示する巨大な山脈が

薄らと存在を主張している。


「何も起こらない…転生したらさ、脳内に直接語りかけてくるステータス読み上げ子さんとか、出てくるはずだよな」


「何か特殊な才能やチートとか…ああ、空とか飛べないのか?」(彼は手を掲げてみるが何も起こらない。)


突然、空腹に耐えかねた彼のお腹が鳴る。


「そういえば、異世界の食べ物にも興味があったんだよな」


彼は森に入り、果実が成っていないか探したが見つからず

諦めて奥に進むと川が流れている音が響いてくることに気づく。


「川だな!ならまずは、魚を獲って食べるのもいい」


彼は河岸に落ちている小枝を集め、一生懸命摩擦を加えたが一向に火をはつかない。


「遭難系サバイバル動画のやつ、うろ覚えで真似したけど、全然ダメじゃんか」


彼が擦る手を止めため息をついていると

森から一人の少年が近づいてきた。


その少年は、10歳いかないくらいの歳だろうか。

僕が焚き火を起こす様子を見て、なぜか目を輝かせていた。


「おにいさん、ここら辺の人じゃないよね、どこのひと?」


これは日本語?少し違和感があるけれど確かに日本語だ。

異世界モノならまぁ喋れて当然な設定が多いから不思議では無いか。


「えーっと、たぶん…かなり遠くから来たんだ。俺の名前はレイト!よろしく」


彼はペペロンという名前の少年だった。羊飼いらしい。

森の茂みから羊が数匹、頭だけ出してマヌケな顔でこちらを覗いていた。


「へー、こんな面白い火の付け方があるんだね!おとうさんなら杖で一瞬で火をつけるのに」


ぐぬぬ…異世界に来て早々

すでに馬鹿にされてる感じがするー


「魔法使いか何かなのか、君のお父さん。すごいな、ハハ」


ペペロンがレイトの耳を不思議そうに見つめる。


「ん?でも、おにいさんの耳に…無い。いやっ、なんでもない!」


ペペロンが誤魔化したのは何となく分かったが深くは考えなかった。何か耳がおかしいのだろうか?痛くは無いが転生前の怪我が残ってるとかしてるのだろうか。


ペペロンは羊を連れて街に戻る途中だったという。

街に行けば、ギルド的なところでクエストを受け、モンスターの素材を売ってお金を稼ぎ、生活していけるだろう。

そういうものだと決まっている。


レイトは永遠に火のつかない焚き火を諦め

一緒についていくことにした。


川沿いの街道をしばらく歩くとペペロンの住む街に到着した。目の前に広がる中世風の街並みに心躍らせながらも

この世界の貨幣価値も、生活の知恵も知識も、レイトにはまだまったく分からなかった。


ペペロンは「冒険者ギルド」の場所を教えてくれた。

そこに行けば、仕事と生活の情報が手に入る、と。


レイトはペペロンに別れを告げ

冒険者ギルドの館にたどり着く。

扉を開けると、中は男臭い冒険者で賑わってる

と思いきや意外にも人はおらず、閑散としていた。


「なんか全然イメージと違うなぁ…落ち着いてる雰囲気だ」


レイトは受付に挨拶をした。

受付嬢は、可愛い受付嬢のイメージ通りでテンションが上がった。


この世界での戦闘は主に魔法がメインだということ。

そしてギルドランクによって仕事の選べる内容が増えるということが分かった。


ギルドランクはSが一番上、一番下がDランク。クエスト完遂の功績度合いによってランクが上がる仕組みらしい。

Cランクから月給が発生するらしいから、冒険者はまずCランクを目指して頑張るらしい。


ギルド登録は初回無料とのことだ。

現在、一文なしだから無料でよかった。


魔法が使えるかどうかは耳に模様があるかないかで判別できるらしい。受付嬢は僕の耳を見つめてため息をついた。


「……魔法が使えないなら、それじゃ、危険な依頼は受けられないわね。生活費を稼ぐなら、簡単な採取依頼しかないわ」


いきなり壁にぶち当たった。せっかく異世界に来たのに

魔法が使えないなんて…


「いやぁ、何か自分、特殊能力とかあるんですよ絶対、ハハ。もっと調べてくださいよ」


レイトは頭をかき、笑って見せたが

受付嬢は哀れみの顔を淡々とレイトに向ける。


「はいはい、これがあなたのギルドカードです。」


革製品のカードを手渡される。彼は書いてある文字が読めなかった。日本語ではなさそうだし、なぜか異世界モノ都合で読めたりもしなかった。


「文字も読めないんですね…まぁ頑張ってください」


Dランクと言われたカードを握りしめ、がっかり感を抱きながら、レイトは”物理的”な希望を求め近くの武具屋を訪ねた。


店の中には、錆びついた剣や歪んだ鎧が

所狭しと並べられている。


「おい、坊主。こんなところで何してる」

奥から、髭面の頑固そうな親父が顔を出した。


「あのー、武具が欲しくて、自分はたぶん英雄になる運命の者なんですけど、近づくと反応して光る聖剣とか無いですか?」


「はぁ?お前みたいなひ弱な坊主が、英雄だなんて笑わせるな。見た感じ…魔法も使えないんだろ?」


悔しさで何も言えなかった。しかしそこで諦めては終わりだ。聖剣でなくとも武器だけは手に入れて見せる。

金はないが知識では勝るはずだ。


レイトはその時、店の一角にある、奇妙な鉄の塊に目を留めた。それは、一見するとただのガラクタだが、それが焼き鈍しが足りない不純な鉄であることが分かった。


「親父さん、この鉄、もう少し熱してから鍛えれば、もっと強度が増すんじゃないですか?」


レイトの言葉に、親父は目を見開いた。

「ほう、坊主。ただのガラクタに見える鉄が、そんな風に見えるのか?」


前世で得た工業高校の授業での知識を、必死に思い出しながら話した。鉄の組成や、熱処理、鍛造について語り続けると、親父は次第に真剣な表情になっていった。


「その知識、デタラメではなさそうだな……面白い。俺の勘が、あんたはただの変わり者じゃないって言ってるぜ。よぉし、この店にあるマシな剣を、一本ただでくれてやる。無力でも学があるやつってのはこれからがある、応援したくなるからな。」


こうしてレイトは剣を手に入れることができた。

剣はおそらく中古品。前の持ち主の名前らしき文字が刻まれているが読めない。


剣の持ち方も知らない彼だったが、握れば使えるはずだ。

この世界で生き抜くための最初の武器となった。


◾️洞窟での出会いと共同戦線


レイトが受けた依頼は、報酬が低い《採集依頼:洞窟に生える薬草の採集》だった。この世界で生活費を稼ぐため、その依頼を引き受けた。


しかし、洞窟で待っていたのは、おそらく初心者にはどうにもならない凶悪スライムだった。草採ってる場合じゃなくて草…絶体絶命のピンチに陥った。


その時、どこからか、甲高い声が洞窟内の奥から響き

火の玉が空気を切り裂く音と共に顔の横を掠めてスライムに直撃する。


「この役立たず!そんなに弱いなら、最初から来るんじゃないわよ!見ていて腹立つ」


声の主は、一人の美少女だった。暗闇からシルエットが浮かび上がる。お父さん似だろうか、どこか猛々しい感じがあるが幼さが残る。身長は自分より低く、赤毛のアシンメトリーヘアーにサイドポニーテールという隠し味が揺れている。


彼女はオレンジの魔石が装飾された杖のレバーを引く。

薬莢が飛び出し、カランコロンと転がる。

仕組みはまるで、単発式銃を応用したもののように見えた。


「そ、それは、杖なのか?」

尻餅をついたレイトはアホ面で彼女を見上げている。


「これは”魔銃”よ!そんなことも知らないのね」


彼女はサイドポケットから赤く光る銃弾のようなものを

取り出し杖に1発装填する。


「まだ、ウザいのがいるじゃない」


2発目放つが、当ててもすぐに自己再生する凶悪スライムを前に苛立ちを隠せない様子だった。彼女は僕と違う依頼を受け、この魔物を討伐しに来たのかもしれない。


「ちょこまかと、こいつ!私がなけなしの金で買った弾がもったいないじゃないの!!」


レイトは役に立とうと立ち上がり必死に剣を振り回した。

スライムは俊敏に避ける。


「バカ!無闇に動かないでよ!こいつ、背中に急所の核があるの!正面に引きつけてよ!」


彼女の魔銃の装填は時間がかかる。

その隙にレイトはスライムをなんとか引きつけ

彼女に背後を取らせた。


「別に、あんたを助けるわけじゃないわ。たまたま邪魔な魔物がいたから、退治するだけよ!」


彼女の杖から放たれた銃弾のような火球がスライムに背中を貫く。レバーを引き薬莢が排出される。


カランコロンと薬莢が地面を転がる。

スライムは死んだようだ。


そっぽを向く彼女に、僕は少し戸惑った。しかし、彼女が一人でここにいたことや、魔銃だけでは厳しいことに苛立っていた様子が、彼女の孤独を物語っているようだった。


「俺は、レイト。君は?」


僕が尋ねると、彼女はふんと鼻を鳴らし

少しだけ顔を赤らめ、名前を放った。


「……エリアス。エリアス・マードックよ!覚えておきなさい!」


彼女はマードック家の次女で、父親と喧嘩し、家を飛び出して来たらしい。貴族か何かかだと思う。


絶対探されてるよな…。

というか僕は誘拐犯にされないだろうか心配だ…


◾️協力者


その後、レイトとエリアスは、この洞窟で数時間を過ごすことになった。協力しなければ、この魔境を生き抜くことは難しいと判断したからだ。


洞窟を進めば進むほどスライムの群れに囲まれた僕たちは、互いの背中を預け、必死に戦った。エリアスの魔導弾を放つための時間稼ぎとして、僕が剣を振り回し、魔物の攻撃を引き付けるという戦術が確立しつつある。


「ちょっと、レイト!もっと時間稼いでよ!装填がまだ!」


「仕方ないだろ!俺の剣術なんて、ただの素人なんだから!」


そんなやり取りを交わしながら、僕たちは少しずつ互いのポジションを獲得した。


僕は体当たり攻撃で吹き飛ばされ、追加の触手攻撃の絶体絶命のピンチに陥った。エリアスが僕の前に立ち魔導弾を放とうとするが間に合わない。恐怖のあまりその時、僕はとっさにエリアスの手を掴んだ。


その瞬間、僕の身体に、これまで感じたことのない力が満ちるのを感じた。そして、僕が意識を集中させると、持っていた剣が炎を帯びた。


レイトは立ち上がり勢い任せに剣を振り回すと

炎の刃が放たれる。


暗い洞窟が昼間のように明るく、閃光が目を覆う。

スライムの集団を核ごと焼き尽くした。


「……え?どうして、あんたの剣が炎を?」


驚くエリアスの言葉に、僕は何も答えられなかった。

ただ、手をつないでいる時だけ、炎の魔法を剣に宿せるようだ。


魔法が使えないことに既にコンプレックスを抱きつつあったが、この能力を知った瞬間、エリアスと一緒にいれば最強になれるというメリットを見出した。


僕たちは互いの弱点を共有する、協力者(パーティメンバー)となっていた。


「……おれ、最強じゃん」


そう思った。この世界で、誰からも必要とされる、特別な存在になれるのだと信じた。


つづく


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